『天狗屋敷の殺人』大神晃(新潮社)
BLACK HOLE:NOVEL 2024年5月
横溝正史オマージュという文言に惹かれて読んだ。「犬神家状態」という言葉があらすじに書かれていたので、安易に横溝ネタを連発するような作品だったら、と警戒していたが、横溝正史に寄せすぎることも「横溝的」要素を詰め込みすぎることもなく、オマージュの仕方に好感が持てた。「犬神家の一族」だと思っていたら「・・・」だったという一捻りが面白い。
オマージュ云々はさておき、作品単体として見ても好印象である。犯人が何となく分かってしまうなど気になる点もなくはないが、この作品の面白さを損なうものではない。提示された謎をきっちりと解明し、散りばめられた要素を丁寧に回収していくあたり正統派なミステリであったし、思わず笑ってしまうほど壮大なトリックが待ち受けていた。また、ヤンデレな彼女にも、ちゃんと着地点を用意しているあたりに感心させられる。最初の印象は(ラブコメは全然読まないくせに)、ラブコメ的ヤンデレで、途中では"彼女がヤンデレである意味なくない?"とまで思っていたが、ヤンデレな彼女にはそうなるだけの理由があり、適当なことを思っていたのを反省した。唯一の懸念点は、語り手や探偵が人間としてはクズ寄りなので気に入らない人がいるかもしれないというところだが、そこもミステリをよく読む人だったら気にならないだろう(もっとクズな探偵がミステリにはそこそこいる) 。しかしながら、全体的に堅実でよくできた作品であることは間違いない。
これがデビュー作ということだが、シリーズ化しそうな気配である。次回作を楽しみにしたい。
(藤巴)
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