「業界を超えての連帯が、多様性ある社会をつくる」──ホテル、飲食、ナイトカルチャーの最前線で動く3人が語る、文化産業の今までとこれから
都市において重要な文化拠点である飲食店やホテル、クラブ、ライブハウスがCOVID-19の影響により打撃を受けているなかで、現状を乗り越えるためにはどのようなアイデアが必要なのでしょうか?
この問いに答えるべく、『Night Design Lab』では「ホテル、飲食、ナイトカルチャーを持続させるためのアイデアを探して」をテーマにオンラインイベントを開催。
HOTEL SHE,などを手掛けるホテルベンチャーL&Gにて企画・戦略全般を担当する編集者の角田貴広、コミュニティプロデューサーであり、カフェ・カンパニー・グッドイートカンパニーに所属する永井あやか、そしてナイトデザインカンパニーであるNEWSKOOL CEOの鎌田頼人が、ホテル、飲食、ナイトカルチャーの3つの視点から、各業界での取り組みと業界の垣根を超えた文化産業の未来について語り合いました。
今回は、これからの業界を担っていく3人の登壇したイベントから、ニューノーマルな時代の文化産業のあり方について探ります。
ホテル業界での取り組み
インバウンド需要の減少や人々の外出機会の減少を背景に、多くのホテルは休業を余儀なくされました。ホテル営業の売上を得られない中でも、収益を担保するために、業界の未来を守るために、角田氏はさまざまな実験的な取り組みを行いました。
オンライン上の架空のホテル「HOTEL SOMEWHERE」
「ゲストと人、街、文化をつなぐことで、この場所ならではの経験を提供する」というホテルの価値を、ホテルが休業中でも人々に伝えるためには何ができるのか?ニューノーマルな時代のホテルのあり方のひとつとして始まったのが、オンライン上の架空のホテル「HOTEL SOMEWHERE」です。noteを通じてさまざまなコンテンツが配信されています。月額購読で読者から収益を得ることで、持続的な経営を可能にしました。
ウィズコロナのホテル経営を模索する「New Normal for the Hotel Business beyond “with Covid-19”」
ニューノーマルな時代のホテル運営のあり方と、自社が目指すべき今後の事業方針についてまとめた資料「New Normal for the Hotel Business beyond “with Covid-19”」を発表しました。ニューノーマルなホテル運営の1つの指針を示すとともに、ホテル業界全体で連帯し、課題に取り組んでいく基盤をつくりました。
業界復興への思いから生まれた「勝手にGoTo説明会」
政府から発表された「GoToキャンペーン」についての不明点を明確にし、現場目線からその活用法について解説する「勝手にGoTo説明会」を開催しました。収益に固執せず、思いのみで行った説明会ですが、多くのホテル経営者からの反響があり、官民の連携のプロジェクトにまで広がりました。
業界を超えてのコラボレーション「毎月とどく、結婚式の定期便」
ホテル業界とともに大きな打撃を受けたブライダル業界。2つの業界が手を取り合うことで生まれたのが結婚式の定期便「SHE, is CRAZY about THE DAY」です。新しい結婚式のかたちとして、半年間をかけて、お互いを知るためのさまざまなコンテンツを配送する定期便サービスです。
飲食業界での取り組み
感染症流行に伴う緊急事態宣言の発令により、20時での閉店を余儀なくされた飲食店は、多大な経済的打撃を受けました。厳しい状況が続くなかでも、永井氏はこの状況を「既存の業界の仕組みにとらわれずに、未来への打ち手を大きく示せる時期だ」と捉え、ニューノーマルな時代の飲食店の役割を模索する取り組みを行いました。
政府に向けた業界復興提言集の作成
2020年4月、COVID-19により飲食業界は混乱の最中にありました。政府による補償の体制が整わない中でも、営業時間の短縮や休業を余儀なくされ、多くの飲食店が廃業の危機にありました。この現状を打破するため、永井さんの所属するチームは政府に向けた業界復興提言集の作成を行いました。
業界の未来を守る体制を作るため、業界が直面する課題の共有と文化産業が未来にもたらす価値の可視化を行いました。作成した提言集を起点として政府とのコミュニケーションを重ねることで、政府の文化産業支援体制の構築に大きく貢献しました。
今すぐ申請すべきコロナを乗りきるための支援策まとめの作成
飲食業界が混乱している要因のひとつに、政府からの支援策情報の錯綜がありました。政府や各省庁が様々な対応に追われているなかで、永井氏の所属するチームは支援情報の取りまとめを行いました。「ひとりでも多くの店主さんや経営者さんに届いて、お店の命をつないでいただけますように」という思いとともに行われたこの取り組みは、業界の未来を切り開く意義深いものとなりました。
業界を超えた良好なエコシステムをデザインする「GOOD EAT CLUB」
提言集の作成によって蓄積されたノウハウを現場レベルで活用していくため、永井氏の所属するチームは「GOODEATCLUB」という食のECサイトの運営を開始しました。マーケットアンドファンクラブをテーマにしたGOODEATCLUBでは、サイト上で商品を選んでから、それを食べ終えるまでの全ての時間を楽しんでもらうべく、店舗と協力した商品開発や特集記事による商品紹介しています。
また、GOODEATCLUBのもう一つのテーマとして「業界間の分断をハーモナイズするエコシステムとしての役割」があります。今までの飲食業界が抱える課題として、生産・加工・流通・小売・外食という5つの分野が独立しており、連携が取れていないというものがあります。GOODEATCLUBではこの問題を解消するため、ECサービスの共創を通じて、各分野を統合していくことを目指しています。
ナイトデザイン業界での取り組み
ライブハウスやクラブといったナイトベニュー業界は場所の存在価値を認識してもらう必要性があり、他の業界からは一歩遅れたところからのスタートでした。感染リスクが高く、危険な場所だという夜の街のイメージをいかに払拭していくべきか。ナイトベニューの価値を可視化し、その活用可能性を模索するため鎌田はさまざまな取り組みを行いました。
ナイトタイム復興のガイドライン「Global Nighttime Recovery Plan」
NEWSKOOLでは、ナイトベニューをどのように復興させていくべきかをグローバルな視点で議論したガイドライン「Global Nighttime Recovery Plan」の日本語版を作成しています。「屋外空間の活用」や「感染リスクを抑えたナイトベニュー運営」などをテーマに業界復興に向けたさまざまな知見の共有を行っています。
業界を超えた連帯に向けて作成した新時代の店舗経営ガイドライン
新時代の店舗経営ガイドラインでは、店舗のコンセプトの再設計や新サービスの開発、業態転換の可能性の検討など、ウィズコロナ・アフターコロナでの店舗運営を行う上でヒントとなる思考のフレームワークや先行事例を紹介しました。
多様性のある社会に向けて
ホテル・飲食・ナイトベニュー、それぞれの業界で活躍する3人の取り組みの共通点として「業界内外での連帯を強めていくこと」があります。ガイドラインの作成や、サービスの共創を通じて、ステークホルダー同士の結び付きをより強固することで、社会の抱える問題に対して、協力し立ち向かっていくことを目指しています。
COVID-19により人を集客することによって収益を得るビジネスモデルは成り立たなくなり、文化産業の存続に関する緊張感が高まっています。しかし、このような緊張感は、業界を超えての連帯を推し進めるための触媒になり得ます。人々のライフスタイルを豊かにするという共通の目的意識のもとに、より多角的な視点から文化産業と人々との良好な関係性を考えていくことが、より豊かで多様性のある社会をデザインしていくための鍵となることでしょう。
(TEXT BY KAI KOJIMA, EDIT BY KOTARO OKADA, ART DIRECTION BY HARUNA WATANABE)
『Night Design Lab』とは?
新たなる「夜の価値」を探す研究機関です。国内外のナイトタイムエコノミー事例やナイトカルチャーに関わるキーパーソンへの取材、ナイトタイムの課題や新しい楽しみ方の提案、インサイトの発信を行います。
https://newskool.jp/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?