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「ニュース検定」の中の人に聞く 今必要なニュースの読み解き方

私たちは日常生活の中で多くのニュースに触れる機会があります。情報過多の時代に情報を取捨選択し、自ら考える力は重要です。2007年にスタートした「ニュース時事能力検定(略称:ニュース検定、N検)」は、ニュースを読み解き、活用する力「時事力」をつける検定で、小学生から90代のシニアまで幅広い層が受検し、累計志願者数は約60万人(2023年12月時点)を超えています。今回はニュース検定の主催社で、問題作成など実務を担う毎日教育総合研究所 のみなさんに、今必要なニュースの読み解き方や、日々更新される多様な情報にどう向き合うべきか、情報感度を高めるヒントなどをうかがいました。(取材・文:Yahoo!ニュース)

新聞普及の一環でスタート。今では入試や就職対策に

――2007年にニュース検定が誕生したきっかけを教えてください。

検定の運営、地方新聞社とのやりとりを行う山本さん

毎日教育総合研究所 総務部 山本加奈さん(以下、山本):もともとニュース検定は毎日新聞社の中の新規事業開発室で、社内ベンチャーとして始まりました。若者の新聞離れ、活字離れを危惧して、もっと新聞を読んでもらうためにはどうしたらいいかと、新聞普及の一環で検定を開催しました。

同社 代表取締役社長 尾崎敦さん(以下、尾崎):新聞は発行したらその日に読み終わってしまいますが、うまく編集、加工することで二次的に利用できないか、ニュース検定という形で時事問題に関心を持ってもらうことで新聞読者を増やせるのではと、販売担当の社員が発案したのがきっかけです。

――ニュース検定はどんな人が受検しているのですか。

山本:メインの受検者層は高校生と大学生、専門学校生。高校生の場合、ニュース検定に合格したことを調査書に書くと、全国約450校の大学や短大の入試で優遇措置を受けられます。就活生もエントリーシートに書くことで、毎日新聞社や朝日新聞社など全国の新聞社や放送局、マスコミ関係を中心に、約40の企業の採用過程で優遇されるメリットがあります。

受検者の興味関心が広がる問題を作成

――検定の問題はどんな体制で、誰が作っていますか。

村田さんは大学院在学中に1級に合格している

同社 編集部 村田泰博さん(以下、村田):編集部は現在約10人います。毎日教育総合研究所の20代、30代の若めの社員と、毎日新聞社の中堅、ベテランの記者が検定問題や教材を作っています。

検定は1級、2級、準2級、3級、4級、5級の6つあります。検定問題は級を上げていくごとに、受検者の興味関心、視野を広げてもらえるような工夫をしています。出題範囲は5つの分野(政治/経済/暮らし/社会・環境/国際)からバランスよく出題し、総合的な時事力を問います。

1回の検定では各級45問ありますが、内容について検討会が行われます。各自が作った問題を持ち寄り、みんなで議論をする場です。例えば「この問題は3級で出しているが難しいのではないか、そもそも問題として成り立っているのか」などと議論し、それらを修正なり推敲(すいこう)します。

■3級「人工知能(AI)」ニュース検定 過去問題
急速な進歩を続ける人工知能(AI)について、正しい説明を①~④から一つ選びなさい。
① まるで人間と会話しているような、自然な受け答えができるAIがある。
② 読書感想文や映画の脚本のような、創造性が必要とされるものは生み出せない。
③ 囲碁や将棋のようなゲームが苦手で、人間に勝つことはめったにない。
④ AIを使って極めて精巧に作られた偽の動画などは「メディアリテラシー」と呼ばれる。

※解答はページ下

(2023年度第2回:11月実施)より

複雑なニュースが増え、出題傾向は基本重視に

――時代の変化を受けて、最近の出題傾向はどうでしょうか。

村田:この5、6年は教科書に載っているような基本的なことの比重が大きくなってきました。例えばパレスチナ情勢のニュースに関連して、この問題の歴史あるいは国連や安保理の仕組みなどを聞くような問題です。思考力問題もあります。文章をきちんと読み取れるか、2つのグラフを突き合わせたらどういうことがいえるかなど、資料を精査し、熟読して取り組む必要がある内容を出しています。

題材の選び方も級に合わせていて、やさしい級はできるだけ身近な生活から実感できるものを選んだりします。1級(受検対象目安:大学生・一般)になると、単語を答えさせ、それについて60字以内でこの指定語も入れて書きなさいという、物事を理解していないとできない難しい問題が出ます。

山本:1級は合格率が13.0%(2022年度)で、最年少の11歳で合格した男の子がいます。彼は何度も挑戦してくれて、1級に受かったときは連絡をいただきました。

■1級「デジタル通貨」ニュース検定 過去問題
デジタル通貨を巡る国内外の現状について、誤っている記述を①~④から一つ選びなさい。
① 国内ではスマートフォン決済アプリなどによる賃金の「デジタル払い」が認められている。
② 国内の決済金額に占めるキャッシュレス決済の割合は50%を超えている。
③ 仮想通貨(暗号資産)の「ビットコイン」を法定通貨に採用している国がある。
④ 中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)が発行されている国がある。

※解答はページ下

(2023年度第2回:11月実施)より

私たちがニュースリテラシーを高めるには

――情報リテラシーのプロとしてユーザーにニュースの読み解き方などアドバイスをいただけますか。

毎年発行している公式テキスト

尾崎:今いろいろな情報が氾濫して、本当かうそか分からない時代になっています。フェイクニュースに引っかからないためには何が正しい情報で、どう行動するか、ニュースを読み解いて活用する力「時事力」を身につける必要があります。

新聞の場合、1日の活字の量は新書1冊分ぐらいあります。記事の書き方としては、大事なことから書いていく工夫がされています。時間のない方は前文や各記事の頭の部分を読んでいく。もっと時間がない人は見出しだけを読む。見出しは何がどうしたかが一目瞭然で分かりますので、早く読みこなせると思います。継続的に読むことで、事実をぱっとつかむ。複眼的なニュースの読み方、いわゆる「虫の目で事象を捉えて、鳥の目である程度の期間を持って全体を見て、魚の目で時代の流れをつかむ」ことができると思います。

情報の入手の仕方、バランスを考える

村田:ネットのニュースの場合、これはどこの新聞社、通信社が出している記事なのかを確認する。興味があるA社の記事で、類似したニュースが表示されたら、B社が出している記事も読んでみる。1つのテーマで賛成や反対、賛成や反対といった両極端な状況やグラデーションがあり、1つのニュースに対してもいろんな意見があります。

尾崎:新聞でいえば論調の違いで、ファクトは1つだけれども、それに対するアプローチが違う。その辺りがいくつか読むことによって分かってきます。

自宅で受けられるIBT試験、点字試験の取り組み

――ニュース検定のこれからについてお聞かせください。

検定は年3回実施されている

山本:多様なニーズに応えていければと思っています。今年から通常の会場での受検以外に、インターネット経由で受けられる試験(IBT試験)を開始しました。マークシート試験の公開会場が設置されているのは全国37都市で、47都道府県にはありません。IBT試験では、近くに会場がない方でもインターネット環境があればご自宅で受検することができます。

視覚に障害がある方も受検いただけるようになりました。毎日新聞社で出している『点字毎日』に点訳をお願いして、点字の試験を実施しました。定期的に開催していく予定です。

おわりに
私たちが今世の中で何が起きているかを正しく理解、判断することで、興味・関心がうまれ、世界の見え方そのものが豊かなものになっていく。複雑な出来事を良質な問題で分かりやすく解説する「ニュース検定」には、そのタネがたくさん詰まっていると感じました。


■ニュース時事能力検定(略称:ニュース検定、N検)
新聞やテレビのニュース報道を読み解き、活用する力「時事力」を養い、認定する検定として2007年に創設。学生の入試や就活、社会人のキャリアアップや生涯学習にも用いられ、年3回実施している。NPO法人日本ニュース時事能力検定協会をはじめ、毎日新聞社、朝日新聞社、毎日教育総合研究所(事務局運営)、全国の地方新聞社や放送局が主催。

※過去問題の解答はこちら

■3級「人工知能(AI)」正解:①

解説:こうした機能を持つ「チャットGPT」などが最近話題となっています。人間が書いたかのような作品も作れますが(②)、内容に間違いがある場合も多く、注意が必要です。③こうしたゲーム一つ一つに特化し、人間より強いとされるAIがあります。④「ディープフェイク」です。

■1級「デジタル通貨」正解:②
解説:2022年は36.0%(過去最高)で、50%は超えていません。政府は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にする目標を掲げています。①2023年4月に解禁されました。③中米エルサルバドルが2021年、世界で初めて採用しました。④中米バハマや、東南アジアのカンボジアなどで発行されています。


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