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トークイベント『演劇の現在地』に参加してきた


Hibiya Festival 2024のプログラムとして開催された、GAKU主催のトークイベント「演劇の現在地」に参加してきた。

演劇ジャーナリストの徳永京子さんをファシリテーターに、劇作家4名をトークゲストとして迎え、演劇の現在地を「連帯」「平等」「自立」「公開」「継続」の5つの面から掘り下げていく内容だった。印象に残った話を、また、一観客の視点から思ったこと、感じたことを記しておく。

追記:内容・発言に関してはニュアンスで捉えている部分があります。自分用のメモとして書いたので、悪しからずご容赦ください…。



イベント概要


日時:5月5日(日)16:00-18:00
会場:東京ミッドタウン日比谷  

ファシリテーター:徳永京子さん

トークゲスト:
池田亮さん(「ゆうめい」所属)
カゲヤマ気象台さん(「円盤に乗る派」代表)
関田育子さん(「関田育子」主宰)
山田由梨さん(「贅沢貧乏」主宰)


まず初めに、徳永さんが5つのテーマ設定の理由について導入となる説明をされた。小劇場演劇の興隆から、コロナ禍を経て今日に至るまで。演劇(特に小劇場演劇)の状況について、普段観劇をしない方にとっても「現在地」がなんとなくイメージできるような、非常にわかりやすい解説だった。

奇しくもイベント当日の朝、唐十郎氏の訃報が飛び込んできた。
徳永さんは、日本の劇団は海外の劇団と比べて圧倒的に作演出トップダウンの方式が多いと話す。その理由として、寺山修司・唐十郎という二人の天才がいたからこそ、後続がそれに倣ったのだという指摘が面白かった。

(徳永さんのXのポスト↓)



続いて、それぞれのゲストが各自割り振られたテーマを中心に、自身・所属劇団あるいはプロジェクトの活動を紹介しながら話をする。

【連帯】


👤カゲヤマ気象台さん(「円盤に乗る派」代表)

「円盤に乗る派」は表現者がフラットにいるための時間・場所を作るためのプロジェクトであり、それぞれの内的なものを並び立たせ、個性として表出させているという。

「円盤に乗る場」と名付けたアトリエを構えており、複数組のアーティストが共同で創作をする場になっているそう(詳しく知りたい方は是非noteの記事を読んでみてほしい)。

しかし、アトリエを構えることで創作以外の煩雑な仕事(建物の維持管理など)に時間を取られたり、中心であるカゲヤマさん自身が企画を発案したりしなくてはならないところに難しさがあると語っていた。

また、「円盤に乗る派」のプロジェクト内にはウォッチャーという立ち位置のメンバーがおり、観客の視点や社会常識的な観点からの意見を得ているという話も興味深かった。

【平等】


👤山田由梨さん(劇団「贅沢貧乏」主宰)

贅沢貧乏は大学の友人たちの集まりからスタートし、変遷を経て現在は俳優3名、制作1名、劇作家1名の5名で活動する形に落ち着いたという。

初めは小劇場で作品を発表していたが、劇場を借りる1週間のうちに稽古・場当たり・本番…をこなすことは難しい、それなら稽古場と本番を同じ場所にしよう!と、場所性を利用した演劇に辿り着いたのだそう。一軒家やアパートメントを借り、そこで劇を行う手法を採った。

その手法の特殊性からだろうか、作品づくりにかかる収支も公開する観客参加型の会議を開いたことがあるという。

平等=フェアネスという言葉を用いていたが、客演含め役者の生活状況を丁寧にヒアリングし、アルバイトなどそれぞれの都合も大切にすると話されていたことが印象的だった。

【自立】


👤関田育子さん(「関田育子」主宰)

「関田育子」では、広角レンズの演劇と定義付けて、俳優の身体と舞台の壁や床が等価値に見えるような作品づくりをしているという。

ユニットのHPを見てほしいのだが、演劇に多くありがちな、ふわっとした部分(=感覚的な部分?)が明確に言語化されている印象を受ける。関田さんと、プロジェクトを一緒に行う仲間=クリエーションメンバーの間でコンセプトのすり合わせが綿密に行われているのだろうと思った。

また、用意された資料として『雁渡』の記録映像を観たのだが、舞台上に何もないからこそ、人間そのものの動きそれ自体に価値を再発見でき、解像度を高めていると感じた。


【継続】


👤池田亮さん(「ゆうめい」所属)

「ゆうめい」では、日常の中から生まれた発見をメンバーで話し合い、作品づくりのきっかけにしているという。最新作『養生』では、あとがきで劇団の経済状況を赤裸々に公開し、反響を呼んだ。

『養生』は池田さんら劇団員自身の日常に着想を得た作品だったからこそ、このようなあとがきが完成したそう。

ちなみに、イベント内でも触れていたが「700万円の赤字!?」と話題になった『ハートランド』が第68回岸田國士戯曲賞を受賞した(おめでとうございます)。優れた戯曲・作品が必ずしも黒字になる訳ではないことに、演劇をつくる難しさを感じる。以前、大学の講義で、非商業演劇のほとんどは助成金頼りと聞いたことを思い出した。

また、『養生』のあとがきが読めるHPについて、イスラエル企業が管理に携わっていたため、別のWEBサイトに移行中だとおっしゃっていた。イベント内でそれ以上の深堀りはなかったが、つい、Xで話題になっていた神奈川芸術劇場(KAAT)のイスラエル大使館後援の作品のことが頭に浮かんだ。


フリートーク

そして、それぞれのトークが終わり、ゲスト同士で質問を投げ合う自由なトークセッションに。


企画発案を主宰が担うかという問いに対して、池田さんは劇作家ではあるがそもそも主宰ではないという話に。池田さんは作品のイメージをビジュアル、宣伝美術から思いつくことが多く、それをメンバーに話すことで、演劇・自主企画・アニメーション、実験的なものetc…どの表現形式に適するのかが定まるそうだ。

面白かったのが、「公開」によるオリジナリティについて。

先に述べたが、「ゆうめい」は『養生』において収支からチケットの予約変動に至るまでをあとがきで公開している。贅沢貧乏も企画会議(イベントのようなもの?)で収支を観客に共有した経験があり、「公開」によるオリジナリティが作品に付加されているように思う。

カゲヤマさんは「公開」することの実験性を指摘していた。作品本体/実験的な部分を分けること、観客に対して伝えたい情報を整理することも必要だと。

個人的には、観客が情報に接することで演劇を観る上での博打的な要素を減らせると、山田さんが述べていたことが印象的だった。不況、チケット代の高騰で、観客も演劇を観るための博打を打てなくなっている。表現者の経済状況が苦しいことは重々に知っているが、実は観客側もまた同じで、演劇が気軽に観られる娯楽ではないのが現状だ。これもまた演劇の現在地なのだろう。

逆に、関田さんは、開示する情報はかなり選んでいると仰っていた。演劇の強みである秘密性を大切にしたいため、そちらに全振りしていると。

結局、作り手側から与えられた情報を受け取るも受け取らないも観客側の自由であるので、楽しみ方が増えるという点では、私は情報公開に賛成だ。実際、ゆうめいの『養生』を観て、観劇後にまえがき/あとがき他、付属の制作物を拝見したのだが、見方や感じ方に新たな視点が加わって興味深かった。

ただ、「公開」も「秘密」もそれぞれの選択が作品のオリジナリティとなることに異論はない。演劇の現在地が多様化していることを、最も感じたトークだったかもしれない。


Q&Aで生まれた問い

最後に、トークゲストに対して参加者の質問を受け付ける時間が設けられた。

質問の中で、作り手と観客の分断を指摘していた人がいた。

「素人は黙っていろ」という雰囲気、作り手>観客という対等でない関係(この点に関しては、観客に作品の選択権があるのだから必然ではない気がする)などなど。この問いは、感覚的なものであるし、また、あまりに影響する範囲が広すぎて、イベント内での明確な答えは出なかった。

私なりにこの問いに対する答えを考えてみて、二つ思うことがあった。

一つは、教育に演劇を組み込むことである。平田オリザ氏の著作でも指摘されていたことだが、日本の公教育に演劇という芸術分野は存在しない。「音楽」「美術」のように教育に「演劇」を取り入れ、誰もが演劇の「やる側」を経験することで、観客の中にも作り手の素地が生まれ、二者間での感覚的な溝が狭まるのではないだろうか。実際、今回のイベントの開催目的にも同様のものが見出せるように思う。それをもっと普遍的、大規模に行うべきなのではないだろうか。

二つ目は、観客側からの発信をもっと積極的に行うことだ。カンゲキ大賞のような、観客主体の事業やコミュニティがもっと広まれば良いのに……と。また、Filmarksの演劇バージョンとでもいうべきか、観劇記録アプリがもっと浸透するべきではないだろうか。「こりっち」や「シアティ」に同様の機能はあるが、あまりに利用者が少なく、知名度も低いのが問題だと思う。

そういう意味では、今回のイベントも観客同士での交流機会があればもっと満足度の高いものになると思った。時間が押していたためどうしようもなかったが、終わった後もファシリテーターやトークゲストの皆さんと話す機会があれば嬉しかった。映像配信についての見解を聞いてみたかったなあ…と思うなど。

それでも、無料のイベントでこんなに様々な視点から面白い話を聞ける機会はそう無いと思うので、企画実施を担ったGAKU、登壇者の皆さんにはただただ感謝です。また同様の取り組みがあったら参加してみたいな〜と思いました。

(画像は、Hibiya Festival公式Xからお借りしました。@hibiyafestival)

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