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モノ書きのかじりかけは、お茶などのんで❸文体発見伝

あっちでもこっちでも、文体、文体というけど、文体ってなんなんだ(´⊙ω⊙`)
というわけで今回の<謎>は「文体」です。

あれはまだ、「文豪による”カップ焼きそばの作り方”」のシリーズが世に出る前の話です。
(↑これ読んだら「文体」ってこういうことか!って分かったと思う)

やれ文体〜あれ文体〜あはれ文体言うのは、純文学方面が多い気がしますが。
文体って、雰囲気とか、味とか癖?筆致とは違うの?何をどこまで文体と呼ぶの?
と、もやもやしていたところ、ふと思い立ち、僕は朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」をおもむろに広げ、最初から文章を写し始めました。
内容は一切かえず、”地の文”と”セリフまわし”だけを変えて書いていったんですね。
こんな感じです。


【ご本家】

「つーかゴム高(たけ)えー!」
ドラッグストアに大声を浴びせる竜太を見ながら俺は笑う。たぶん桐島もそういうことなんだ。ぱっとやめるとか思っちゃって、それを軽くそのまま口に出して、それをたまたまこいつが聞いてて、そして今、こいつから俺にぽんと伝わってしまっただけだ。
 シャー、という音が聞こえる。足を少し広げて、体重を背中の後ろに持っていく。道路の白線をどんどん追い越しながら、たくさんの危うさを感じながら、タイヤは道路とこすれてシャーシャーと鳴く。
 正面で、夕陽が山に編みこまれていく。夕陽のてっぺんが眩しくて、俺は目を細めた。


【シロート】

「つーかゴム高(たけ)えー!」
竜太は通過しながらドラッグストアに大声でアナウンス。俺は笑った。桐島のことをふと思う。同じだ。ぱっとやめるとか思って、それをそのまま軽く口に出してーーー。こいつがそれを聞いたのはたまたまで、俺にぽんと伝わることはただのなりゆきで。
 チャリの車輪の途切れない高音。重心を後ろにずらし、足を広げた。道路の白線が後方へ流れ去って、危うさも流れ去って、シャーシャーとタイヤの音ばかり。
 目の前で沈んでいく夕陽が、山の木々をシルエットに変える。夕陽のてっぺんの光、眩しさに目を細めた。

なぜ「桐島、部活やめるってよ」だったかというと、話が難解でない、キャラクターもテーマも共感できるし分かる、方言が地元に近い言葉だったから、なんですが。
並べるなよ(怒)!!!!
と朝井先生のファンの方から(そうでなくても)𠮟られそうですが・・・。
一章まるまる+数項、この作業をして、朝井リョウが書いたものと自分の書いたものを見比べました。

「ゥゥゥオーター!!!!」

と叫びこそしませんが、ヘレンケラーが水を理解した瞬間級の”理解”に打たれました。
こ、こ、こ、これが「文体」・・・

そこには明確な差がありました。
物語の内容や文意は変えていないにもかかわらず、別物といえる”差”がありました。
印象、伝わってくるものが全く違うのです。

僕は僕で、あらん限りの整合性でもって書いたつもりでしたが、もうそれは「桐島、部活やめるってよ」ではなくなっていました。
そりゃあ、直木賞作家のご本家のほうが当然いいでしょう。上手いに決まってるでしょう。
では〈何〉がいいのか?
そこが「文体」の〈謎〉を解く肝なではないでしょうか!?

リズムや細部に登場人物の身体感覚が出ている。若者の移ろいやすい心が伝わってくる。
上記の夕陽のシーンも、シンプルだけど、目に映ったものから全て伝わる。山が低いことも、近くにあることもよくわかる。それらがいいのか?
細かく引っ張り出してこれば、長所はたくさんあるでしょう。でもそういうことじゃなかった、・・・WATERは。

朝井リョウの「主題」は、朝井リョウの「言葉」でしか書けない。

その小説にはその小説にもっともふさわしい言葉がある。その作家にはその作家が書くにもっともふさわしい言葉がある。
「内容」「テーマ」「ストーリー」「登場人物」「小説の雰囲気」、それから「文体」。どれひとつも代わりがきかない組み合わせ。

それが僕に落ちた雷のような文体の気づきでした。

文体は文体だけで独立したものでない。
自分の持っている「物語」を最もいい形で書き留められる「文体」を探そう。その時、そう思いました。


「WATER!」こそ言いませが、「桐島、部活やめるってよ、桐島、部活やめるってよ・・・」とうわごとのように繰り返し、もう、「桐島、部活やめるってよ」は「文体」と同義語になったのでした。
(だから朝井ファンの皆さま、シロートが書きかえたものを並べても気を悪くなさらず〜)


それから、いろんな小説を「自分の言葉」で書き換えてみることにしました。
試しにいっぺんやってみると、相互の理解になるかと思います。
まあ、こんなことやろうと思う人、いないと思いますが💦

文体くらいフツーに理解しろよ、と言う声が聞こえてきます(^^;;
何を大げさな、と。
労力をそんなことに使って、ばかみたいだと言われればば、かなりばかだと自分でも自覚してますが。
こんな回りくどい感動があって、今の自分があるのです。


で、次回はやっとこさ理解した(つもり)の<文体>から、一歩踏み込んで(もしくは後退して)、「自分の文章がダサーい(T_T)」というテーマで書きますね。

あ、この作家の文体好きだよーとかあれば教えてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!



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アイウカオ
読んでくれてありがとうございます。