Shakespeare 『ペリクリーズ』第3幕第3&4場
第3場
ターサス クリーオンの館の一室
(ペリクリーズ、クリーオン、 ダイオナイザ、マリーナを
抱いたリコリダ 登場)
ペリクリーズ
クリーオン殿 私は去らねば なりません
1年という 猶予期限 過ぎてしまって
平和な社会は 口論により 乱れています
王と王妃に 感謝の気持ちを 捧げます
捧げ足りない 場合には 神々にそれ
埋め合わせ 頂くように 願っています
クリーオン
あなたの胸を 運命の矢が 射抜いた 影響が
我々の 胸にも届き 辛くなります
ダイオナイザ
ああ 素敵な王妃が!
残酷な 運命が 機嫌が良くて
あなたが王妃を お連れして くださってたら
お目にかかれて 喜ばしい ことでしたのに…
ペリクリーズ
我々は 天の指図に 従わないと いけません
たとえ私が 妻のいる 海のように
荒れ狂い 反抗しても 同じことです
海で生まれた 可愛い子
海に因(ちな)んで マリーナと 名づけたのです
あなたの慈悲に 縋(すが)っての お願いですが
この子を預かり 生まれに恥じぬ 王女としての 教養を
身につけさせて 育ててやって 頂けません?
クリーオン
ご心配は 要りません ペリクリーズ王
かつてあなたは 我々に 穀物を 与えてくださり
我々は 誰一人 その恩を 忘れては おりません
お子様も あなたと思い 大切に 致します
私にもしも 邪心が起こり お子さまを
疎遠にすると いうことが あったなら
あなたによって 救われた 民衆が
私に義務を 果たすようにと 圧力を 掛けてくるはず
いや 私の心に そのような 拍車を掛ける ことが起これば
神々が 私や家族 末代までも 処罰されるに 違いない
ペリクリーズ
私はあなたを 信じています 誓いなど なくっても
あなたの栄誉と 美徳とが
信じるに 値すると 告げています
奥さま この私 娘が結婚 するまでは
いかに風貌 悪くなろうと 髪の毛は 一切切らぬ こととする
ではこれで お別れします
奥さま 娘の養育 どうか宜しく お願いします
ダイオナイザ
私に娘 おりますが 王女さまを 私の娘 同様に
可愛がり 大切に お育てします
ペリクリーズ
ありがとう ございます
クリーオン
では 岸辺まで お見送り させて下さい
そのあとは 仮面をつけた 海の神 ネプチューンと
天にある 穏やかな風に 任せることに 致しましょう
ペリクリーズ
では お言葉に 甘えます 奥さま ご一緒に お願いします
なあ リコリダ 泣かないでくれ 涙なんかは 禁物だ
小さな娘を 頼んだぞ
将来は おまえの方が 娘に頼る ことになるかも…
さあ 行きましょう (一同 退場)
第4場
エフェサス セリモンの館の一室
(セリモン、セイザ 登場)
セリモン
王妃さまが お入りに なっていた 棺の中に
この手紙 宝石類が 納められて おりました
これはあなたの 物ですから
お受け取り お願いします
手紙の文字の 筆跡に 心当たりは ありません?
セイザ
夫の字です 海上で 船の中に おりました
しっかりと 覚えています 出産の 直前でした
産んだ事など 不思議と何も 覚えては おりません
でも ペリクリーズに もう二度と
お会いできなく なったのならば
修道女になり 浮き世の楽しみ 避けて暮らして 参ります
セリモン
今 お話を された通りに なさるなら
ここの近くに 月の女神の 聖堂が ございます
そこでなら 生涯を 過ごすことさえ 出来ましょう
お宜しければ 私の姪を 付けさせましょう
セイザ
感謝の気持ちは 言葉でしか 伝えることが できません
でも その言葉 短いもので あろうとも
私の心は 長く続く ものですわ (二人退場)