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咲きたい場所で咲く

年末なのにか、年末だからか、思いもかけないことが起こる。

退勤間際に、仲良くしてた人から声をかけられた。
「いしいさん、私今年いっぱいで退職します」
「え?」
ウチにいるような器のひとではないとは思っていたが、辞めるそぶりもなかったし、まさに青天の霹靂。
「理由ってお聞きしてもいいですか?」
「一応一身上の都合ってことにしてあるけど、いしいさんには伝えておきますね」
と話してくれた理由は、パワハラだった。
ある人物(仮にA)からひどい嫌がらせを受けていた。証拠を確保して弁護士に相談した。訴えることができると言われ、その前にボスに相談したが、調整してくれなかった。
たぶんボスは動かないだろうと期待してなかったけど、実際に何もしてくれないとわかるとやっぱりがっかりしてしまって糸が切れたんです、ここの仕事は好きですけど、病んでしまう前に辞めます、と言った。

彼女とは、ある団体のお手伝いを一緒にしたことで仲良くなった。
仲良く、といっても職場で話をする以外はたまにランチをするだけだったが、さっぱりした性格で、有能であることもすぐに分かった。
3年前にウチの職場に来たが、その前はNYで誰もが知る金融企業で働いていた。その華々しい経歴から「なぜウチなんかに?」と思っていたけど、夫の実家に帰ってこなきゃならなくなったっていうのが表向きの理由なんですけど、興味があって自分の能力を生かせそうな仕事があれば場所はどこでもいいんです、とサラッと言ってカッコよかった。

「ボスはボスとしての能力がないけど、仕事自体は面白かったから文句はなかったんです。でも、仕事に関係のないAさんの陰湿な態度を受けてまでここにいる理由もないというか…」

Aは職能は高い、かもしれない。
たぶん自分がやっていることがパワハラだと思っていないだろう。
職位が下であってもパワハラは成立する、といってもAには通じないし、ボスもなぜかAには頭が上がらない。
最近はありとあらゆることがAの言いなりだからだ。
Aはこれまで何人も退職に追い込んでいるのだが、ボスに指導力がない、というか首をつかまれているので指導することができない。

「いしいさん、聞きました?あの人辞めるんですって。きっとボスとやりあったからですよね」
みんな口さがない。
確かにボス相手に一歩も引かない彼女ではあったけれど、ボスとやりあったくらいで辞めるわけがない。
真剣にやりあったことがないから、そんな想像しか働かない。
パワハラといい、噂話といい、未熟な職場なんだな、ウチは。

辞める彼女は、またしても全く畑違いの職種に移るのだそうだ。
彼女の能力はきっとどこででも活きるだろう。
「もし誰にも引き継げない仕事があったらやりますから、回してください」
「あ~嬉しい!お願いします」
社交辞令かと思ったらほんとにメールが来て、どこまでも軽やかなカッコいい人だった。



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