AIが生成した中古レコードを本気でDig
本気のDigなので、デザインの良し悪しより、何より大事なのは「ヤバイ音の予感」。己の偏りまくった主観が唯一の基準だ。
かつてはマイ妖怪アンテナの導きに従い、得体の知れない中古レコードをゲットしては自宅で大ハズレを繰り返す日々だった。後悔は棚に差し込めば捨てたも同然。俺はリスだ。隠したクルミをあちこちに忘れながら歳を重ねる。かくして部屋はゴミで埋まってゆく。
いや、待ってくれ。見て欲しいのは、うず高く積み上がったウォール・オブ・ゴミのことではなくて、そのゴミたちによって磨かれ、やがてブランクーシの彫刻みたいに研ぎ澄まされた、ヤバイ盤を逃さずゲットする心の妖怪アンテナなんだ。言い方を変えれば病巣とも言える。
この病巣に住まわれた奴は「ダンボール箱に薄いものがギッシリ」な様子を見ただけでドーパミンが過剰分泌される。企業パンフだって、カニ食い放題のチラシだって、全部一緒くたに「まだDigられていない初荷」として、まずは判断する。
そのあとでようやく、ああ企業パンフか、カニツアーかと溜飲を下げるのだ。
OK。カニツアーでよかった。レコード遭遇回避。ナイスチルだ。今日もバカな散財をせずに済んだ。よし。この勢いでまっすぐ家に帰るんだ。
で、その、帰った家が一番ヤバかった。今は画像生成AIがある。行き場を失った彷徨えるディガーの魂は夢遊病に導かれ、体は自然にPCが置かれたちゃぶ台まで誘導される。そしてキーボード越しにおぼつかない指先でプロンプトを入力するのだ。
「中古レコード、昭和」
狂気に蝕まれたディガーは、使えるものはコックリさんだって使う。
ヤバそうな文句を片っ端から投入し、雑なデザインのジャケットをAIに作らせてはブチ上がり、生成ハイで狂喜しながら眠る。ついに我が家も安住の地ではなくなった。
しかし、明けても暮れても生成は結構だが、これじゃやってる事はレコード製造業だ。俺がやりたいのはあくまでDigであって、クリエイティブには興味がないのだ。
そうと決まれば生成なんて時間のムダだ。やるべきことは、jpg画像の凝視。真剣勝負だ。超がつくほどの無意味な死闘の果て、俺は見えない溝を全て掘り起こし、いずれ涅槃で奏でられる極上かつ形而上のグルーヴを幻聴するのだ。
道を誤ったディガーの成れの果てが漂着したのはAIだった。目指すはビッグデータへの埋没。いざ廃人!!
まずは上段真ん中。時代性過多のジャケで「ラララ」と来たら、それはあからさまなグルーヴのサインだ。拾ってくれと言っている。ギターを抱えた女性がまさかのコーラスのみ、というのはよくある話。
密かにヤバそうなのは中段右。髪型を整えた中年男性がダラダラしていたら、その盤にはだいたい重いグルーヴが挟み込まれている。
中段左も捨てがたい。体温のある温かいリズムを感じる。
下段は全滅の予感。たぶん全部おんなじ音。
左下に爆発物発見!
ギター単独ジャケの、ブチ壊れたフォント使いにただならぬリズム感を幻視。これは秒速でゲット。黒バックに赤フォントはまず「かっこつけようとしている」と思って間違いない。かっこつけてるなら、それは当然かっこいいんです。
ド真ん中の落胆ジャケは珍しさが漂うものの若干の説教臭さを感じる。グルーヴと説教の相性は最強(ヘイユウブルース等)だが、運動神経の欠落した説教は耐え難い。残念だがスルー。
ポール・アンカ地獄。これくらいの時期の洋楽はどこか「いい気なもんだ感」が溢れていて、実はグルーヴと対極の空気を放っている。「ひょっとしたらアタリもある?」の妄念はドブ時間によって自戒へと変換される。ポールアンカ臭がしたら全スルー。それがディガーの基本とも言えるが、そこにも果敢にダイブするのが真のディガーとも言える。もっとオッサンが練れてきたら聴けるのかもしれない。
イケてるエサ箱(販売中の中古レコードが入ったダンボール)。
随所にポールアンカ風、シナトラ風が散見するが、ノイズの向こうにヤバGSの影もちらほら。中段右の画面構成にブルーコメッツ的なグルーヴの予感。キープ。
中段左はちょっとギャンブルか。デザインで奇をてらったものは、曲の空気が少しブレていることが多い。悩みどころ。
下段左右の女性歌手。50s日本の空気感で、タイトルにカタカナ使っていたらまず損をかぶることはない。右下レコードの背後にほの見える加山雄三風もサーフミュージックの予感が漂うが、左下レコードの背後に控える赤い自動車の予告が激アツ。美女、カタカナ、赤い車。ハズレる理由がない。
エサ箱には思いもよらぬものが混入する。真ん中のジャケなしEPなどはご愛嬌として、ドサクサに右上でくつろぐ高齢者の写真は、どう考えても下取りに出した前オーナーの不手際によるものだ。
他にもマジックでちょっと困るくらいの大きさで書かれた愛の誓い等、レコードにはできれば抹消したいであろうデジタルタトゥーならぬ当事者すら忘れているアナログタトゥーが刻まれていることもあり、それらは今ものんびりしたペースでオーナーたちの手を渡り歩いている。
忘れていた。本気のDigだった。
安牌を取るなら左下のずうとるび風。少し冒険するなら左上の和ドバと和ビデ。しかし和ドバは昭和後期軽薄居酒屋歌謡という地雷性もやや残留。悩む。
中段右の黄色レコード。説明過多っぷりと瓶つけっぷりにアキラ小林を念視。不明瞭なフォントを心眼で翻訳すればおそらく、タイトル冒頭は「アキラの」だ。買うしかない。
…これ楽しいな。ずっとやれる。
飽きるまでは、たぶん何回か続けると思います。どうか、お付き合いいただければ幸いです。