【学校のモンダイ】“感動”と潜むリスク/組み体操 相次ぐ事故のウラ側
運動会で“花形”とされてきた組体操。しかし、ピラミッドやタワーと呼ばれる組み体操での事故が相次いでいます。なぜ、事故は続くのか。その背景と再発防止に向けた取り組みを追いました。
(TBS NEWS23 18年1月30日オンエア)
3人でつくる“扇”や“タワー”と呼ばれる、組体操。
挑戦しているのは、小・中学校や高校の現役教師、およそ60人です
指導する立場にある現役の先生たちが、なぜ指導を受けているのか。そこにはこんな背景がありました。
2015年、大阪府八尾市の中学校。運動会で最後の種目に選ばれたのは、組み体操のピラミッドです。男子生徒157人が参加し、積み上げた段数は、なんと10段。しかし、次の瞬間・・・。ピラミッドは中央付近から一気に崩れ落ちました。この事故で下から6段目にいた1年の男子生徒が右腕を骨折。ほかにも5人の生徒が打撲などのケガをしました。
学校現場で相次ぐこうした組み体操中の事故が、今注目されています。昨年度は5200件以上の事故が発生。また、障害が残った事故はこれまでに102件、死亡事故は9件も起きています。
広島ではおととし、こんな深刻な事態も・・・
中学校生活最後の運動会で、白組の代表をしていた男子生徒。
しかし、その2日後に帰らぬ人となりました。両親は運動会の組み体操で起きた事故が死亡の原因だと主張。学校側に対し「事故を未然に防ぐ安全対策を講じていなかった」としておよそ9600万円の損害賠償を求める裁判を起こしました。
男子生徒は生徒が3段に重なる移動ピラミッドの2段目に参加。しかしピラミッドは崩れ落ち・・・
男子生徒は頭の痛みを訴え、2日後に脳内出血で亡くなりました。
両親は「落下する時、後頭部に強い衝撃が加わった」と主張。一方学校側は、18年1月に行われた第一回口頭弁論で“事故は無かった”として請求の棄却を求めています。
もし、組み体操の最中に事故に巻き込まれたらどれほどの衝撃があるのでしょうか。
小学6年生のとき大ケガをした少女が私達の取材に答えました。
挑戦したのはタワーと呼ばれる組み体操。少女を含む6人の上に5人、その上に3人、一番上に1人と、4段のタワーは高さ3mに達していました。
そして・・・
少女は左ひじを複雑骨折。
1年間に3回も手術を繰り返しました。
記者:今も痛む?
母親:寒いと痛い 少女:いまちょっとズキズキしている。
事故から4年近く経ちますが、肘は以前のように曲がらないといいます。
組み体操の事故が相次ぐ理由。その一つとして指摘されているのが、当時のプリントにも記されていたこの言葉です。
「伝統をつなごう」 「我慢し、努力し、一生懸命な姿が感動を生む!」
組み体操での事故を研究している名古屋大学の内田准教授は、この「感動」という言葉に注目します。
内田准教授によりますと、中学3年男子の10段ピラミッドで1段目の生徒にかかる重さは最大200キロ以上。
神戸市の私立高校では2014年、大阪の中学校で事故が起きた10段を超える11段のピラミッドに挑戦。崩れはしなかったものの、ユラユラと揺れて不安定に見えます。現在はピラミッドに高さ制限を設けていて、一部の教育委員会でも同様の対策が取られています。
こうした動きに内田准教授は・・・
●名古屋大学 内田准教授
「低い段数でも互いに組み合ってすごく楽しいことってできるわけです。安全にやるにはどうしたらいいかとちゃんと学んでいかないといけない」
18年1月、現役教師が教えられる側となって行われた“安全な組み体操”の講習会。ピラミッドに挑戦した感想は・・・
講習会後、参加した教師はこう、手ごたえを口にしました。
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2011年度からの組み体操に関する事故件数はおよそ8千件で推移していましたが、2016年にスポーツ庁による「十分な安全確保を求める通知」があったことなどで昨年度は5200件あまりと減少しました。
一方で、事故防止に向けた取り組みは自治体によってばらつきがあります。ピラミッドやタワーを「廃止」したところもあれば「段数制限」を設けて対応しているところもあります。
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NEWS23では新たなシリーズ「学校のモンダイ」を始めています。
いじめや貧困、いわゆるブラック部活、おかしな校則といった、生徒たちが直面している問題。そして教師の過酷な職場環境等、教室の内外の様々な問題を取り上げていきます。
「学校のモンダイ」について皆さんも番組のホームページなどから情報をお寄せ下さい。お願いいたします。