#30 ヒトが共通して「美味しそう」と思う食べ物はどんなもの?【ニューロ横丁10軒目:食べ物③】
飲食店に行って、メニューに美味しそうな料理が載っていたら、ついつい頼みたくなってしまいますよね。では、より多くの人が、見た目だけで「美味しそう」と思うのは、どのような食べ物なのでしょう?本日も「食べ物」について深掘りしていきます。
食の好みは違っても共通して美味しそうに見える食べ物とは?
どんな食べ物が美味しそうに見えるのかというと、私たちの祖先は猿であったので、猿が美味しそうと思うものに、ヒントが隠されているのかもしれません。そのため、みずみずしさが伝わってきたり、熟れたものであったり、スーパーで真っ赤なイチゴを見て「美味しそう」と思うのは、そういうことだったのです。
また、基本的に人間は、効率的にカロリーが摂取できるものを見ると、それを「美味しそう」と思うことが多いです。脂質が含まれていることが分かる視覚的な情報は、「美味しそう」と感じるために、とても大きな役割を果たしています。
例えば、マクドナルドの揚げたてのポテトで、表面に油がギラギラと光っていたり、二郎ラーメンの油や巨大なお肉がたくさんのっている見た目であったり、そのようなものは見ただけでもカロリーが高いことがわかるので、美味しそうに目に写ってしまうのです。
他にも、メイラード反応といって、食べ物を加熱した時に、糖とアミノ酸が褐色に変化するものも、茶色くて、よく焼けていて、脂質が多そうで、カロリーがいっぱいである情報として捉えることができます。炭水化物がメイラード反応を起こして茶色いカリカリに焼けたワッフルの上に、真っ白なクリームがたくさんのっている、油と糖質の塊のようなものは、カロリーの手がかりとして脳に刺激を与えているのです。
一方で、人間はカロリーのような原始的なものだけではなく、ミシュランの星がいくつである、この店は代官山の一等地にあるなど、それだけでなんだか美味しそうなお店だと期待してしまう、情報を食べる生き物でもありります。そのようなブランドは、純粋な味覚体験や五感体験以外の情報によって、価値が生まれるようなものです。
しかし、美味しいと実際に感じるものが、みんな均質なのかというと、前回もお話ししたように、人それぞれで、多様であります。西麻布の高級焼肉が美味しいと思う人がいれば、チェーン店の牛角がやっぱり一番美味しいと思う人もいて、脂質が含まれていそうな見た目というような、人が美味しそうと感じるものに関して、多少の共通項はあると思いますが、好みには多様性があるところが、食べ物の面白いところです。
生牡蠣を食べるのが怖い!その克服方法とは?
幼いものから食べてきたものや、色々なものを食べてきた経験が、人の食の好みを形成していますが、その反対も考えられます。例えば生牡蠣です。生牡蠣が大好きだったのに、1回あたってしまい、そこから食べるのが怖くなってしまった、嫌いな食べ物になってしまったという人もいるのではないでしょうか?
しかし、これは人間の機能の中で、必要な学習であるということができます。「これを食べたらお腹を壊した」というものがあるのであれば、それを食べるよりも避ける方が、生物にとっては良いことです。反対に、お腹が痛くなっても食べ続けてしまうのは、悪い習慣とも言えます。ロボットのように、無目的な、ただ口にものを運ぶ動作と同じです。何かを嫌いになるというのも、大事な能力なのです。
しかし、牡蠣のように美味しい食べ物を食べられなくなってしまうのは、もったいないですよね。これも「牡蠣にあたってしまった」という、一種のトラウマです。危ないので食べなくても良いと思うのですが、どうしても食べたかったら、エクスポージャー療法というものが、一番効果量が高いと言われています。
どのような療法なのかというと、ひたすら牡蠣を食べる療法です。学習のためには、牡蠣をもう一度食べて、「あたらない」という経験をすることが大切です。「牡蠣を食べてもお腹が痛くならない」という経験を上書きしてあげることによって、例えば脳の中で「牡蠣」と「恐怖」という感情が結びついていた場合、「牡蠣」×「お腹痛くならない」、「牡蠣」×「まぁまぁ美味しい」というように、脳の中での牡蠣と感情の結びつきを変えていきます。牡蠣はあたってしまうこともある食べ物なので、牡蠣で実践するのは危ないかもしれませんが、どうしても好きで食べたいのに、何かしらの経験から、怖くて食べられないというものがある人は、トラウマの克服として、食の好みを変えてあげたら良いと思います。
また、これまで何度もお話ししてきた、ニューロフィードバックとも繋がるところがあります。ダイエットの回で、例えば焼き肉などのハイカロリーなものと、「食べたい」という感情の結びつきを消していくことで、痩せる脳が作れるというお話をしました。このようなものの反対に、「牡蠣」×「怖い」という感情を再配線していけば、牡蠣はそんなに怖くないと思えるようになるのです。
食べ物を美味しく食べるために
コロナに罹ってから、嗅覚神経に炎症を起こして、食べ物の中心である香りを感じられなくなることによって、食べ物の味がわからなくなってしまったという人を見かけたことはありませんか?
そのような人たちの中には、食べることへの楽しみを失ってしまい、食の好みが大きく変わってしまったり、嗅覚を取り戻した後も、ご飯をあまり食べなくなってしまったり、という人も何人か見かけました。このようになってしまった人たちが、また食べ物を食べたいと思えるようにするには、どうしたら良いのでしょうか?
嗅覚を取り戻したら、やはり再学習をしていくことが大事になります。色々な香りのものを食べてみて、美味しいと思う経験を上書きして作っていくことで、また以前のように食べることの楽しみを、取り戻すことができるかもしれません。
食べ物の味がわからなくなり、食べ物を食べなくなってしまうのは、長く続いてしまったら、とても危険なことですよね。うつ病の主要症状の一つに、食べ物の味が段ボールのように感じてしまうというものがあります。それくらい、心の状態がよくないと、「美味しい」という感覚はなくなっていってしまいます。
そのため、美味しく食べ物を食べられるような脳の状態に、トレーニングをしていくということも、大事なことなのかもしれません。そのような脳の状態を作るために、人間にとってギャップはとても重要な要素であります。そのため、お腹を空かせてあげたり、後でビールを美味しく飲むために運動をたくさんするというように、体を疲れさせたり、喉を乾かしたり、何かを頑張ったり、自分をマックスの状態から下げていく行為をすることで、普通のものを食べても、いつもより美味しく感じるようになるかもしれません。
人間は期待との誤差で価値を表現するという話を以前もしたと思いますが、すごく美味しいものを食べるというアプローチと、自分を低めていって普通のものを食べるというところに、美味しく食べ物を食べるためのコツがあると思います。
まとめ
食べ物を美味しく食べるという意味では、油が入っていたり、メイラード反応があるような、茶色くてカロリーがありそうなものを、私たちはある程度共通して「美味しそう」と思います。それは人間にとってカロリーが必要なものであるから、そのように感じるのですが、とはいえ前回もお話ししたように、食の好みは多様にあります。
その中でも逆に嫌いになってしまう食べ物もあり、例えば食当たりによって嫌いになってしまった食べ物は、それ自体はより良い学習と言えるのかもしれませんが、本当は食べたいのに苦手なものがあるのだとすれば、もう一度チャレンジをして、それが安全なものであると感じられるような努力をすると、苦手なものを克服できるかもしれません。
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日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。
番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜
パーソナリティー:茨木 拓也(VIE STYLE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花
配信スケジュール:毎週金曜日に配信
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