『トラペジウム』
BLACK HOLE:VIDEO 2024年5月
この映画の公開当初、Twitterでたいへんよろしくない感想が話題になっていたのを目にしたかもしれない。あなたがそれを理由に本作の鑑賞をやめたというのであれば、いますぐ全てを忘れ、劇場に駆け込み、本作を鑑賞するべきである。そして劇場を出てから自分の頭を4回殴り、スマホを捨てろ。
本作は、アイドルを題材にとった青春物語である。
主人公・東ゆうがアイドルグループ結成のための「素材」として打算100%で作った素人の友人たちとともにアイドルデビューし、やがて活動に耐えられなくなった他メンバーたちが次々と脱落してグループが崩壊するまでが前半の展開だ。この過程で東はライン越えとしか思われない爆弾発言を次々と披露することになる。なぜか公式が本編映像を大量に放流しているので観てもらうのが早い。
これだけだとなるほど主人公がヤバい奴で脚本破綻でうんぬんかんぬんとかいうバズ・ツィートで言われていた通りだろう。しかしながら、本作の真価はその後の展開にこそある。つまり、東ゆうが自らの引き起こした破局と向き合い、前を向くまでの物語である。
たとえ出会いから結成までの道のりが打算と欺瞞に満ちたものであったとしても、そして、たとえその結末が完膚なきまでの破滅だったとしても、人生は先に続いていくし、そこで得てきたものは消え去るわけではない。
後半、自己嫌悪に陥って「私ってさ、嫌な奴だよね」と言う東に対し、母親が「そういうところも、そうじゃないところもあるよ」と言う。
東がアイドルになるためだけに、打算的に行ってきた様々な行為が、じつは周囲の人々を少なからず救っている。嘘偽りの友情が、後から振り返ってみれば本当の友情だったのだとわかる。その関係は確かにその先も続いていく。
若さと共に暴走して破滅する物語は世に多くあるが、本作はその様式をなぞりつつ、しかし優しさに満ちた視線でその若さに救いの手を差し伸べるのだ。こんなに素敵な物語ないよ!
(牛の眼)
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