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光より速いもの(1)

前々回の記事では約137億年前の光である “宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)が現在でも観測できること(*1)、そして前回の記事では宇宙がループする有限空間だとするとCMBから宇宙の大きさが推定できる(*2)ということが示されました。

前回までの記事を読んだ方は宇宙の大きさがどれほどかを知っていることと思います。宇宙の大きさを知ると次に何が理解できるのか、知らなかった真実を一つ手に入れることができるかもしれません。今回も宇宙の法則を知ることで意識を進化させていきましょう。

・最初の疑問
今回は最初に問題を出しますのでそれを考えてみてください (Figure 1)。
Q. 光よりも速い速度で地球から遠ざかる星が存在するか?

この問題についてはどのように考える人が多いでしょうか? 「確か学校では“光より速いものは無い”と習ったような気が、、、」という人もいるかもしれませんし、「でも宇宙は広いし、、、」「あってもいいような気がする、、」という人もいるかもしれません。逆に自信を持って「光速を超えることは物理的に不可能だ!」という人もいるかもしれません。これらの疑問を一緒に考えていきましょう。


・アインシュタインの相対性理論: Theory of Relativity

やはり光の速度に関する問題ではアインシュタインの“相対性理論 (Figure 2, *3)”を避けて通ることができません。もちろん、「数式や物理は苦手」という人もたくさんいると思いますが、「全然問題無い」です。「数式を理解する必要は無い」です。「記事を読んで内容がわかるだけで一つ賢くなる」ことができます。これは「受験のためのお勉強ではなく」、「自分の進化のための学び」なので「読むだけで吸収できる」ように書かれています。

・光速度不変の法則: The principle of the consistency of the velocity of light

それでは順番に考えていきましょう。
アインシュタインの相対性理論の中に“光速度不変の法則 (Figure 3, *3)”というルールがあります。この法則は聞いたことがある人も多いと思いますが、「観測者がどのような速度であったとしても光の速度は常に一定である」という法則です。

初めてこの法則を知った時に「あれ?」と疑問に感じた人も多いと思います。

時速60km/hrで走る車から時速80km/hrで走る車を見たら遠ざかる速さは時速20km/hrに見えるはず」ですし、実際にそのような場面ではスピードの差は時速20km/hrに感じます。光速度不変の法則をまだ知らない場合は「ならば光速の50%の速度の乗り物から光の速度を測れば光は50%の速度に見えるのではないか?」と考えるのが自然です。

しかし実際には「静止状態でも時速100km/hrでも、光速の90%の速度だとしても光の速度は一定」ということが実証されています。この現象について考察していきます。

・速度と時間の関係式

物質や観測者の“動く速度”とその“時間の進み方”の関係をFigure 4に示しています。ここでは “ローレンツ変換 (Lorentz transformations)”が時間座標と空間座標を結びつける関係式として導出されます(*3, *4)。Figure 4の上段には“時間(t)”と“速度(v)”と“光の速度(c)”の関係式が書かれていますが、これも計算式を理解しなくとも下の図を見てもらえれば大丈夫です。

Figure 4下段には速度v(光速に対する%比率)と時間t(速度に対する相対時間)の関係が描かれています。表の見方としては、「速度が光速の10%で移動する物体では、静止状態での1秒が0.995秒に感じる」ということが見て取れます。同様に「光速の80%で動くものは、周囲が1秒経過しても0.6秒にしか感じられない」、「光速の99.99999%で動くものは、1秒がたった0.0004秒にしか感じられない」と言えます。

数字が苦手な人でも速度と時間の矢印の長さを見るとその関係が直感的に理解できると思います。例えば「光の速度の99.99999%の宇宙船に乗っていた場合、宇宙船内では1日しか経ってなくても外界では2236日=6年以上経っている」ということが起こります。このように古典物理学における「時間も空間も絶対的なもの」という概念は崩れ、「時間と空間は互いに相対的な関係が成り立つ」ということを理論化したことが相対性理論の大きな功績です。


・速度の足し算

時速50kmの電車の中で進行方向に時速10kmで走ったら移動速度は時速60kmになる」はずです。それならば「光速の50%の宇宙船から光速の50%の速度で物体を射出したら光速 (100%)になるはずでは?」という推測は正しいでしょうか。これについてもFigure 5にその計算式があります。

Figure 5左上にはその計算式が示されており、右側には実際の計算結果が示されています。この計算に従うと先ほどのような条件の場合「光速の50%で飛行する宇宙船から光速の50%の速度で物体を射出した場合」、実際は時間の進み方が変わりFigure 5右の計算結果のように「射出された物体の速度は光速の80%」ということになります。さらに「光速で移動する宇宙船から前方に光を発したとしてもやっぱり光の速度は同じ」という計算式が成り立ちます。

日常生活の超低速でもこの法則が成り立ちますが、誤差レベルに小さい値のため無視しても影響ありません。そのためFigure 5下段のように「時速100kmの車から時速100kmで投げられたボールは時速200kmになる」という単純な足し算でも成立しますし、「日常レベルにおいては古典物理学でもほぼ正確」と言えます。


・光速を超えるとどうなる?

Figure 4の上段の式をもう一度見てみます。これを見ると分母が √(1 - (v/c)^2)になっています。もし物体の速度(v)が光速(c)より大きくなってしまうとこのルートの中が負の値(マイナス)になってしまいます。そうすると“虚数”という実体のない値が出てきてしまいます。このため「光の速度を超えることは理論上不可能」「実際に現在まで光速を超える物質は見つかっていない」と言われています。それでは光速より速く地球から遠ざかる星は存在しないのでしょうか。


・宇宙全体を考えてみる

ここで前回の記事「原初の光“CMB”から分かる宇宙の大きさ (*2)」を思い出してみます。もし前回の記事を読んでない人がいたら宇宙の大きさの測り方が解説されているので読んでみてください。そこで求められた観測可能な宇宙の大きさは「おおよそ半径450億光年以上、直径900億光年以上」という値でした (*2, *5, *6)。仮に宇宙を球体としてイメージするとFigure 6 (*c)のようになります。

より細かくみると観測可能な宇宙の半径は460億光年(46 Billion light year)以上になります。そして太陽系から観測可能な宇宙の端までを対数時間軸で表したイラストがFigure 7 (*d)になります。Figure 7の外側(右側)にいくほど古い時代の光になり、星や銀河が誕生する前の光になっていきます。そして一番外側が約137億年前の光:宇宙マイクロ波背景放射(CMB: Cosmic Microwave Background)を表しています。

・宇宙の膨張速度

ここで改めてみると宇宙誕生から現在までの時間は約137~138億年とされています(*7, *8)。そして宇宙の半径は少なくとも460億光年以上という説が有力です。そうなると単純に[宇宙の大きさ]÷[宇宙の年齢]から[宇宙の膨張速度]が計算できます。もし[膨張速度=光の速さ]ならば宇宙の大きさは137億光年しかないはずです。しかし計算してみると、[460億光年÷137億年] = 3.36、つまりなんと“宇宙の膨張速度は光の速さの3倍以上(!)”という計算結果になりました。


・宇宙の膨張速度が光速を超えることは相対性理論に矛盾しないか?

ここはおかしいと思う人もいるかもしれません。しかし現時点では「いかなる物質も光速を超えられない」ということは成立していますが、「空間に対してはこの制限は適用されない」ということが言えます。そう考えると宇宙が137億光年よりずっと大きくても矛盾なく理解することができます。

「宇宙は光速の3倍以上の速さで膨張し、宇宙に満遍なく星が存在している」と考えるとFigure 1の問い「光速より速く地球から遠ざかる星」は「存在する」と言えそうです。

・宇宙の端では時間はどうなる?

しかし光速で地球から遠ざかる星があるとするとその星の時間はどうなっているのでしょうか?
 A: 時間が止まったように感じるほど限りなく時間が遅く進む
 B: 逆に“地球が光速で遠ざかっている”と考えると地球時間よりずっと速く進む
 C: 上のどちらでもない
これに関して考えていきましょう。


Figure 8に拡大する宇宙空間と星の位置関係が示されています。これで見ると「地球と中央の惑星は宇宙空間の膨張によって一定速度で遠ざかっている(後退速度:Regression velocity, *9)」ことが分かりますが、「どちらも空間的に移動しているわけではない」です。このため、地球も遠ざかっている惑星も「同じように時間が経過する(答え:C)」が正解です。

これに対してFigure 8右側の宇宙船は空間に対して移動しています。このためこの宇宙船は「移動速度に応じて時間が遅く進む」という法則通りになります。


・宇宙の全体像

“観測可能な宇宙”の全体をイラストにしたものがFigure 8 (*e)になります。これもFigure 7と同様に太陽系を中心に時空が対数軸で表されています。

この画像は太陽系を中心に地球で得られる信号から再構成された宇宙のイメージ画像であり、辺縁にいくほど地球から遠い場所の画像を表します。1億光年離れた場所の画像は1億年前の状態、50億年離れた場所の画像は50億年前の状態を表しています。円の辺縁部に銀河がなく雲のようになっているのは130億年以上前、まだ星や銀河が誕生する前の宇宙を表しているからです。

この宇宙図は宇宙全体を描いていると同時に宇宙誕生から現在までの縮図でもあります。辺縁に行けば行くほど現在の真の姿とは時差が広がっています。辺縁領域は正確に情報が得られるわけではありませんが今現在は成熟した星や銀河が行き渡っていると考えられます。(ただし、光速より速く遠ざかっている領域からの信号は地球に届かないので確認することはできません。)


・冒頭の問いに対する答え

まとめると疑問の答えとしては「A. 光より速く遠ざかる星は存在する」。ただし「星が光速より速く移動しているわけではなく、宇宙の膨張によって光より速い速度で地球から遠ざかっている」というのが現時点における解になります。


・光速を超える物質は存在できないか?

先にも述べたように、もし光速cを超える速度vの物体が存在したとすると、Figure 4上段の時間の計算式の分母:√(1 - (v/c)^2) においてルートの中がマイナスの値になり「時間における虚数」が出現してしまいます。一般的には「虚数解が出てきた時点でその方向性は違う」と解釈されることが多いです。ただし、「物理学において虚数の時間は否定されていない」と言えます。

実際に「虚時間(きょじかん:Imaginary time, *10, *11, *12)」という概念が存在し、今回扱った特殊相対性理論において虚時間を導入すると「時間と空間の対称性」が非常に良く当てはまるようになります。実際に虚時間 (Imaginary time)を量子物理学的に研究した論文も多く公表されています (*13)。

中学高校数学では「虚数は実在しない数」と習いましたが、「3次元以上の次元」や「有限宇宙空間の外側」「多次元宇宙」という概念が認知されてきている現在となっては「虚数の時間軸」があっても全く不思議ではありません。「光速を超える物質」は「我々が住む3+1(空間+時間) 次元で見つかってない」だけで「普段認知されていない領域や形而上学的な領域」には存在しているかもしれませんね。

今回は「光速を超えるものは宇宙空間そのもの」であり「宇宙空間は現在も光速の3倍以上の速度で膨張し続けている」ということを覚えておいてください。そしてタイトルが「光より速いもの(1)」ということは、まだあるということかもしれませんね。そして今回のテーマは宇宙の膨張ですが、「宇宙はなぜ膨張するのか?」という根本的な謎が残されています。この理由や謎を考えながら日々瞑想してみてください。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献:

*1. 宇宙の始まりの光を観る:“CMB” https://note.com/newlifemagazine/n/n81e6c7a5cab8 
*2. 原初の光“CMB”から分かる宇宙の大きさhttps://note.com/newlifemagazine/n/nb2c1391e75ca
*3. Einstein's Theory of Relativity. By MAX BORN, translated by HENRY. L. BROSE, M.A. (Translation of third German edition, 1922). New York, E. P. Dutton and Co., 1924
*4. ローレンツ変換- Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ローレンツ変換
*5. 観測可能な宇宙– Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/観測可能な宇宙
*6. Observable Universe- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Observable_universe 
*7. Age of the Universe- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Age_of_the_universe 
*8. 宇宙瞑想:“宇宙は永遠か?”について考えるhttps://note.com/newlifemagazine/n/n4985749ff8b6 
*9. 後退速度– 天文学辞典 https://astro-dic.jp/recession-velocity/
*10. 虚時間– Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/虚時間
*11. 虚時間– 天文学辞典 https://astro-dic.jp/imaginary-time/ 
*12. Imaginary time- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Imaginary_time 
*13. Lynn, J. E., and K. E. Schmidt. "Real-space imaginary-time propagators for non-local nucleon-nucleon potentials." Physical Review C 86.1 (2012): 014324.

画像引用:
*a. https://www.freepik.com/free-psd/mercury-planet-foreign-planet-isolated-transparent-background_93506963.htm#query=planet&position=0&from_view=keyword&track=sph&uuid=a43af5cf-fbbc-4c47-9f99-75f7a66c3cd1, Image by tohamina
*b. https://www.irasutoya.com
*c. Image by Richard Powell. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Observable_universe_atlasoftheuniverse.gif.
*d. Image by Pablo Budassi. https://binaryfortressdownloads.com/Download/WPF/Images/23405/WallpaperFusion-the-observable-universe-3840x1080.jpg
*e. Image by Unmismoobjetivo. https://en.wikipedia.org/wiki/File:Observable_universe_logarithmic_illustration.png

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