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点Pを求めなさい(小説4)

AはBが好き、BはCが好き、そしてAとCは友達。

三角関係の代表例と言えばこれになるだろう。そして、この中で一番可哀想なのはAだ。なぜならこういった関係の基本的な流れは、Aが自分の気持ちを抑えてBの恋を応援するといったものになるからだ。

そしてまさに今、そのAが僕だ。

だけど僕は自分の気持ちを抑えて恋を応援する気はない。僕が付き合いたい。だから、僕はこの古くからあるこの方程式に終止符を打つ。

しかし、焦るのは禁物だ。すぐにでも僕がユリに好きなことを伝えれば、ユリは「私好きな人がいるの」という返事をするに違いない。

この方程式に終止符を打つには従来の方法では駄目だ。同じ道を辿ってしまう。

ひとまず冷静になって考えてみよう。

僕はユリが好きで、ユリはゴウが好き。そして僕とゴウは親友だ。この関係を図形に落とし込むと、三角形ができる。

そして、この三角形の辺の長さを、関係性の繋がりの強さと見立ててみよう。線が短いほど、繋がりが強い。つまり、頂点と頂点が近いほど繋がりが強いというように仮定した場合。

現段階では、僕とゴウの線が一番短くなる。そして、僕からユリ、ユリからゴウへの線の長さが同じくらいになる。

ユリを上にした三角形を考える。つまり僕とゴウの関係線が底辺に当たる。その底辺が一番短い二等辺三角形ができあがる。

これに当てはめて考えれば、僕とユリの距離を近くするには、僕がユリに近づく必要がある。しかし、ゴウとの今の距離感は大切にしたい。

となれば、ゴウを円の中心とし、「僕とゴウの関係線」を半径としたの円の内側が僕の動ける範囲となる。(境界線を含む)

この円上でベストな立ち位置は、「ゴウを中心とした円」と「ユリからゴウへ引かれた線」の接点、ということがわかる。そこを点Pとする。

その点Pに向かってまっすぐ進めばいい。点Pに到達したとき、僕はユリと付き合うことになるのだ。まさにPerfect Planだ。

そうとなれば行動しなければならない。僕はユリが通っているピアノ教室に早速電話をかける。

- 半年後 -

僕は怪しまれないように遠目から正門を気に掛ける。

レッスンを受ける日を、ユリと同じ今日にしてもらった。偶然を装い放課後、2人でピアノ教室まで向かうつもりだ。

ここまでピアノを習っていることを誰にも言わず、一生懸命練習してきた。

僕には色々な曲のレパートリーがあったし、楽譜を初めて見てもある程度なら弾けた。先生も僕の上達ぶりを褒めてくれた。

ユリの前で僕がピアノを弾けば、その場で告白されることはなくても、ある程度興味は持ってくれるのではないだろうか。

きっとうまくいくはずだ。

そう思った瞬間ゴウからメッセージが来た。何だよと思ったが、この手持ち無沙汰な時間にはちょうど良くもあった。

しかし、そのメッセージは僕を留めてはくれなかった。読み終わると同時に僕は駆け出した。

目指すはゴウの家。脇目も振らず全力で走る。途中、曲がり角で店のドアの前で俯いている人とぶつかりそうになり、よろけて車道に出てしまう。

車にもう少しで轢かれそうだったが、そんなことを気にしている暇はない。止まることなく走り続ける。

後ろでクラクションが鳴っている。

- ユリ -

私はゴウが好き。なんとか彼との距離を縮めたい。だから私は決死の思いで「一緒にパフェを食べに行こう」と彼を誘った。

少し難しい顔をしていたけど、最終的には「この日ならいいよ」と彼は言ってくれた。その日はピアノの日だったけど休むことにした。

当日、裏門で待ち合わせてスイーツ店に向かう。彼は明るく接してくれようとはしていたけど、様子が変だった。

それでもとりあえずはスイーツ店に向かう。しかし、話はあまり盛り上がらず、スイーツ店にいたっては臨時休業。

全部がどうでも良くなりそうだったが、必死に堪える。

「臨時休業みたい。私が下調べしてなかったばっかりにごめんね。」

「ユリは悪くないよ。運が悪かったね。」

「ううん、ごめんね、もし良かったらでいいんだけど、また別の日に来ない?」

「そうしたいところなんだけど、無理かな。俺もうすぐ引っ越すんだよね。」

「そっか、、」

そこからのことはあまり覚えていない。彼は時間を確認すると、「ごめん、やらなきゃいけないことがあって。」といい行ってしまった。

私はスイーツ店の扉の前で俯き、涙をこらえることしかできなかった。

後ろでクラクションが鳴っている。

- ゴウ -

ユリと別れた後、その足でマサの家に向かう。引っ越しについて言わなければならなかった。しかし、なんだかもう会えないような気がしていた。

ここ半年くらいなぜかマサの付き合いが悪かったこともある。また、自分自身マサに何も説明できていないこの状況がそう思わせていた。

今後交わることがないとしたら、俺はマサになんて言えば良いのだろう。そもそも俺たちは最初から交わってなんていなかったのかもしれない。

いつか習った「ねじれの位置」みたいだな、とそんなことを思う。自然と歩く速度を少し落としていた。

後ろでクラクションが鳴っている。

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