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【PR】【新国立劇場】ゴリゴリのお笑いオタクが『アンチポデス』を観劇したら強烈すぎるほどの観劇体験になった!

観ながらいろんな想いを巡らせるような作品だった。
戯曲の本筋を、正体を捉えるために食い入るように見入っていた。

仲の良い友人と『感情の棚卸し』と称して食事に行く事がある。
自分が今思っている事を相手に話したり、相手の話を聞いて、それについて意見や感想を述べたりしたり。
主観と客観を行ったり来たりしながら濃厚な会話を堪能する時間は、私の生活の中で特別な時間である。


『アンチポデス』を観た後、ふとそんな事を思い出した。
しかし、この作品で感じたことは全く別の感情だったように思う。
そもそも未だ感情の置きどころを何処にすべきか、ふわふわと漂っている感覚もある。

新国立劇場、小川絵梨子芸術監督4年目のシリーズ企画は「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」。
そしてその第一弾が今作『アンチポデス』である。

舞台はある会議室に集められた男女8人が「新しい物語」を考えるシーンから始まる。

「物語は世界を変える」
「ポリコレとか関係なく何でも話そう」
「現実の世界はひどい。物語は美しい」
「俺たちはなんでもできる」

リーダーのサンディが発するそんな言葉のもと、会議に参加したメンバーは、思いついた事は制限なく、何でも、とにかく話す事を要求される。

それは「怪物」の話であったり、とても下世話な話であったり、子どもの頃に物語によって人生が変わった経験といった、登場人物の本質を形成するに至ったような話まで、本当に様々な話が行われる。

その一つ一つの話を見失わないように、作品のうねりから振り落とされないように、言葉の意味とイメージを明確に掴めるように意識しながらの120分は、脳はもちろん全身がシビれるくらい強烈な観劇体験だった。



なんてったってキャストそれぞれの台詞量がとんでもない事になっている。
長尺の台詞の中で、言葉も感情もどんどんドライブしていくものの、本質の部分を捉えるのはそう簡単にはいかない。

それは会議室で行われる「物語を作る会議」についても例外ではない。
逃げ場がない密室の空間、とにかく話し合う事が求められる環境。
話し方一つとっても、それぞれの性格・気質が見えてくる。
それぞれの人物の感覚のズレが、会議にも影を落としていく…。

そもそも、なぜ『物語』を作る必要があるのか。
『物語を作る』という目標に向かって行われるやりとりの中で、「一体これはどういう事なんだろう」と考えさせられる瞬間が本当に数多く存在する。

それを考えながらも、目の前の会議から振り落とされる事なく、とにかく何か掴んでやろうという自分がいる事にも気付き、何だかとても興味深い体験だった。

膨大な情報量の中で特に印象的だった台詞を一つだけ挙げるとするならば、

『個人的な事は個人的でしかない』

という台詞が特に強烈に印象に残っている。
それぞれの登場人物が自分の体験談を語る場面でとある人物から発せられた一言であるが、自分の話を他人に話すと、話した後にウソをついてるような気分になるという話の流れで発せられた言葉だ。

思考や感情を言葉にして他者に説明する時の違和感は、自分自身も常に抱いている。
そんな人物がすべてをさらけ出さなければならない会議に参加して、発言をしなければいけない環境にいる事を想像すると、心底ゾッとしてしまう。


後半にかけての展開や作品のラストについても話したい事は山ほどあるが、それについてはぜひ劇場で実際に観劇をして、それぞれの感覚で捉えていただきたい。


タイトルの『アンチポデス』は日本語で『地球の裏側』を意味する言葉である。
観劇後に抱く感想は人それぞれ全く違うものであろうし、自分とは『アンチポデス』である感情を抱く人がいるかもしれない。

そういった人とも積極的に言葉や感情を共有しようと試みてみる事こそが、今回のシリーズ企画のテーマなのかもしれない。

【撮影: 宮川舞子】


■公演概要■
新国立劇場 演劇 2021/2022シーズン
シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」Vol.1
『アンチポデス』

【会場】新国立劇場 小劇場
【公演期間】4月14日(木)~4月24日(日)
【公演詳細】https://www.nntt.jac.go.jp/play/antipodes/
【予定上演時間】
120分(休憩なし)
※時間は変更になる場合があります。(4月12日現在)

【作】アニー・ベイカー 【翻訳】小田島創志 【演出】小川絵梨子

【美術】小倉奈穂 【照明】松本大介 【音響】加藤 温
【衣裳】髙木阿友子 【ヘアメイク】高村マドカ
【演出助手】渡邊千穂 【舞台監督】福本伸生

【出演】白井 晃 高田聖子 斉藤直樹 伊達 暁 亀田佳明 チョウ ヨンホ 草彅智文 八頭司悠友 加藤梨里香

【料金(税込)】A席:7,700円 B席:3,300円
チケットに関するお問い合わせ:
新国立劇場ボックスオフィス:03-5352-9999(10:00~18:00)
Webボックスオフィス:http://nntt.pia.jp/event.do?eventCd=2116461

【ものがたり】
ある会議室に男女8人が集められている。
そこがどこであるのか、いつであるのかも不明だが、リーダーであるサンディのもと、彼らは企画会議として「物語を考える」ためのブレインストーミングを始める。新たなヒット作を生むためである。
サンディは「ドワーフやエルフやトロルは無し」と言う。恐ろしさや怖さの中にも消費者が親近感を覚えるリアルな物語を採用したい、と。
既存の作品の焼き増しではない新しい物語を生み出すために、参加者たちは競うようにして自分の「リアル」な物語を披露していく。やがて会議室の外に世界の終末のような嵐が訪れる。


*記事執筆:しまだ(@nevula_shimada)
ラーメンズをきっかけに『劇場で行うパフォーマンス』の世界に足を踏み入れ、以降は芸人のコント公演を中心に劇場へ足繁く通う日々を過ごす。
演劇とコントの境界線、お笑いという表現によって構築される演劇の効能について日々想いを巡らし、独自の視点でアプローチを続けている。
祖母は1970年大阪万博のテーマソング『世界の国からこんにちは』の作詞者である島田陽子。


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