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美容院でシャンプー洗髪を断った訳
そろそろヘアカットへ行く時期になってきた。昨日から美容院をインターネットで探していたが、何処にするか決めかねていた。今朝、自宅から歩いて数分の所にある美容室に行こうと決めて電話をかけると、感じの良い人に繋がり予約をした。それから30分後、家事もそこそこに小走りでそこへ向かった。
近い場所にあるのに初めて行く美容院だったので、若干気持ちが弾んだ。入り口には、鉢植えの可愛い花がいくつか飾られて、オフホワイトのドアも明るく如何にも美容院らしい佇まいだった。そっとドアを開けると、わりと広々とした空間に大きな鏡と椅子が2人分、そしてシャンプー台が1台設置してあった。
「ごめんください」
「はーい」誰もいないが返事が聞こえた。
別の部屋から中年のオーナーらしき人が出てこられた。どうやら一人で切り盛りされているようだった。
「シャンプー台へどうぞ」
「すみません。お湯だけで洗ってくださいますか」
美容師の先生は怪訝な表情だった。
「合成シャンプーは苦手なものですから」
「それでは濡らすだけにしましょう」
「ハイ、お願いします」
「シャンプーを使うと頭皮が痒いんですか、かぶれますか」と先生から訊かれた。
「いえ、そういう訳ではないですが皮膚が弱いので」
どうにも腑に落ち無い様子だった。「化学的なヘアカラーはどうですか?」
「それも怖いですね。ジアミンとか」
「それは化学的な物には全て入ってますね」と言われた。
「以前、友達が『ジアミン無しの物を使っている美容院を見つけた』と言ってましたが、私はヘナで染めています」
「そうですか」
「昔、台所用石けんで手荒れが酷く、副腎皮質ホルモン薬を塗った事がありまして‥」
『それがシャンプーと何が関係あるのだろうか』と思っているような彼女の顔が鏡に映った。
「手が荒れるのは、総じて皮膚が弱いからだと思います。もし、頭皮がかぶれてしまい治癒させる時に、ホルモン剤を使う羽目になったら副作用が怖いですから」
「そうですか、普段はどうされてますか」
「以前は石けんシャンプーやアミノ酸シャンプーを使ってましたが、最近は専ら湯シャンです」
「湯シャン‥とは」
「お湯だけで洗います」
久し振りに他人に話す話題だった。仕事柄だろうか、こんなにも興味津々で訊いてくる人は初めてだった。
「合成界面活性剤が身体に悪影響を及ぼすようです。皮膚のバリア機能を壊し、毒性のある成分が血管に入っていくようです。つまり経皮毒です」と私は説明を続けた。
「界面活性剤は石けんや色々な物に入っていますからどうしても必要な物ですね」と先生。
「そうですね。水と油を乳化させる為には必須です。でも、界面活性剤と毒性の強い合成界面活性剤は違うようです。」
「‥‥」
「石けんの界面活性剤は毒性は無く、皮膚バリアを壊さないようです。成分としては脂肪酸カリウムとか脂肪酸ナトリウムと表記してあります」
「凄い、詳しいですね」
「昔、本を読んだり専門家の講演を聞いたので少しだけ分かります。何より手荒れが完治したので」
「そうなんですか」
「ヘナで染めるようになってからは、湯シャンが一番ですね。色落ちが少ない気がします」
既にヘアカットは終わっていたが、椅子に腰掛け鏡に向かったまま話は政治経済の話題に移行し、会話はまだまだ続いた。
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