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【魚食の未来】#1 水産資源のこれから(下)

魚食好きのフカサメです。勝川先生のインタビュー後編です。お魚のモヤモヤがスッキリに変わるお話、まだまだ続きます! 引き続き読んで頂けるとうれしいです。

養殖魚を選ぶのは、エコ?

養殖技術にも色々ある

-----売り場にはタイやハマチなど養殖のお魚もたくさん並んでいます。回転寿司の人気メニューのサーモンも養殖です。自然の漁模様に左右されないから、将来も食べられそうだし。これって持続性があるということですか?
 
ちょっと言葉の整理がいりますね。漁業でいう持続可能性とは、生物資源が自然に再生産できる状態を指すものです。養殖業の場合は種苗(卵や稚魚)、餌など、人が手を入れないと回らない要素がありますから、海が自ら再生産できることとは区別しています。
 
----- なるほど。では改めて、養殖のお魚が増えるのは海のためにもいいことですか?
 
養殖魚を選ぶことが、その魚種の天然資源の回復につながる”可能性”はあります。”可能性”というのは、餌の原料や、1キロの魚を育てるのに何キロの餌が必要か(飼料効率といいます)、大量の水の処理方法など、環境負荷に関わるポイントがいくつもあるからです。そうした課題をクリアした養殖魚であれば、“海を休ませる”ことに役立つでしょう。
 

”海を休ませる”という視点

----- 少し予習したんですが、海を利用するのが海面養殖、陸に設備を建設して行うのが陸上養殖ですね。
 
大まかにその2つで、それぞれメリットとデメリットがあると思います。海面養殖といえば、北海道猿払(さるふつ)町のホタテ地まき養殖などは、海の生産力の高さ(プランクトンなどの豊富さ)を上手に利用して、漁獲した餌を与えずに高品質の生産を続けています。陸上養殖の魚種は、他の魚より少ない餌で大きく育つ(飼料効率がよい)サーモンが多いので、後は汚水を出さない技術が鍵になると思います。養殖魚が資源の回復に役立ち、適切な量を獲りながら海をずっと利用していくことにつながる可能性ですね。
 
----- 先行きを感じて、ちょっと元気を取り戻してきました(笑)。

知りたい!海のエコラベル

----- 養殖魚を選ぶことが海の役に立つかどうかは、一概に言えないんですね。実際に買う時、選ぶ目安はありますか。
 
ひとつの目安になるのは、2つの国際認証制度です。ひとつは「水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然水産物」に与えられるMSCラベル。もうひとつは「海の環境への負荷を抑え、地域社会に配慮した責任ある養殖業」に与えられるASCラベル。MSCは天然漁業、ASCは養殖業が対象で、どちらも第三者機関によって審査認証する仕組みになっており、この2つは”海のエコラベル”とも呼ばれています。

ASCは養殖漁業を認証。
MSCは天然漁業を認証。

----- 国産のお魚にも海のエコラベルはついていますか?
 
認証の最新情報はホームページで見られますが、国内でMSC認証を受けた漁業者はまだ非常に少なく、ASC認証は比較的取得が進んでいます。2つはもともと海外の水産業をもとにした制度ですから、特にMSC認証の場合、より多くの魚種を扱う日本の沿岸漁業にフィットしないという点は課題です。でも、日本国内の魚にエコラベルがついているからといって、その価値の分だけ高く売れるとは限りません。生産者にとって、認証にまつわるコストとメリットが見合っていないように見えます。日本の実情に沿って第三者が認証し、その結果、買う人が漁業者を応援したくなるような、わかりやすいエコラベルがあるといいのにと思います。

お魚好きな人が、今できること

----- ちょっと話がずれますが、野菜とお魚ってだいぶ違いますね。野菜は有機認証などのラベルで選べて、専用売り場も見かけます。
 
そこが難しいところなんです。水産物はいつ何がとれるかわからないので、流通の仕組みが好不漁にうまく対応しています。その一方、水産物の価値をきちんと伝える事が難しいという一面もあります。要するに、野菜のようにトレーサブル(生産から流通までの追跡ができる状態)ではないからです。
 
----- 確かに、魚介の産地偽装のニュースを思い出しますね……。
 
トレーサビリティについては、養殖業が有利ですね。誰がどんな環境で育てたかを、はっきりと食べる人に伝えることができます。何より、安定した質の水産物を計画的に出荷できるのは強みです。出荷直前まで元気に生かしておけるから新鮮で、漁獲で魚体が傷むリスクもなく、生け簀に長く置かれて痩せるようなこともないでしょう。

---- そう考えると、天然だから必ずしも質が良いとは言えないかも。
 
以前は、「養殖もの」を「天然もの」の代替品とみなす人が多かったですね。養殖魚の品質が上がったことから、天然より劣っているという感覚はなくなりつつあります。むしろ、養殖の方が評価が高い魚種も少なくありません。今後はよいものを作るだけでなく、養殖ならではの価値を、実際に食べる人へどう伝えるか。そこを考え続ける事が大切なのだと思います。
 
----- 私のようなお魚好きの生活者(消費者)ができること、他にもありますか。
 
持続可能性を無視した消費は将来の選択肢を減らしてしまう。消費を変えていく事で生産も流通も変わる可能性がある。と言いたいところですが、消費者教育で「あれもダメ!これもダメ!」と言われると、聞く方はしんどい、続かない(笑)。だから、まずは「これおいしいね」からスタートして、生産者や生産現場のことを知りたくなって、何を選ぶかを自然に考えるようになっていく。そうした流れが一番いいのかなと思います。

----- お魚の未来には「資源管理」と「先を見据えたお魚選び」が大切なんですね。先生は食育にも取り組んでいると聞いたので、最後に紹介していただけますか。

さかな大好き」という、生産地と消費地をつなぐ魚食教育プロジェクトに取り組んでいます。子どもたちが漁師さんに会い、生きた魚を触り、実際に給食で食べるといった内容です。


【フカサメ後記】
2回にわたってお魚の現状と今後の可能性をお聞きして、天然と養殖の関係について改めて考える機会になりました。魚食好き的には、売る側はもっと伝えて欲しいし、買う側の私も食べながら学びたい。そうしてお魚の価値をわかって売り買いできたら、魚食を楽しめる未来が少し見えてきそうです。勝川先生、ありがとうございました!