今を生きるアーティストに問う、国立西洋美術館で史上初の現代美術展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」
3月12日より、国立西洋美術館にて開催中の「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」。20世紀半ばまでの西洋美術品を所蔵・公開してきた美術館にとって史上初となる、現代美術の企画展です!
西洋美術全般を対象とする、日本で唯一の国立美術館でありながら、設立の背景からは”アーティストのために建った美術館”とも言える国立西洋美術館。先日のおちらしさんWEBでは、その歴史的背景をご紹介しました。
未来ある日本の美術家のために生まれた空間として、どのような役割を果たしてきたのか。「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」という問いを美術館が自ら提起し、21組の現代アーティストとコラボレーションすることで、検証していきます。
果たして国内外で活躍する現代アーティストたちは、どのようなアートを通してこの問いに答え、「国立西洋美術館」を問い直していったのでしょうか? ついに明らかになった企画展の全貌から、4名の作家をピックアップしてご紹介します!
小沢剛――歴史に新たな「if」を持ち込む
画家・小沢剛さんによる作品、《帰ってきたペインターF》。「F」とは、丸眼鏡を掛けた自画像でも馴染み深い、日本を代表する画家・藤田嗣治さんのことです。藤田嗣治さんは1955年にフランス国籍に帰化し、国立西洋美術館にも「西洋美術」の一例として作品がコレクションされています。
そんな藤田嗣治がもし戦後にパリではなく、東南アジアの「バリ」に辿り着いたとしたら……。この「もしも」を描いた作品が、小沢さんによる《帰ってきたペインターF》のシリーズです。「西洋美術」として蒐集された藤田嗣治さんご本人の作品と並べて展示されることにより、日本にありながら、西洋美術品しか展示されない国立西洋美術館の在り方が揺さぶられます。
小田原のどか――地震大国の課題を「重ねる」
地震による影響が絶えない日本。彫刻家・評論家である小田原のどかさんの新作インスタレーションでは、西洋とは異なる、日本独自の課題が示されます。オーギュスト・ロダンの2作品、《青銅時代》《考える人》が台座から離れ、横倒しに「転倒」しているのです。こちらのコーナーは靴を脱いで絨毯に上がるため、座ったり、寝そべったり、普段の国立西洋美術館では想像し得ない角度からも名作を楽しむことができます。
実は、1923年の関東大震災においても、ロダンの彫刻は上野で被災していることをご存知でしたか? 高村豊周によるエッセイ「震災とロダン」(『自画像』中央公論社、1968年)をはじめ、小田原さんによってまとめられた資料から当時の様子を想像すると、地震という課題がいかに深く日本に根付き、西洋からやってきた美術品にまで影響を及ぼしているのか、改めて認識させられます。さらに五輪塔や、「転倒」に「転向」を重ね合わせて展示される西光万吉の掛け軸なども絡み合い、これまでの国立西洋美術館では語られてこなかった日本の問題に向き合う内容です。
鷹野隆大――IKEAの家具と「並べる」
美術作品を観るのって難しくない……? 一度はそう感じたことがある方も多いのではないでしょうか。写真家・鷹野隆大さんの展示では、IKEAの家具で作られた「平均的な部屋のなか」で作品を鑑賞する体験ができます。私たちが普段生活している空間に、あのフィンセント・ファン・ゴッホの《ばら》をはじめとする西洋の絵画と彫刻や、鷹野さんによる写真作品が多数飾られているんです!!
リーズナブルで手が届きやすい価格でありながら、シンプルでモダンな雰囲気から人気を博すIKEAの家具。生活のための場所で、現代を代表するデザインと西洋美術・現代アートが一堂に介してみると、いかがでしょうか? 「いつも」に囲まれた空間では、自分からは遠く思えていた作品にも自然と親しみが湧いてくるから不思議です。「西洋美術館のコレクションも、昔は誰かの日常の一部だったのかも……」なんて夢想をしてみると、新しい芸術の味わい方が見つかるかも!?
竹村京――絹糸で欠損を「補完」する
美術品を未来へと遺していく機関でもある美術館。しかし、作られてから年月を経た分、作品は破損したり、傷んだりしてしまうこともありますよね。そのような変化を否定するのではなく、肯定し昇華するのが、アーティスト・竹村京さんの作品です。
「破損モネ」とも呼ばれるクロード・モネの《睡蓮、柳の反映》は、2016年にルーヴル美術館で約60年ぶりに発見されました。旧松方コレクションとして国立西洋美術館にやってきましたが、作品の上半分が大きく欠損しています。この欠損部分を補うのが、竹村さんによる「刺繍」です。つややかな絹糸を使い、失われたイメージを補完することで、一枚の絵が新しい命を得て生き返ったように見えます。想像のレイヤーを重ね、鮮やかな景色が広がる美しさをぜひ体感してください。
ここまで4名の作品をご紹介しましたが、「国立西洋美術館」のイメージとは異なる内容に驚かれた方も多いのではないでしょうか? 今回、参加されているアーティストは全部で21組。まだまだご紹介しきれないほど、あらゆる多様な目線によって美術館への提案や、芸術の在り方が示されています。西洋美術や現代美術がお好きな方はもちろん、美術展が初めての方でも双方を同時に知っていき、比較してみる贅沢な楽しみ方ができますよ!
現代を生きる作家たちが、今発信するメッセージを、歴史の磁場となる国立西洋美術館で受け取る。過去と今、そして未来が交錯する空間で、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」という問いを考えてみませんか?
文/清水美里(おちらしさんスタッフ)
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