聴く読書
先頃Audibleの無料体験キャンペーンをやっていたので、登録してみた。
同様のキャンペーンはこれまでにもあったが、一度も登録しようとは思わなかった。私は言語優位の人間で、聴覚から受ける情報をちゃんと処理できないからだ。
ちなみに視覚も苦手だ。何が描写されているのかわからないことがある。表情も読みづらい。
耳で物語を聴いても、たぶん最初のほうは忘れてしまうだろうし、展開のスピードについていけなさそうだし、読書の制御のしやすさと自由度がなさそうだ、という判断からAudibleは気にも留めていなかった。
文章で読まなければ読書ではないなどという頑固な偏見や先入観ではなく、Audibleは私には合わないだろう、と単に想像していた。
そんな自分がなぜ今回登録してみようと思ったかというと、ひとえに無料期間が2ヶ月だったから、という下衆な理由だ。
2ヶ月あれば、どんな本なら耳からでも処理できるのか、どんな聴き方ならより頭に入るのか試すことができるかも、と思ったのだ。
で、早速試した2冊(2本かな)
「ナチスは『良いこと』もしたのか」は、実は本を持っている。薄いながら二段組で文字が小さいので読む気を削がれて積んである。
「ザリガニの鳴くところ」はかつてギブアップした本。ネタバレ未満のあらすじを頭に入れても、全然読み進められなかったのだが、ナレーターが池澤春菜さんということで期待して選んだ。
ちなみに、聴取環境は主に通勤と、たまに料理をしながら。
で、今回Audibleを試してどうだったか。
「ナチスは『良いこと』もしたのか」はとてもよかった。1.5倍速で聴くとサクサクと読み進む感覚になり、すんなり頭に入ってくる。本の内容自体も面白かったし、Audible体験としてもよかった。
「ザリガニの鳴くところ」は、お話はよかったが、何度もギブアップしそうになった。
もちろん、いいところはたくさんあった。
まず、聞き流しでも案外頭に入る。途中ぼんやりして聴き逃しても割と筋を追えるし、大事な場面は必然的に集中する。
ナレーターの池澤春菜さんがとりわけ素晴らしい。耳に心地よい声で、地の文の上手さはもとより、台詞も細かく演じ分けられて本当にわかりやすかった。
なぜギブアップしそうだったかというと、かかる時間が長すぎるからだ。
小説じゃなければ1.5~2倍速で聴けるが、小説だと違和感があって、聴けないわけではないが聴き心地がよくない。でも等倍速だと10数時間かかる。
聴取環境が限られる、というのも辛い。家にいてAudibleを聴こうとはならない。何かしながらでは話が頭に入ってこない。かといって、家でAudibleに集中するのは手持ち無沙汰すぎる。で、結局通勤時にちまちまと聴いたのだが、1.5倍速で聴いてもなかなか進まず、残り時間が減らないことにウンザリしてしまい、あとはずっと2倍速で聴いた。情緒も何もない。せっかくのナレーターさんの職人技の声音を味わうこともなく、ただ流して聴いただけだ。ほんと、もったいなかった。物語が素晴らしかっただけに余計にそう感じる。
全然意識したことがなかったけど、本は興に乗って読み始めればそのまま最後まで読んでしまうので、一冊読み終わるのにそんなに時間がかからない。これまで一週間以上も同じ本に取り組んだことがなかった。毎日毎日朝晩朝晩、ずっと同じ本を読む(聴く)のは飽きてしまいしんどかった。
あと、本を読むときいつも同じ速度で文字を追っているわけではない、ということにもあらためて気づかされた。これも意識していなかったけど、読むのが速いので、ダーッと字を追っているかと思いきや、流すところとじっくり踏み込むところをわりと細かく使い分けていた。
その読む速度の使い分けが、Audibleではほぼできない。
それも今回のAudible体験の微妙だったところ。
もうひとつ、本という物体の介在は案外大切だ。本の香りや、重みや、本をパタンと閉じる動作や、そういう実体が長らく私の読書の体験としていつもあったので、両手が自由な読書というものに慣れるのに時間がかかりそうだ。
とはいえ、耳で聴いてもけっこう話が頭に入り、かつ残るものだ。
これは予想外だった。
それに読むより聴くほうが圧倒的に楽ではある。
目を使うって疲れるんだな。
「聴く読書」に適した本を探そう、まだ無料期間はたっぷりある。
ちなみに次はこれの予定。
ザリガニよりも長いんよね。再生21時間…
でも、太田愛さんの本に外れはないから、ゴールできる…と思う。