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買い物あれこれ②ティファニー ハードウェアのブレスレット
リーマンショック後の就職活動であっけなく散り、大学卒業後は非正規雇用やら自営業やらで割とふわふわした感じの二十代を過ごした。
三十を過ぎて運良く今の会社に拾われ、初めて会社員として働き始めたときに困ったことがあった。
ちゃんとした場に着けていくちゃんとしたアクセサリーがないのだ。
むかし文化屋雑貨店で買ったネックレスみたいなのしかない。
サイババが微笑むペンダントトップではどうしようもない。
女性の服装に無頓着な上司でもさすがに二度見するだろう。
取り急ぎポチった2,980円のネックレスでしばらくはやり過ごしていた。
ほどなくしてイオンモールのジュエリー屋で初めて指輪とネックレスを買った。
薬指でささやかに輝くダイヤモンドのハーフエタニティは、職場の変な人からのアプローチを避けるのが主な目的ではあったものの、着けているだけで少し嬉しい気持ちにさせてくれた。
一粒ダイヤのネックレスは価格のわりにはなかなかの大きさで、いい買い物をしたと思う。イオンモールのジュエリー屋を侮ってはいけない。
ある日インスタでティファニーの広告をたまたま見かけた。
ティファニーといえばオープンハート、程度の浅すぎる知識しかない私である。
サイババのネックレスを買う女はオープンハートに興味がない。
が、
なになに、ハードウェア?
こういうのもあるの?
ティファニーみたいな正統派がこういういかついのも出してるの?
かわいい〜
とギャップに心を撃ち抜かれ、かなり欲しくなってきた。
しかしながら地元には店舗もなく、ネットで買うのもアレだし…という感じで、SHEINで数百円のパチモンをカートに入れて放置したまま日々を送っていた。
それからしばらくし、旅行中に涼を求めて入店した大丸神戸店でのこと。
あの時尿意を催してトイレに寄っていなければ、同じフロアにティファニーの店舗を見つけなければ、試着だけするつもりだった私に「買えば?」と母が声をかけなければ。
それはそれで慎ましくも楽しい生活だっただろうけど、今よりは少し退屈だったかもしれない。人生は偶然が重なって少しずつ形作られるのだとつくづく考えさせられる。
ティファニー ハードウェア シルバーブレスレット。
元々はミディアムが欲しかったのだけど、試着してみるとなんかヤカラっぽいな…とマイクロを購入。結構小粒なので単体だと少し物足りないのだが、腕時計と合わせるならそれくらいのボリュームがちょうどいい。
白いシャツの袖から覗くシルバーの腕時計とブレスレットがなんとも爽やかだ。
今どきティファニーのブレスレットなんて女子高生でも気軽に買うだろうけど、初めてハイブランドのお店でジュエリーを買った高揚感はなかなか悪くなかった。
人より二周くらい遅れて生きてるなぁと思った時期もあったけれども、その分まだまだ知らない楽しみも残されているようだ。