人恋し 影に驚く 散歩道
老境自在(40)
散歩の途中で奇妙な感覚を味わった。道路脇にかかった政治家のポスターの写真が話しかけてきたように感じた。ビックリしてポスターを見直したが、写真が話しかけるはずもなく、外交的な笑みを浮かべた顔がそこにあるだけであった。歳のせいで幻覚が現れた若しくは、何かの予兆かと思いつつ家に帰り着いた。
そのポスターの主である区議会議員とは面識があるので、その場所を通る時には、「あいつ元気にやってるかな」との思いが浮かんではいた。ひょっとすると、その意識が逆転して、向こうがこちらに気遣ってくれていると感じたのかもしれない。1、2週間前にポストに入っていた彼の活動報告のチラシを読んだことが影響していたかもしれない。いずれにしても、気になったので顔をみに行くことにした。
実は、彼は私の勤めていた会社の25年近い後輩に当たり、数年で会社を辞め、発展途上国での開発の仕事に転じ、5、6年前に練馬区の区議選に挑んだ人物である。彼とは以前から面識があった訳ではなく、区議選の折に誰かの紹介で初めて会った。その後は、町内会の集まり等で会うと話をするくらいの付き合いだったが、コロナが蔓延してからは会う機会も無くなっていた。
彼の事務所は我が家から徒歩10分くらいの所にあるので、散歩ついでに事務所を覗いてみた。幸い事務所に彼はいたものの、数人の婦人とテーブルを囲んでの会議の最中だった。それでも、私を認めると直ぐに席を立って来てくれた。挨拶代わりに来訪に及んだ経緯を伝えると、破顔一笑、「わざわざ来て下さって嬉しいな」と返してくれた。会議中だったので、特別給付金の支給問題等直近の話題について立ち話をして早々に失礼した。
彼がどう思ったかは知らないが、こちらはポスターの写真の人に会えてスッキリした。気が晴れて振り返ると、散歩途中の奇妙な感覚は、コロナ下で自粛を強いられ、人と会う機会が減ったために生じた人恋しさがなせる技だと思えてきた。