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Lemon Squeezy: 日本からでもSaaSの海外展開ってできるの?

インターネットでさまざまなコンテンツやサービス展開をする企業や個人が増えていますが、日本市場を超えて海外展開となると二の足を踏む人が多いのではないでしょうか?

商品やサービスの販売時に言葉や文化の壁が立ちふさがるのは当然として、それ以外にも

  • 支払いプロセスはどうするのか?

  • クロスボーダー取引の税金はどうなるの?

  • 不正取引とかに巻き込まれない?

なども超えなければいけない大きな壁となっており、これは日本企業だけでなく世界共通の課題になっています。だからこそYouTubeやInstagramなど確立されたプラットフォームを利用してマネタイズする方法を考えるのにみんな時間を割いているのでしょう。

このような問題を解決するために、近年いろいろな国で広く使われるようになってきているのがLemon Squeezyです。

Lemon Squeezyはeコマースプラットフォームとして

  1. 電子書籍、PDF、画像、動画などデジタル製品の販売

  2. 月額、年額、その他サブスクリプションモデルでのサービス提供

  3. 国際的な税務コンプライアンス(EUの付加価値税VATなど)を自動処理

  4. クレジットカード、PayPalなど、多様な支払い方法に対応

  5. メールマーケティング機能の提供

など、ネットでデジタル製品やサービスを提供して支払いを受けるために必要とされる様々な機能の提供を実現しています。

ということで、今回のブログ記事ではLemon Squeezyについて説明していきたいと思います。


1. 会社概要

サービス名:Lemon Squeezy
会社の名称:Lemon Squeezy LLC
本社所在地:アメリカ ユタ州
設立:2020年
評価額:不明

Lemon Squeezy(以下LS)は2020年にJ.R. Farr氏を中心に設立されたフィンテック企業で、ユタ州のソルトレイクシティに拠点を置いています。

社名にレモンと入っているので食品系の会社かと思いきやオンラインでの決済を専門とする会社で、クリエイターがデジタル製品を販売するためのソリューションとして2021年1月にリリースを出しています。ちなみに社名はeasy, peasy, lemon squeezyという「とても簡単なこと」を表す英語の表現から取られており、「簡単にeコマースビジネスを実現できるよ」ということを伝えたいようですね。

その後マーケティング機能クロスボーダー販売時の税金対応など、痒いところに手が届く機能を順次展開して注目を集めていき、ついに2022年10月に大きなアップデートが発表されます。これまでの機能に加え、ネット上でSaaSを展開している企業などに対しサブスクリプション管理、サブスクリプションAPIなどの機能を提供し、オンラインの総合的な決済ソリューションとして急成長していくことになります。

創業者J.R. Farr氏のLinkedInより

このように順調に機能を拡張し売上を伸ばしてきたLSですが、2023年11月のポッドキャストでは5000万ドルの評価額でのシリーズAを拒否したことが明かされており、これまでVCから資金調達はしていないようです。創業者のJ.R. Farr氏はいくつものスタートアップを立ち上げた経歴を持ち自己資金があったので、初期の段階からブートストラップで十分回せていたようですね。

2. 特徴と利点

ではなぜユーザーはLSを使うのでしょうか?さまざまな機能を提供している以外に、他の競合企業が持っていない魅力は何なのでしょうか?

上の画像は2021年フリーランスエンジニアの方がツイートしたものですが、製品を海外販売する時に税金対応してくれるソリューションが他に無かったということを想起させてくれますね。その後のSNSの反応を見ていっても、やはりオンライン販売は税金対応がとても面倒くさいので、多少の手数料を払ってでもLSのようなサービスにまかせてしまうというのが大きな成長の要因になっているようです。

Twitter @lmsqueezy より

また、メールマーケティングも人気の機能になっています。MailChimpなどと比べても価格は良心的なようです。

購入者が製品やサービスを購入する際には、VisaやMastercardなどのクレジットカード(中国の銀聯や日本のJCBも含む)、PayPal、Apple Pay、Google Payなどさまざまな支払い方法に対応しています。

ただし、販売先によっては支払いを受け取れない点は注意が必要です。ほとんどの先進諸国では問題ないのですが、販売できない国の一つに中国が含まれています(参照)。

3. 実際の使用例

できれば使用例も説明できればと思うのですが、僕には販売するものが特に無いので以下の映像を見て貰うのが一番わかりやすいかもしれません。支払いと販売製品を結びつけてしまえば、あとはそんなに難しくないですね。

どのような製品を売るのかによってプロセスが変わってくるのですが、例えば一回限りのアート作品を画像データで販売したり、何らかの情報商材などを販売する場合は以下の画面にあるように「Media」や「Files」に当該商品を放り込み必要な情報を入力した後、画面下の「Publish product」をクリックします。価格もこの画面で決定します。

販売する製品ごとに異なるURLが発行されるので、これを例えばTwitterやFacebookなどのSNS、または運営しているウェブサイトなどに貼り付ければ販売が可能になります。

サブスクリプションモデルで販売する場合には下の画面のようにSubscriptionを選び、同様に価格を設定します。その下で支払い頻度や無料トライアル期間を設定できます。多くのサブスクリプションサービスは月に一回、または年に一回の支払いでしょうが、一週間ごとや一日ごとの課金も設定可能なようです。

ここに紹介した以外にも販売したファイルのバージョン管理や、問題があった場合の払い戻し機能、インボイスの発行などさまざまな機能が提供されているので、気になる方はこちらのLSのページからご確認ください。

4. 値段

LSの価格は下の画像に出ているように、取引金額の5%プラス50セントという構成になっています。サイトで説明しているとおり、この金額でクレジットカードの決済手数料や為替手数料、さらには税金の支払いまでカバーしているということですが、アメリカ国外の取引には追加で1.5%、PayPalの取引にはさらに1.5%、サブスクリプション料金には0.5%を追加で請求するということです。

Lemon Squeezy価格表

下は販売商品の料金が20ドル、税金が20%の例です(当然ですが各国で税金のパーセンテージは変わってきます)。購入者が24ドル支払っていますが、プラットフォーム料金として2.06ドルと税金4ドルを差し引き、ユーザーが実際に受け取るのは17.94ドルとなります。

ユーザーは税金の支払いを心配する必要がなくなるのですが、「24ドルを貰えるはずだったのに17.94ドルしか受け取れないのか?」と考えてしまうと少し高いと考える人もいるかもしれません。しかし脱税を考えているのでない限り、税金の4ドルは自分で払うかLSに任せて払ってもらうかの違いになります。手間を防ぐためのシステム利用料としてどう捉えるのかによって、理解が変わってくるかもしれませんね。

5.競合

フィンテック業界は競争が激しいので、広い意味での競合相手は多く存在していそうですが、いろいろな情報を総合すると

  • 単なる決済システムの導入であればStripe

  • デジタル製品の販売であればGumroad

を使っている人が多いようです。しかしStripeは実店舗での決済を主に想定しているためかクロスボーダーの税金対応が十分ではなく、Gumroadは手数料が高いという評価を広く受けているようです。また、Gumroadはデジタル製品のマーケットプレイスとして機能する一方で、SaaSの販売には対応して無さそうなので直接的な競合とは言えないでしょう。

最も頻繁に競合として取り上げられているのはPaddleです。イギリスに本社を置くPaddleはSaaSの決済ソリューションを提供して10年以上の歴史を持っているため、すでに多くのユーザーの信頼を得ているようです。2022年には
2億ドルのシリーズD資金調達
を成功させて14億ドルの評価を受けているユニコーンです。

Paddle

すでにユニコーンになっているPaddleと資金調達すらしていないLS(5000万ドルの評価を受けたことはあり)では勝負にならないような気もしますが、Redditで両社を比較したスレッドを見てみると実際にはそれぞれ利点があり、LSは料金が少し割高になる場合がある一方でUIやUXが優れているという評価のようです。

また、販売先の国全てで税金手続きが必要になるStripeやPaypalとは違い、Lemon SqueezyとPaddleはともにMerchant of Recordに該当しているため、一括で税金対応できます。海外販売が多いユーザーにとっては大きなメリットがあるでしょうね。

とここまで書いてきたタイミングで、なんとStripeがLemon Squeezyを買収したというニュースが入ってきました(2024年7月26日)。記事にはStripeが競合相手であるLSを買収したと書かれていますが、このブログに記した通り完全な競合ではなかったので、どちらかというとターゲットできていな層を取り入れるための買収と言えるでしょう。

とは言え、ユーザーの中にはStripeに取り込まれたくないので別サービスを探し始めた人もいるようですね。今後どう進化していくのか注目していく必要がありそうです。

6. ターゲット市場

それでは日本市場ではどのような層がターゲットとなってくるのでしょうか。LSが主に想定しているのはソフトウェア・SaaS、電子書籍、PDF、デザイン商品、写真、音声、映像などの商品です。性的なコンテンツやネズミ講のような商品は禁止されています。

LSが提供しているケーススタディを見ると、Figmaを使ったデザイン製品や、ChatGPTやWordPressのUI販売などで使われているようです。日本でこういったボーダーレスに売れそうなサービスを販売している個人や企業がどれだけいるのかわからないですが、日本市場だけではなく海外でも販売できるようになれば参入する人も出てくるのではないでしょうか。

また、日本ならではということで漫画やアートのデジタル作品を海外向けに販売するということにも活用できそうです。TwitterなどSNSで作品を発表してAmazonなどのプラットフォームに誘導するアーティストを見かけることがありますが、LSを使えばプラットフォームに依存すること無くグローバルに作品を展開できるので、日本市場でこそ大きな可能性があるサービスではないでしょうか。

7. まとめ

Lemon Squeezyは「プラットフォームに依存せずデジタル製品を販売していきたい」という新しいニーズを見つけて成長してきたソリューションの一つで、特にUIが優れており海外販売にも対応することで大きく市場シェアを伸ばしてきました。

ぱっと調べた感じでは日本で使っているユーザーはまだ少なそうなのですが、日本のようなコンテンツ王国こそ海外販売を伸ばしていく可能性が大きいので、こういったソリューションを積極的に活用していくべきではないかと思っています。

LSは買収されたので今後はStripeの製品ラインアップの一部として提供されていくことになると思うのですが、今後もこのビジネスがどう成長していくのか要注目ですね。

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