第14回 「野菊の如き君なりき」
🔸かつて恋愛が人生の重大事だった
半世紀以上経ても私の価値観は変わらない
先日、このコラムを読んだ大学時代の友人が、半世紀以上前の映画「野菊の如き君なりき」のことを書いた手紙を送ってきた。すっかり忘れていたが、高校生の頃、私はこの映画に熱中した。当時、私はうぶで、恋愛を描いた映画のことなど、人前で話すことなどなかったが、確か、この映画を観るため2度か3度、劇場に足を運んだ記憶がある。かつて恋愛が人生の重大事だった時代、そのことを書いてみたい。
映画は、主人公の斉藤政夫が手押しの舟に乗って故郷に向かうところから始まる。背広姿に身を包んだ老いた政夫(笠智衆)が船頭に話しかける。「はかないものですなぁ。秋がくると思い出します」若き日の政夫の追想は、昔アルバムなどでよく見かけた楕円形のぼかしの中に納まる。撮影・楠田浩之、音楽・木下忠司、言わずと知れた木下恵介の監督作品である。随所に原作者・伊藤左千夫の和歌が挿入される。木下監督は、敢えて画面を古めかしく仕立てて抒情的効果を狙う。高校生時代に感動し、半世紀を経た今、同じ感動を覚えることが出来るかどうか危惧したが、私の中で作品の価値は殆ど変わらなかった。