命を救う“ドローン革命”アフリカ 最先端の取組みを追う
アフリカで、
民間の投資により
多くの命が救われている国があります。
ドローンを使った
最先端の取り組み。
アフリカの“ドローン革命”を取材しました。
東アフリカのルワンダ。
25年前、大虐殺が起きた国の首都は
高層ビルが立ち並ぶ街へと姿を変えていました。
「アフリカの奇跡」と呼ばれる
高い経済成長を続けるこの国で
世界初の取り組みに注目が集まっています。
首都から車で2時間。
山間の村にある病院で、
スタッフが真剣な表情で
スマートフォンに
メッセージを打ち込んでいました。
輸血用の血液の注文です。
‘緊急’という文字も見えます。
ドローンが飛んできました。
そして・・・・。
「パラシュートが
病院の建物のすぐ目の前に落ちてきました。」
スタッフがすぐに回収し、
病院の中に運びます。
中には血液のパックが入っていました。
早速、患者に輸血されます。
地方の病院では停電は珍しくなく
血液の冷却保存は出来ません。
さらにルワンダは
「千の丘の国」と呼ばれるほど起伏が多く
道もわるいため、
かつては首都に往復4時間以上かけ
血液を取りに行っていたのです。
今では20分以内に
空から血液が届くようになりました。
妊娠中だったウイマナさん(36)は
この取材の2日前に子宮が破裂し、
搬送されてきました。
赤ちゃんは亡くなってしまいましたが、
ドローンが届けた血液により
一命をとりとめました。
「ここに来た時は、大量に出血していました。ドローンのおかげで私は今もこうして生きています。本当にありがたいことです。」
ドローンが運んだ血液で、
妊婦やマラリアに感染した子どもなど
多くの命が救われています。
「まさに命を救う技術で、大変助かっています。もう血液の不足により患者を死なせてしまうことがなくなりました。」
事業は、
アメリカのベンチャー企業
「ジップライン」が行い、
日本の「豊田通商」も出資しています。
配送センターを訪ねると
すぐに地方の病院から注文が入りました。
スタッフが注文と同時に梱包を始め、
パラシュートが付いた箱に血液を詰めます。
ドローンの本体には
主に発砲スチロールが使われ、
機体は簡単に持ち運ぶことが出来ます。
翼やバッテリーはその都度組み立てられ、
1台1台QRコードで管理されています。
「注文を受けてから10分も経っていませんが、まもなくドローンが発射されます。」
最高時速は128キロ。
全国ほぼすべての地域にある病院を
カバーしていて、
血液を投下するとGPSによる誘導で
自動的に配送センターに戻ってきます。
多い時には1日100件の注文が入り
まるで宅配ピザ店のような忙しさです。
「血液だけでなく薬品も配送していますが、エボラ出血熱ワクチンの配送も計画しています」
25年前の大虐殺では、
人口の1割にあたる80万人以上が殺害され
多くの医師も犠牲となりました。
医療を立て直したいルワンダ政府は
ドローンの運送費用を負担するなど
全面的に支援しています。
「国民のために役に立つと判断したものは法律を変えてでも実現させます。柔軟に成長する姿こそ、大虐殺の後の新しいルワンダの特徴なのです」
日本の企業も続こうとしています。
ANAホールディングスは、
ソニー系の企業・エアロセンスとともに
ザンビアで
HIVの検体をドローンで運ぶ事業
を計画しています。
「最低限の保健医療水準をあげていくことで子供たちが夢を持つ余裕もでるかもしれないし頑張れるフィールドが出来るかもしれない」
アフリカを救うドローン。
外国からの支援だけではなく、
アフリカの人たち自身も動き出しています。
ルワンダの隣国、
タンザニアにあるザンジバル島。
人口130万人の観光と
漁業が盛んな島です。
28歳のカディージャさん。
ドローンをつかって、
島全体のデジタル地図を作っています。
実はアフリカでは、
正確な地図があるのは
総面積のわずか3%と言われています。
爆発的な人口増加で街の姿が刻々と変わる中、
ドローンでつくった地図を
災害対策などに役立てているのです。
「大雨が降った場所をドローンで把握してデジタル地図を作れば、政府やコミュニティはより早い避難の判断などを下せるのです」
この日は洪水が起きやすい地域で
ドローンを飛ばしました。
乾季には地表が見えていた地域が
雨季になると浸水しているのが分かります。
画像の解析により、大雨の際、
速やかに住民を避難させることが
可能になったのです。
カディージャさんが
ドローンを通じて変えたいのは、
この島の事情だけにとどまりません。
「隣の国ザンビアでもドローンの技術を教えています。『アフリカにもこんなドローンの技術がある、こんなことが出来るんだ』という自信や経験を共有し、技術を広げていけると確信しています」
ドローン革命は、
アフリカ新世代の意識をも
変えていこうとしています。
動画版はこちらからご覧いただけます ↓
https://www.youtube.com/watch?v=dnZCvLgtCI8
【取材後記】
ロンドン支局 櫻井雄亮
アフリカの交通インフラはまだまだ未発達です。ルワンダの首都から地方病院に取材に行きましたが、未舗装のデコボコの悪路が1時間以上続きまた。3年前からルワンダで行われているドローンの「血液空輸」はインフラが未整備だという点を逆手にとって事業を発展させました。ガーナでも同様の事業を展開しています。驚いたのはすでにドローン自体が1つの「医療インフラ」となっている点です。ドローンは雨の日も風の強い日でも飛行できます。私たちが取材している最中も、強風のため自動で「着陸」をやり直していました。事業開始以来、ドローンによる事故も起きていません。
この事業はリープフロッグ(leapfrog)現象、つまり‘蛙飛び’現象の代表例と言われています。リープフロッグ現象とはインフラが整備されていない新興国が、技術革新で先進国を一気に追い越してしまう現象です。アフリカでは比較的規制が緩く、リープフロッグ型のドローン革命が可能なのです。
タンザニアのカディージャさんたちがドローンで撮影して作成したデジタル地図は、当局のサイトで公開され、誰でも活用することが出来ます。この地図は洪水対策だけでなく、コレラの感染源の特定やマラリア対策などにも活かされました。
アフリカには貧困や医療など様々な社会課題が山積していますが、カディージャさんが「自分にはドローンを使った無数の‘やりたい事リスト’がある」と話していたのが印象的でした。ドローンという最新技術がアフリカの子供たちの未来をどう変えていくのか、楽しみです。