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Shakespeare 『ロミオ&ジュリエット』第2幕第4~第6場

第4場
路上

  (ベンヴォリオ、 マキューショ 登場)

マキューショ
 一体 ロミオ どこにいるんだ⁉
 昨夜は家に 帰らなかった?
ベンヴォリオ
 その通り 召使いから そう聞いた
マキューショ
 なんてことだよ! 青白い 顔をした 石の心の ロザライン
 あまりロミオを 苦しめたなら
 奴なんか 気が触れて しまうのに 違いない
ベンヴォリオ
 キャピュレットの 甥のティボルト
 僕の叔父 モンタギューに 手紙など 送って来たぞ
マキューショ
 絶対に 挑戦状だ
ベンヴォリオ
 ロミオが受けて 立つだろう
マキューショ
 手紙が来れば 誰だって 返事は出せる
ベンヴォリオ
 手紙の主に 挑まれたなら 挑み返すと いうことだ
マキューショ
 残念なこと! 哀れロミオは もう死んでいる
 白い顔した 女の黒目に 彼の心は
 射し抜かれ ラブソングにて 彼の耳は 射ぬかれて
 盲目の キューピッドの矢で
 彼の心臓 ブチ抜かれ 真っ二つ
 そんな奴 ティボルトの 相手務まる わけがない
ベンヴォリオ
 何だって⁉ ティボルトなんか 気にもならない
マキューショ
 奴はなあ 猫のプリンス 以上だって 言ってもいいぞ
 奴はおまえが 鼻歌を 歌うかのよう
 距離を保って 隙を見せずに タイミング良く 突いてくる
 この俺を 信じろよ one twoときて 一呼吸 つく暇もなく
 threeのときに 切っ先は おまえの胸に グサッと刺さる
 絹のボタンが 胸にでも 付いているなら
 見事スパッと 切り落とす 剣士の中の 最上級の 剣士だぞ
 超一流の 家柄で 決闘に 但し書きなど 必要で
 第一項や 第二項など
 致命傷 与える突きや 逆手(さかて)打ち 食らったら 致命傷!
ベンヴォリオ
 何だって?
マキューショ
 おどけて話し 舌足らず 気取っているし 馬鹿げてる
 話し方の アクセントが おかしくて
 こんな奴には 呪いあれ!
 神に懸け 切れ者で 好色で 「売春婦」—
 ほら 嘆かわしい ことでしょう ご老人
 普通の椅子に 座れない 変人や
 奇妙な流行(はや)りの 服を着て
 「エクスキューズ・ミー 」 なんて言う
 お頭(つむ)イカれた 者達や 変人に
 悩まされるの 耐えられないね
 何が「Good」だ⁈ グッドなんかで あるわけがない

   (ロミオ 登場)

ベンヴォリオ
 ロミオが来たぞ ロミオだぞ
マキューショ
 腸(はらわた)を 抉(えぐ)られた 日干しのニシン
 ああ 魚よ魚 どうしておまえ 釣り 上げられた?
 ペトラルカ 数多く 作ってた 恋愛歌
 ロミオはそれを 自分流に 作るだろうよ
 ローラ など 飯炊き女
 ロザライン 韻を踏むなら ローラより ましな名だ
 ダイドー となら 釣り合わぬ 女 だな
 エジプトの クレオパトラは ジプシーと 韻が合う
 ヘレネ とヒーロー あばずれで 売春婦
 グレーの色の 瞳のシスビー 足元にさえ 及ばない
 ロミオ殿下 “Good Day! ”
 イギリス風の クロップ・ズボン 似合うから
 イギリス式の 挨拶だ
 昨日の夜は 上手く一杯 食わせたな
ロミオ
 二人共 おはよう 僕は一体 何のごちそう したのかな?
マキューショ
 食い逃げだ 請求書だけ 残して逃げた 分かってるはず
ロミオ
 悪かった マキューショ 大事なことが あったので
 礼儀を欠いて しまったのだよ
マキューショ
 丁寧に お辞儀をすべきと いうことだ
ロミオ
 正式な 会釈のことか?
マキューショ
 その通り
ロミオ
 礼儀作法に 則(のっと)った 説明だ
マキューショ
 何を今更 この俺は 礼儀では 特待生だ
ロミオ
 特待生に ご褒美(ほうび)は ピンクのバラか?
マキューショ
 その通り
ロミオ
 おや そうしたら 僕が履いてる ダンスシューズは
 花 できれいに 飾られる
マキューショ
 上手く言ったな おまえの靴が 擦れ切れるまで
 俺のジョークに 付き合えよ
 靴のソールが 擦り切れて
 剥(は)がれ落ちても ジョークは残る
ロミオ
 一枚底の ジョークだね ソール一つで 目立っていても
 本体なしの ソールだけでは 役立たず
マキューショ
 ベンヴリオ 助けてくれよ 俺のジョークは 種切れだ
ロミオ
 鞭を当て 拍車を蹴って 付いて来い
 付いて来ないと 僕の勝利だ
マキューショ
 おまえのジョーク ガチョウ・ハント に 似ているな
 難解で 骨が折れるぞ
 ガチョウ 的 おまえの頭 俺の「五感」を 超える力を
 持っているから 狩りはこりごり
ロミオ
 ガチョウ・ハント だけではなく
 どんなことでも 僕に付いては 来なかったよな
マキューショ
 冗談も 言い過ぎたなら その耳に 嚙みつかれるぞ
ロミオ
 おどけたガチョウ 嚙まないでくれ
マキューショ
 おまえのジョーク 甘くて辛い シャープな味だ
ロミオ
 甘いガチョウに 釣り合わぬ
マキューショ
 おまえのウイット 「子羊の皮」だ
 1インチ から 45インチ 幅広く 伸びるんだ
ロミオ
   「幅広く」と 君が今 言ったので
 ガチョウ狩りに 付け足す
   「あちらこちらと 探し回る」だ
マキューショ
 恋の悩みで 呻(うめ)くより ましだろう?
 やっと今 いつもの調子
    付き合いのいい ロミオになった それがおまえだ
 湿っぽい 恋愛なんか してる奴
 道化の杖を 穴の中へと 隠すため
 あちらこちらと だらしなく 走り回る 大馬鹿だ
ベンヴォリオ
 いい加減 もうやめろよな
マキューショ
 俺の話に つまらないなど ケチを付け やめさせる気か⁈
ベンヴォリオ
 やめさせないと エンドレスにと なりかねないな
マキューショ
 勘違いだろう そろそろジョーク やめようと 思ってた
 俺の話の クライマックス 過ぎたので
 もうここれで 終わりだよ
ロミオ 
 古風な服がやって来た
 
  (乳母、ピーター 登場)

マキューショ
 船だよ! 船が!
ベンヴォリオ
 二隻だ 二隻 シャツ艇と スリップ号だ
乳母
 ピーター!
ピーター
 はい 今すぐに
乳母
 私の扇は? ピーター
マキューショ
 なあ ピーター 連れの顔 扇使って 隠してくれよ
 扇のほうが ましな顔
乳母
 紳士方 おはようございます
マキューショ
 こんにちは ご婦人よ
乳母
 もうそんな 時間です?
マキューショ
 そうですよ 猥褻(わいせつ)な 時計の針が 正午を指して いますから
乳母
 冗談は やめなさい! なんていう人!
ロミオ
 神様が 造られた 人間の 出来損ないで
乳母
 なかなか上手く 言いましたわね
 「人間の 出来損ない」ね— それよりも
 そこにいる あなた方 一人でも
 若者ロミオ どこにいるのか 知りません?
ロミオ
 知ってるよ 若者ロミオは 探してたとき 若くても
 探し当てたら 老けているかも
 その名前では この僕が 一番の 若者だ
 成熟しては いないから
乳母
 ごもっとも
マキューショ
 なるほどな 成熟してない 出来損ないか
 上手く言ったな 賢いね 本当に
乳母
 あなたが もしも ロミオなら
 内密に お話したい ことがあります
ベンヴォリオ
 お食事の 招待ですね
マキューショ
 売春宿の 女将さん 女将さん 女将さんだよ
 ほら そうだろう
ロミオ
 何を一体 見付けたんだよ⁈
マキューショ
 ウサギなんかは 入っていない
 レント の質素な パイの中 ウサギの肉が 入ってるなら
 消費期限が とっくの昔に 過ぎてしまって
 腐っているか カビ臭い 変な物

 (歌う)  古いウサギに カビが生えても
     古いウサギに カビが生えても
     レントの間は 良いお肉
     でもですね カビが生えてる ウサギさん
     切って出すには 古過ぎて
     消費期限の ずっと前から カビだらけ

 さあ ロミオ 君の親父の 所へ行って
 豪勢な ランチでも 頂こう
ロミオ
 すぐに行くから
マキューショ
 さようなら 古風なご婦人 さようなら
 レディー レディー マイ・フェアー・レディー!
 (マキューショ、 ベンヴリオ 退場)
乳母
 はい これで さようなら!
 本当に いたずら好きで 生意気な 人ですね
ロミオ
 話してる 自分のことを 聞くのが好きで
 ひと月以上 かかることでも 1分で 話し終えます
乳母
 あの人が 私のことで なんと言おうと
 もっとひどい 悪ふざけ しようとも
 そんな輩が 大勢来ても やっつけて やりますからね
 もしそれが 無理ならば 代わりに誰か 見付けます
 いけ好かない 男だわ
 私のことを あんな男と いちゃつく女で
 連れ添う仲間と 思うなら 目にものを みせてやる!
 〈ピーターに〉あんたはね 私のお付き なんだから
 変な輩が 絡(から)んできたら 懲らしめて やらないと!
ピーター
 誰も絡んで いませんでした
 絡んでいたら すぐに武器など 取り出して いたでしょう
 正当な 喧嘩であって 法律が 後ろ盾なら
 誰かが剣を 抜いたなら 私はすぐに 抜きますからね
乳母
 本当にもう 苛立(いらだ)って 震えが来そう 生意気な 男だったわ
 あなたには お話が ございます 我が一門の お嬢さま
 あなたのことを 探すようにと 伝言を 頂いてます
 その内容は まだ言えません
 でも これだけは 言っておきます
 あなたがもしも お嬢さまを 俗に言う
 愚かな者の 楽園に 連れ出そうと するのなら
 よく言われてる 悍(おぞ)ましい 行いですよ
 お嬢さま まだ幼過ぎ
 だから もし 騙してるなら どの女性でも 同じですけど
 人の道には 背(そむ)く行い ですからね
ロミオ
 では あなた お嬢さまに 伝えてほしい
 公然と僕 証言します—
乳母
 嬉しい知らせ! その通り お伝えします
 本当に 本当に それを聞き 喜ばれます
ロミオ
 あなたは何を 伝えるのです?
 僕はまだ 何も言っては いないのに
乳母
 「証言する」と 言われたことを 伝えます
 紳士的 オファーだと 受け取りました
ロミオ
 今日の午後 神の赦しを 得るために
 ロレンス神父の 元に来るよう
 そこで懺悔(ざんげ)し 結婚すると 伝言を!
 さあ これは お礼だし 取ってくれ
乳母
 それはだめです 受け取れません
ロミオ
 そう言わないで 取ってください
乳母
 本日の 午後ですね お嬢さま 必ずそこに 行かれます
ロミオ
 お願いがある 修道院の 壁の所で
 待っていて くれないか?
 1時間 以内には 召使いに 梯子(はしご)に編んだ 縄を持たせる
 それを使って 秘密の夜に 幸せの 絶頂に 登ります
 では これで 失礼します
 信頼して いますから 謝礼はきっと はずみます
 さようなら お嬢さまには どうかよろしく
乳母
 神様の 祝福が ありますように! 聞こえています?
ロミオ
 何か今 言いました?
乳母
 あなたの家の 召使い 秘密など 守れます?
 諺(ことわざ)に あるでしょう
 「二人だけなら 内緒事 三人に なったなら 内緒にならず
 次々と 大事(おおごと)に」
ロミオ
 その召使い 口の堅さは 鋼鉄のよう 保証はできる
乳母
 ロミオさま お嬢さまは 可愛い方よ
 ああ 思い出したわ
 — まだ ちっちゃくて 片言を 話し出し—
 それよりも この町に パリスという名の 貴族の方が
 お嬢さまを 自分のものに しようとし
 「テーブルに ナイフを置いて 」
 優先権を 取られましたよ
 でも お嬢さまは おかしな人で
 パリスさまを 見るのなら ヒキガエルでも 見るほうが
 まだましと 仰るの
 パリスさまは 立派な人と 私が言うと
 ご機嫌を 損ねてしまい 真っ白い ハンカチのよう
 顔から血の気が サッと引いて しまうのですよ
 ローズマリー と ロミオとは 頭文字 同じでしょう
ロミオ
 そうですよ それがどうだと 言うのです?
 どちらも「R」で 始まりますね
乳母
 あら そんなこと! 犬にある 特性と 同じだわ
 「R 」など… 頭文字 違ってたのか 自信ないけど
 お嬢さま ローズマリーと あなたの名前
 合体させて 素敵な文を 作ってられた
 お聞きになると いいでしょう
ロミオ
 お嬢さまに どうぞよろしく
乳母
 お任せください (ロミオ 退場) ピーター!
ピーター
 はい 今すぐに!
乳母
 さっさと前を 歩くのですよ (二人 退場)

第5場
キャピュレット家の庭園
  
  (ジュリエット 登場)

ジュリエット
 婆やを使いに 出したのは 時計の鐘が
 9時を知らせた ときだった
 半時間 過ぎたなら 戻ると言って いたけれど
 ひょっとして ロミオには 会えずじまいで…
 そんなこと ないはずよ
 ああ そうだ! 婆やは脚が 良くないのよね
 恋の使いは 陰気な山に かかる影 追い払う
 太陽の 光より 10倍速く 駆けないとだめ
 そういうわけで 軽快な 翼持つ鳩
 愛の女神の 馬車を引き
 風ほど速い キューピッドには 翼があるのね
 もう太陽は 一日の 旅路の山の 頂点にある
 9時から正午 もう3時間 経っているのに
 婆やまだ 帰って来ない
 婆やにも 愛情があり 若くて熱い 血潮があれば
 テニスボールの ようにして 弾む気持ちで 動くでしょうに
 私の言葉 愛する人に サーブしたなら
 彼のリターン すぐのはず
 でも年寄りの 多くの人は デッドボールを 受けた振りして
 鉛のように 鈍重で 動きが遅く 腰が重くて
 顔色が 良くないわ

  (乳母、ピーター 登場)

 ああ やっと 帰って来たわ
 優しい婆や ねえ どうだった?
 あの人に 出会えたの? 召使い 下がらせて
乳母
 ピーター 門の所で 待っていて (ピーター 退場)
ジュリエット
 ねえ 愛しい婆や どうしたの⁈
 どうしてあなた 悲しげな顔 しているの?
 悲しい知らせ 伝えるのにも にこやかに お願いね
 良い知らせでも そんなにも 渋い顔して されたなら
 スイートな 調べでも 台無しに なってしまうわ
乳母
 疲れてるので 少しだけ 待ってください
 ひどいもんです 骨がギシギシ 痛むんですよ
 あちらこちらと 歩き回って いましたからね
ジュリエット
 私の骨を 上げるから 早く知らせを 聞かせてよ
 さあ早く お願いだから 言ってよね
 とっても優しい 婆やでしょう 言ってよ 早く!
乳母
 何てことです! そんなに急ぎ
 少しぐらいは 待てません⁈
 息を切らして いる私 見えないのです?
ジュリエット
 「息が切れてる」 なんて言う 息があるのに
 息が切れてる わけがないわよ
 こんなにも 遅く帰って 言い訳を するなんて
 肝心な 話より 言い訳が 長いのね
 その知らせ いいものなのか 悪いもの?
 どちらなのかを 答えてよ
 そうすれば 詳しいことは 後でいいから
 いい知らせ? 悪いもの? どちらなの?
 それだけで いいのですから
乳母
 やれやれ これは お嬢さま よく考えず
 馬鹿な選択 しましたね
 男性の 選び方 知らないですね
 ロミオですって! だめですよ あんな人
 誰よりも イケメンで 脚もスラッと カッコいい
 手も足も 体つきも なんてこと ないのですけど
 他(た)の男性と 比較したなら 格段上で
 礼儀にしても 模範には ほど遠いのに
 子羊のように おとなしい
 ご自分の道 お進みなさい 神様にお祈りを
 おやっ! お家で食事 済まされました?
ジュリエット
 違うでしょう それじゃない
 そんなこと ずっと前から 分かってる
 あの人は 結婚のこと どう言ってたの? それはどうなの⁈
乳母
 大変よ! ひどい頭痛が! 頭が重い!
 粉々に 頭が割れそう 体の後ろの 背中もよ
 ああ 背中が 背中が痛い お嬢さまの せいですよ
 あちらこちらと この私 駆けずり回り 死にそうですよ
ジュリエット
 体調を 壊してしまい 本当に ごめんなさいね
 大好きで 優しくて 素敵な婆や
 それで返事は どうなのよ⁈
乳母
 正直で 紳士的 礼儀正しく 親切で
 ご立派な方と 保証できます あの方が 仰るのには
 — お母さまは どちらです?
ジュリエット
 お母さまが どこかって? お家の中に 決まってるでしょ!
 他のどこに いると言うのよ⁈ なんておかしな 返事なの⁉
 「立派な紳士の あの方が 仰るのには
 — お母さまは どちらです?」
乳母
 おや これは お嬢さま 少しホットに なり過ぎですよ
 痛んだ骨の お手当は 湿布薬です?
 これから先は お使いなんか ご自分で なさることです
ジュリエット
 なぜそんなにも やきもきさせるの⁉
 さあ 早く! ロミオは何て 言ったのですか⁉
乳母
 今日の午後 懺悔(ざんげ)に行くと いう許可を もらいましたか?
ジュリエット
 もらっているわ
乳母
 それならすぐに ロレンス神父の 所へと お急ぎなさい
 そこであなたを 妻とする ご主人が お待ちです
 ほら その頬が 青春の血で 染まっています
 どんなことでも すぐに真っ赤に 染まる頬
 教会に 急ぐのですよ
 私は別の 道を辿(たど)って 縄梯子 取りに行かねば なりません
 お嬢さまの 愛する人が 夜更けになれば
 それを伝って 小鳥の巣へと 登ってきます
 この私 お嬢さまの 喜びのため 骨折り役で 下働き
 夜が来たなら お嬢さまが 愛する人の 「下働き」よ
 さあ早く! 私は食事に お嬢さまは 神父さまの 所へと!
ジュリエット
 素晴らしい 幸運の もとへと私 出かけるのだわ!
 信頼できる 婆やだわ 行ってきます (二人 退場)

第6場
修道士ロレンスの小部屋
 
  (ロミオ 登場)

ロレンス
 天よ この 聖なる儀式に 祝福を 与え給(たま)え
 後(のち)の日に 悲しみにより 我々を 罰せ給(たも)うな
ロミオ
 アーメン アーメン! どのような 悲しみが 来ようとも
 彼女を見詰める 一時(ひととき)の 喜びを
 消し去るほどの 力はないに 違いない
 聖なる言葉で 二人の手を 結び合わせて 頂けますか?
 そうなれば 愛などを 貪(むさぼ)り食う
 死神が 来ようとも 厭(いと)わない
 あの人を 僕のものと 言えるのならば
 もうそれで 充分です
ロレンス
 このような 過激なほどの 喜びには
 過激なほどの 結末が 待っている
 火や火薬 一瞬にして 爆発し 消え去るように
 喜びも キスの中で 蕩(とろ)けてしまう
 甘さ際立つ 蜂蜜も 甘美さ故に厭わしく 思われて
 おいしさ故に 食欲が 失せてゆく
 それ故に 節度弁(わきま)え 愛することだ
 それが唯一 長続きする 愛の秘訣だ
 早過ぎるのは 遅過ぎるのと 同じほど 厄介(やっかい)だ

  (ジュリエット 登場)

 その人が やって来る ああ 軽快な 足取りだ
 あの軽さでは 頑丈な 石畳 磨(す)り減ることは ないだろう
 恋する者は クモの糸の 上に立ち
 浮気な夏の 風に吹かれて 戯れるのに 落ちはしない
 気まぐれな 幻想に似て 実体がない
ジュリエット
 こんにちは 神父さま
ロレンス
 ロミオがわしの 挨拶も兼ね 返事するはず
ジュリエット
 では ロミオにも 私から そうしないなら
 お返しのほうが 多過ぎますね
ロミオ
 ああ ジュリエット 君の喜び その大きさが
 僕のものと 同じであって
 僕より君が 上手にそれを 語れるのなら
 君の言葉で 辺りの空気を 甘美なものに 変化させ
 音楽のような 豊かな音色 その声で
 僕ら二人の 貴重な出会い それにより 今ここに得た
 夢のような 幸せを 奏でてほしい
ジュリエット
 言葉以上に 心には 満ち溢れ来る 実体が ありますよ
 飾るのでなく その価値を 認めて誇る そうしましょうね
 価値などを 値踏みするのは 卑しい者の することよ
 真実の 私の愛は 大きくなって
 その豊かさの 半分さえも 数えることは できません
ロレンス
 さあ 付いて来なさい 手短に 済ませることに するからな
 言っておくが 二人っきりに するわけに いかぬのだ
 神聖な 教会が 二人を一つに 結ぶまで… (三人 退場)

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