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LINEヤフーと朝日新聞社のプロジェクトマネージャーに聞いた——「ニュース健診2024」制作の舞台裏

いま、フェイクニュースやデマなどの「偽・誤情報」は誰もが目にする可能性があります。私たちはあふれる情報とどう向き合うべきか。真偽を見極めるために気をつけること、そのために必要な知識とは何なのか。LINEヤフーと朝日新聞社が共同で制作した「ニュース健診2024」は、ニュースや情報を正しく判断する力をクイズで身につけることができるコンテンツです。制作現場をリードしたLINEヤフーと朝日新聞社の両プロジェクトマネージャーに、制作の裏側や今後の展開について聞きました。(取材・文:Yahoo!ニュース)

ニュース健診2024

木村 円
朝日新聞社 コンテンツ編成本部

上野 剛太郎
LINEヤフー メディアカンパニーヤフーメディア統括本部

※敬称略

「ニュース健診2024」なぜ共同で制作したのか

——10月15日に始まった「ニュース健診2024」の参加者数はのべ100万人(10月29日時点)を達成し、たくさんのユーザーがクイズに取り組んでくれました。共同で制作した背景を教えてください。

上野:
フェイクニュースなどの「偽・誤情報」が社会問題化しているなかで、今年7月頃に両社で何らかの取り組みをできないかという話が出ました。大きな選挙のある時に偽・誤情報が増える傾向は把握していました。11月にはアメリカ大統領選が控えていましたし、「ニュース健診2024」の取り組みを進めるなか10月27日には衆議院選挙が決まりました。インターネットが抱える課題に対して、朝日新聞社さんとLINEヤフーが共同でアプローチする。伝統的メディアの朝日新聞社さんと組むことで、幅広いユーザーに届けられたのではないかと思います。

木村:私たち自身も発信するメディアなので、情報と正しく向き合えるメディアリテラシーを一番大事にしています。読者が情報への理解を高めることに貢献することが、そもそも会社のミッションとしてあります。今回クイズを作ることで気づいたことがありました。朝日新聞デジタルを調べたら、メディアリテラシーを総合的に取り上げたコンテンツが見つからなかったんです。フェイクニュースやフィルターバブルなど個別の問題を扱った記事や、識者のインタビューなどはあるのですが。一度真正面からやっておかなければいけないことだと、私たち自身が勉強する思いで取り組みました。

社会問題になっている「フェイク画像」に関するクイズも出題している

クイズ結果に見る年代別の傾向は

——全15問のクイズは、フェイクニュースやSNSの炎上、生成AIに関する問題など幅広い内容になっています。

上野:
本当に多くのユーザーにクイズを受けていただいています。全15問の年代別の正答率(10月29日時点)でもっとも高いのが30代で69.7%です。次いで40代の69.4%、20代の68.9%と続きます。もっとも低いのは70代の56.5%でした。

「フェイクニュースをうのみにしてしまった経験はあるか」という質問に対して、「ある」と答えたのは10代がもっとも多く27.8%と最多。次いで20代が27.1%で、世代が上がるにつれて「ある」と答えた人は減っていきます。同じ質問で「ない」と答えた世代でもっとも高かったのは70代以上で60.1%、次いで60代の58.1%。中身に関して精査が必要ですが、この結果は今後も注視していきたいですね。

「ある」と回答したのは10代が多く、「ない」と回答したのは70代以上が多い結果に

「解いて終わり」ではない。その先にこだわる

——コンテンツでこだわった部分について。朝日新聞社は「朝日新聞デジタルアプリ」で、時事クイズ「ニュースQ」を作っていますが、制作ノウハウで生きた点などはありますか? 

木村:やはり体験づくりです。クイズという形式は汎用的で潜在力が高いですよね。ユーザーに問いかけて答えてもらう。問題に取り組み、答えが出た時に人は「合ってた!」「間違った!」などの感情が出ます。気づきや学びが生まれる絶好のチャンスなので、答えを知った時にユーザーが「その先を知りたい」と感じたところをフォローすることが大事です。「ニュース健診2024」では、解けるか解けないかというよりも、よいユーザー体験を作ることを意識しました。

全体のバランスは考えました。社内で議論するなかで、ユーザーの役に立つものがよいだろうと、3つのコース「読みとく力」「見分ける力」「発信する力」にしました。身近な問題で、ユーザーが陥りそうな偽・誤情報に気をつけられるような観点も網羅したつもりです。

——Yahoo!ニュースは2022年に「Yahoo!ニュース健診」を作った実績がありますね。

上野:今回の取り組みは前回好評だった「健康診断」をモチーフとした作りを踏襲し、さらにアップデートをしています。情報に向き合うためのポイントとして3つのコースを設定し、設問ごとにどのようなポイントを問われているかがわかりやすいよう工夫しました。クイズを解いた後の診断結果ページでは、より理解が深まるよう各コースに「処方コンテンツ」として、記事と動画を用意しています。前回、監修のご協力をいただいた平和博さん(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)には解説動画に出演いただきました。

「ニュース健診2024」の流れ

率直な議論ができる制作体制だった

——今回、どのような体制で取り組んだのでしょうか。

上野:LINEヤフーは、編集、デザイナー、エンジニア、広報などを中心に幅広い職種の方が横断的に取り組みました。

木村:朝日新聞社も、いろんな部門が足並みをそろえて参加しました。編集、ビジネス、広報、その裏側ではデジタル技術の部門もいて、まさに全社レベルで取り組んだ実感があります。私が所属しているコンテンツ編成本部は、いわゆる取材をして記事を書く出稿部門に対してコンテンツを編集したり編成したりする編集者の組織ですが、多くが記者出身です。社会部、経済部、国際報道部など、多様な部門を経験して集まったメンバーでクイズを作りました。

上野:よかった点は、両社が議論できる体制で進められたところです。最初のキックオフで、両社の主な役割分担を決めていて。ページ制作と開発の主担当はLINEヤフーが担い、クイズや全体監修の主担当は朝日新聞社さんにお願いしました。この「主たる担当」というところが非常に重要なポイントで、サイトのデザインや設計等については朝日新聞社さんからも意見をもらいますし、私たちもクイズの内容等について意見させていただきました。両社で協業するメリットを生み出すために、質問や意見を積極的に交わし、目線合わせを行うことは重要でした。定例会議の場以外でも、チャットツール「Slack」などで細かくやりとりをさせていただいたことで、現場同士での目線合わせがしやすかったです。

木村:私もその点は強調したいですね。両社が共同で取り組んだプロジェクトというところは大きいと思います。会議や会話は全てオンライン上でやりとりしたので、まだ実際にはどなたともお会いできてはいないですが。

——苦労した点はありますか。

木村:クイズを作ること自体に苦労しました。時事クイズ「ニュースQ」は、例えば元となる新聞記事があって、面白そうなものを選んでクイズにできます。今回の場合は、元になる新聞記事がありませんでした。ゼロからのスタートで、15問のクイズと解説を作るというところが七転八倒でもがきました。難易度の調整も苦労し、デスクの1人が海外メディアのクイズを探して、どのぐらいの難易度が妥当なのかを比較検討しています。それでも初稿を出した時、Yahoo!ニュースさんから「クイズが難しい」という意見をもらい、半ばショックを受けました。わかりやすさを意識しながら修正していくことは勉強になりました。

上野:クイズの原案をいただき、私たちも社内で何度も議論を行いました。表面的な修正を依頼するだけでは共通認識が得られないため、「どういう意図で修正を希望しているのか」を伝えることに重点を置いてフィードバックしました。苦労というよりは注力した点になりますが、両社での定例会議に付議するために2段階の社内会議を経て資料を作成するなど、議論するための事前準備について、丁寧に取り組むように心がけました。

「読みとく力」「見分ける力」「発信する力」の3コースで幅広いジャンルから出題

「記者の基本」が学べるクイズにできた

——ユーザーに向けて伝えたいことはありますか。

木村:今回のクイズは全15問ですが、私たちが普段の仕事で記者もデスクも心がけていることばかりなんですよ。情報の真偽を見分けて、偏りなく理解して、正確に発信する。新聞報道をする上で求められる基本的なことで、経験を積んだデスクが新人記者に対して教えることとほぼ同じです。

おこがましい言い方ですが、この15問を解いて身につけていただければ、ニュースや情報発信を職業としている専門家たちと同じ目線に立ち、情報を見極める力がつきます。自信を持ってお届けできるコンテンツになったのではないかと。

上野:「ニュース健診2024」が、情報と向き合うためのよいきっかけになるとうれしいです。日々、大量にもたらされるニュースやSNSの情報がありますが、それを単にうのみにしないことが大事だと考えています。

——今後、「ニュース健診2024」を学校教育現場で利活用するという話も聞いています。

木村:朝日新聞社はいろんな方が見学にいらっしゃいます。そのなかに中学生・高校生もいるので、見学コースのなかに組み込んでこのコンテンツを紹介することを考えています。今回メディアリテラシーという、私たちが活動するなかで一番重要なものが作れたので、いろんなイベントや記者が出張に行く時に活用してもらおうと考えています。そういった形で広げていければなと思います。

上野:若い頃からの基本動作として身につかないとなかなか浸透していかないと思うので、学校教育現場での活用はぜひお願いしたいです。あとは、選挙のタイミングなどでフェイクニュースの問題やメディアリテラシーが問われることがあるため、いまだけではなく継続して、より多くのユーザーに利用していただきたいと考えています。

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