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『恋に至る病』斜線堂有紀 著(KADOKAWA)

毎月更新 / BLACK HOLE:新作小説レビュー 2020年4月

 愛しているから狂ったのか。狂っているから愛したのか。

 鶏が先か、卵が先か。これはそういう物語である。

 執着と関係性のプロである斜線堂有紀先生の三月の新刊『恋に至る病』。誰からも愛される女子高生・寄河景は、自殺教唆ゲームの主催者だった。幼なじみであり恋人の少年・宮嶺は彼女のやっていることを知りながらも、彼女を否定することなく味方であり続け、愛し続ける。やがて許されないゲームは暴走し、二人を逃れられない地獄へと引きずりこむ。果たして、彼らはどこに辿り着くのか……という話である。

 個人的には今までの作品よりも残虐性の規模が大きく青春ラブコメ度も強いので、物語内の温度差が凄まじかった。恋人同士のいちゃつくようなシーンは愛らしいというよりただただ怖い。恋人に甘えるような行動も、ヒロインの可愛らしさを示すのではなく依存し歪んだ関係を裏打ちするのに一役買っていて、こんなに恐ろしいラブコメはなかなかない。

 寄河は天性のカリスマ的才能を持っており、みんな寄河のことを好きになり、役に立ちたいと思い、嫌われることを恐れる。一方の宮嶺は普通の少年だ。この物語の焦点として、何故寄河は宮嶺を特別だと思うのか、そして特別だということをどうやって証明したのかという点があげられる。愛の証明というものは難しい。自分が他者の特別であるかどうかは、他者の言葉や行動からは完璧には判断できない。自分がその他者を観測していない時に、自分以外の相手にも同じようなことをしていないとは断言できないから。そして、他者の言動が本当に自分への愛から生まれているかも知ることはできないからだ(少なくとも前者の方は監禁や盗聴をすれば分かるが)。全ては自分の判断に委ねられる。そういう意味では愛の証明とは悪魔の証明的である。しかし、自分が相手からの愛を信じられたのなら。それが一番の証明になるのだ。そういう意味ではこの物語は完全な愛の証明である。

 最後に、この本の題名について。『恋に至る病』というのはおそらく我孫子武丸先生の『殺戮にいたる病』のオマージュだろう。『殺戮にいたる病』については詳しく書かないが、あらすじをまとめると「永遠の愛を掴みたい男が猟奇的殺人を繰り返す」というものになっている(読めば分かるがそれだけではない)。愛を求める→殺人をするという関係だ。一方、『恋に至る病』については、文字通り恋に至っている。『殺戮にいたる病』と対比して考えると、殺人を求める→恋をするという関係になるのではないだろうか。この因果がすなわち何を意味するのかは、最後まで読んで確かめてほしい。

 驚異のスピードで新作を書く斜線堂先生の次の作品も楽しみである。

文責:神浦七床


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