リレーレビュー企画④周藤蓮『吸血鬼に天国はない』
推薦文
えー、どうも今回「吸血鬼に天国はない」の1巻を推薦しました鳥羽ノラです。 推薦した理由はシンプルで自分がこの作品を好きだからです。シンプルだね。 まぁ内容としてもボリュームたっぷりで結構レビューしやすいかなと思ったのもあります。 ほんとだよ。嘘じゃないよ。この理由はちょっとしかないってだけで嘘じゃないよ。 9割9分9厘、周藤蓮先生の作品を読んで欲しいっていうオタク心だけど。
こんな感じで自分を魅了してる作品の一つですので、ぜひ葉月さんも気に入ってくれると嬉しいで す!
酷評してたら大笑いしながら泣くと思います。
(鳥羽ノラ)
レビュー
大戦と禁酒法で旧来の道徳が崩れ去った時代、運び屋のシーモア・ロードに持ち込まれた荷物は吸血鬼の少女だった。ひょんなことから共同生活を送るようになった彼らは次第に惹かれあっていくーー。
本書は極めてエンタメ性の高い、いわゆる「面白い」小説だ。本書にはそのエンタメ性の高さを生み出す二つの軸がある。
一つ目の軸がアクションの妙だ。本書のアクションはシーモアの運転技術とルーミーの吸血鬼としての特性を活用して生み出される。一見絶体絶命に思える状況が、シーモアの運び屋としての経験から生まれる発想と腕の確かさ、そしてルーミーの自らの特性を生かした機転によって解体されていく様は実にスリリングで、特殊設定ミステリの解決編を読むような快楽に満ちている。敵側もただやられるだけでなくシーモア並ぶ運転技術の持ち主を起用し、主人公サイドに肉薄してみせるのもいい。緊迫感とアイデアに富んだアクションシーンが常に供給されることが、本書の魅力の一つだ。
もう一方の軸は精緻に作られたプロットにある。典型的なラブストーリーのように見える本書は、中盤以降その趣をガラリと変え、思いも寄らぬ方向へと爆進していく。プロットの意外性自体が面白さに直結しているのはもちろん、その意外性は小説のテーマとも密接に結びついている。
本書は「物語」の話だ。人間がなにかを観察するとき、そこにはどうしても物語が入り込む。悲劇、喜劇、勧善懲悪、いい人、悪い人。全ての事物はこうして物語化され、ラベル付けされていく。それは一見、本質を掴むのに役立つように見える。しかし物語になることで見落とされるものもあるのではないか? 本書の主題はこの見落とされるものに他ならない。
物語終盤で焦点が当たるのは、「物語化」して世界を見ていたシーモアにとって、ひいてはシーモアの視点を共有していた読者たちにとって、見落とされていた事実の数々だ。そして、それらが明らかになった先に立ち上がるのは、単純には割り切ることのできない、あまりにも複雑な現実のあり方である。二転三転するプロットの果てにある、ある種の凄みを帯びたこの光景こそが本書の最大の美点である。
(葉月)
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