どれ選ぶ?(小説20)
初めてポケモンで遊んだ時のことをよく覚えている。
最初に御三家と呼ばれるポケモンを1匹選ぶわけだが、あの生意気なライバルは絶対自分に対して有利なポケモンを選んでくる。
そもそも、あんな感じなのだから「俺が先選ぶぜ!」と言って先に選んでもおかしくない。むしろそっちの方が自然だ。
それに、余ったポケモンから最初のポケモンを選ぶのは、なんだか愛が感じられない。高い志を持った者が、これから一緒に旅していくパートナーを余り物から選ぶという姿勢で良いのか?
そしてすぐにポケモン勝負を挑んでくる。もうめちゃくちゃだ。
もちろん、こんなこといくら考えたところで無意味なことはわかっている。ゲームの都合上、そうせざるを得ない部分もある。
それに、そこを改善したからと言って、ゲームのストーリーに大きな影響を与えるわけではないので、気にするだけ無駄だ。
ただ、そうは言っても気になるものは気になる。変なところに拘るのは僕の悪いところなのかも知れない。
街に出て周りを見ると半分以上が単独行動を取っている。そして、その単独行動している人の半分がイヤホンを付けている。
イヤホンを付ける理由は様々だが、多くの場合は音楽を聴くためだろう。少し前の時代は、音楽を持ち歩けるなんて夢にも思っていなかった。「かがくの ちからって すげー!」そう思わざるを得ない。
そして、そんな僕もイヤホンをしている。向かう先は家電量販店。今しているイヤホンは有線タイプ、音にうるさい僕から言わせれば、無線タイプのイヤホンは音質は悪いし、遅延もあるしで、あまり良くは思っていない。
しかし、最近はそうでもないらしい。充電こそ必要だが、有線のイヤホンと同レベルで音を楽しめるという。そんなわけで、僕は家電量販店へ無線イヤホンを買いに行く。
店に入り、すぐ左手に大きなイヤホンの販売スペースを見つける。さっそく事前に調べていたイヤホンを探す。今回僕がピックアップしたイヤホンは全部で3つ。
3つとも、僕が決めた基準を満たしている。その上でそれぞれ特徴がある。機能が豊富なもの、デザインがいいもの、コスパが良いもの、の3つだ。
最初は機能が豊富なものにしようとも思ったが、正直使うことのなさそうな機能もある。無駄な機能があるのはなんか美しくない、それであればこのデザインが洗練されているイヤホンが良いのではないか。
しかし、デザインも大切だがイヤホンはつけている時は自分から見えることはない。そう考えるとコスパがいいものを買い、浮いたお金でサポートを手厚くした方がいいのではないか。
いや、コスパがいいと言っても安いわけではない。どうせ高いものを買うのであれば機能が豊富なものは魅力的だ。でも、使わない機能、、、
こうやって思考をぐるぐると回していると、そのうち思考が溶けてバターになってしまいそうだ。
「何かお探しでしょうか。」悩んでいる僕を見かねた店員が話かけてきた。
店員にあーだこーだ言われるのはあまり嬉しくないが、気分転換に話を聞いてみようと思った。
僕は、3つのイヤホンで迷っていること、それぞれのイヤホンの気に入っている部分、自分のイヤホンについてのこだわりについて店員に話した。
年配の店員であったが、腰が低く、僕の話にじっくりと耳を傾けてくれた。
僕の話が終わったこと確認すると、店員は「良くお調べのようですね。この3つならどれを選んでも後悔しないと思います。どうぞじっくり選んでください。」と言いその場を離れてしまった。
「え?それだけ?」と声に出しそうになる。もちろん、店員に商品をオススメしてもらいたかったわけではない。しかし、何も言われないのは、それはそれで少し寂しい気もした。
僕は拍子抜けを残したまま、イヤホンに向き直る。そして、相変わらずどのイヤホンにするのか決まらない。気分を変えようと思い、イヤホンエリアを離れ店内を大きく一周する。
特に必要ないものに、なぜこんなにも惹かれるのか。そんなことを思いながら店内をゆっくりと歩きながら見回す。
15分くらい経っただろうか、再びイヤホンエリアに向かうと、コスパに優れたイヤホンが売り切れていた。
僕はあわてて近くの店員に在庫がないのか尋ねる。店員は「すみません、そちらの商品は、先程売り切れなってしまいました。取り寄せることもできますよ。」と淡々と言った。
僕は、そうですかと軽く会釈すると、どうしたものかと考え込んだ。
狙っていたもの全てが売り切れたわけではないのだから、残りから選べばいいだけの話。しかし、1つ売り切れが出てしまうと、なんだかそれが一番欲しかった気がしてくる。
しかし、ここまで来ているのだから取り寄せだけして帰るのも気持ちが悪い。
しばらく悩んだ末に、僕は機能が豊富なイヤホンを手に取るとレジに向かった。
店を出るとすぐに袋から商品を取り出す。自分が間違った選択をしてないことを一刻も早く確認したかった。
10年越しにライバルの気持ちがわかった気がした。
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