世界の経済、金融市場を握る FRB議長パウエルの深き悩み「インフレ高進」

豊富な人脈が生きてパウエル再選
だが金融政策の舵取りは非常に厳しくなる

 米国のみならず世界の経済、金融市場に最大の影響力を持つ米連邦準備制度(FRB)の議長に現職のジェローム・パウエルの再指名が2021年11月下旬ようやく決まった。通常は上院の承認プロセスなどに十分時間を与えるため10月下旬から11月初めに大統領が指名するが、今回はほぼ1カ月遅れとなった。

 ジョー・バイデンの政権の目玉とする財政面の経済刺激・再生策で党内分裂が深刻化し、その議会採決の駆け引きに上院承認が必要なFRB議長人事が微妙に絡まった。その上、金融政策決定に関与するFRBの地区連銀総裁2人にインサイダー疑惑が起こり、パウエルの監督責任を追及する動きも加わった。このため、再任反対派が推す対抗候補のラエル・ブレイナード現FRB理事との選択をバイデンが決めかねたのが遅れの理由だ。

 最終的には昨年3月以来の新型コロナ禍による経済難を積極的な緩和策で乗り切った手堅い手腕と、半ば慣例化していた前任の大統領が指名した現職議長が2期目を迎える場合は、再任して、FRBの政治的独立を担保するという民主・共和党の暗黙の了解を尊重し共和党支持者のパウエルを選んだ。一方、民主党支持者であるブレイナードについては副総裁に指名、再任反対派にも配慮を見せ、党内融和を図った。

 政治的思惑により遅れに遅れた指命だが、パウエルの上院承認は確実な情勢だ。歴代FRB議長は経済学で博士号(Phd)を持つエコノミストがほとんどだが、パウエルはPhdを持たない。しかし、「経済学では持たないが、対人関係ではPhdを持っている」とフィナンシャル・タイムズは書く。「ドグマはなく強固な意志のFRB議長(An undogmatic and strong-willed Fed chair、11月27日付)」によれば、巧みな人脈ネットワーク作りがある。

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