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ダ・ヴィンチ子宮全摘出手術8 術後1日目・前半

ダ・ヴィンチという手術支援ロボットを使って、子宮全摘出手術を受けた。
34歳の5月半ばのこと。

夜明け

少し眠っては痛みで目が覚めるのを繰り返す。
目を覚ますたびに、カーテンの向こうが明るくなってくる。
廊下がまだ静かなので、5時くらいだろうか。
見回りの看護師さんが様子を見に来る。
「痛み止め、効いてる感じしますか?」
正直に言って、劇的に効いた感じはなかった。
ないよりはマシ。
それでも何の見栄なんだか、つい張ってしまい、
「えぇ、まぁ…」
などと曖昧に返事する。
「今はまだ追加で打てないんですが、次にもし入れるなら、同じ点滴と坐薬の痛み止め、どっちがいいですか?」
坐薬のほうが効きそうな気がしたが、挿入するときに体勢を変えるのががキツそうだったので、また点滴をお願いすることにした。
この点滴の痛み止めは、6時間空けたらまた打っても良いものらしい。
次に入れてもらえるのは7時ころか。
あとまだ2時間もある。
軽く絶望した。

6〜7時が痛みMAXであった。
腰が痛い→クッション駆使して寝返り→創が痛い→クッション外す→腰が痛い→…の無限ループ。
ああ、ちくしょう、パーッと痛みを忘れられる、モルヒネみたいなものってないかなあ。
一瞬、人間をやめそうになる。
この時間帯、その無限ループのせいで何をやってもつらく、少し動くだけで呻き声を我慢できなかった。
部屋に一人だけというのもあって、恥ずかしさを捨ててずっと呻いていた。
呻くのにも疲れて失神するように寝落ちした後、看護師さんがカーテンを開け、痛み止めの点滴を入れてくれた。
これで落ち着けば、起き上がって歩く練習をして、おしっこの管を抜いてもらうんだ…。

ガスを待ちながら

「ガスが出るようになったらごはん食べられますからね。教えてくださいねー」
ガスとはつまり、おならのこと。
明け方ごろからずっと空腹感があり、水を飲むたびに腸のあたりがごろごろと動き、胃のあたりはぐーぐーと鳴った。
小さな空気の玉が少しずつ下がって集まり、もうちょっとで大きなガスになりそうだった。
でも、肝心の出口まで来ない。
普段からあんなに屁をこきまくっていたのに、何で今に限って出ないのだろう。
「いま一人部屋だから、気兼ねなく出せるね!」
とベテラン看護師さんは励ましてくれた。
そうだ、いくらばふばふ出そうが誰にも聞かれない。
あー腹が減った。
創も痛いし頭がぼーっとする。
また水を飲んでみると、ごろごろ、ぐるぐる、触ってもわかるくらいお腹が動いた。
妊婦さん並みにお腹の動きを喜んだ。
おなら出たんでごはんください!って言うのウケる』と妹からLINEが入っていた。
平たく言えばそういうことだ。

8時を過ぎ、病棟は朝食の時間。
朝食までにガスが間に合わなかった。
悔しいしひもじいし頭くらくら。
ブドウ糖の輸液は今回ないのだろうか?
次の昼食目指して、ガス頑張ろう。
とはいえ、ガスを誘導しようと腹をよじると刺すような痛みが走る。
腹筋に力を入れて押し出すのもできない。
こんなにお腹の中ではガス予備軍が待機しているのに、まだ出動命令が出ない。
命令は出ているのかもしれないが、門が開かない。
まさか、どこか塞がってしまった?
ほんのちょっとのおならが出ないだけで、こんなに心細くなる。
とにかくぐいぐい水を飲んで、胃腸を刺激することにしよう。

創が塞がってきたのか、安静にしている間の痛みの鋭さが少し落ち着き始めたように思う。
痛み止めも良いタイミングで効いているのだろう。
急に希望が見えてきた。
痛いには変わらないけれど、気分が上がってきた。
明るい未来が見える。
しかし腹が減ってどうしようもない。
10時くらい、ちょうど検温に来た看護師さんに、私は嘘をついてしまった

ガスが出ました!

嘘は嘘だけど、こんだけ腸が動いてりゃもう出たも同然だ。
あとはごはんを食べて押し出す。
いざ食べればすぐ出るに違いない。
これは勝率99%の賭けだ。

一日半ぶりの食事

昼食が出ることになった。
ベッドを起こしてくれることになり、電動ベッドの背が上がる。
尿の管に気をつけながら、お腹の創に気をつけながら、腰を少しずつ伸ばしながら、何段階にも分けてゆっくりゆっくりリモコンでベッドを起こしていく。
重力がかかって、腹の創がずきずきする。
体勢が変わったので、腰は随分楽になった気がした。
丸一日ぶりに頭を起こしたので、一気に血が去って頭がくらくらした。

看護助手さんが食事を運んでくれた。
棚に置いてあった箸袋を取ってもらう。
術後の恒例、全粥である。

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全粥、鯛みそペースト、赤魚の野菜あんかけ、かぶの酢漬け、りんご、ほうじ茶。
めちゃめちゃお腹に良さそうだ。
かぴかぴの唇に温かいお茶を注ぎ込む。
美味しい。
次に、りんごを口にした。
しょっぱい。
スプーンを取り出し、お粥にイン。
お米って、こんなに甘かったっけ…。
ふにゃふにゃの食感があまり好きではなかったが、一日空けた食事としては最高に美味しい。
赤魚は身がぎっしりとしており、少々消化が悪そうな印象があった。
それでもとろみのあるあんかけに包めば、少し優しくマイルドになる気もした。
各品を少しずつ、ゆっくり食べ進める。
あんなにお腹が減っていたのに、いざ食べ始めるとあまり入っていかない。
胃が小さくなったか?
それとも、腹腔鏡手術のためのお腹のガスで、押し上げられた横隔膜がどうかしてるのか?
とりあえず便通を良くするために、かぶとりんごを平げた。
お粥は、鯛みそに頼りながら2/3程度食べることができた。
魚もあまり箸が進まず、申し訳ないが半分ほど残してしまった。
時間もかかってしまった。
約1時間かけて、少し食べては休み、また再開し…を繰り返した。

食事中から、いよいよ本格的に腸がごろごろ鳴り始めた。
空気の塊が、上行結腸、横行結腸、下行結腸と次々移動していくのが体感でわかった。
あ、ついに…。
少し尻を浮かせる。
ピスッ
出た。
宣言どおり、ガスが出た!
予言の自己成就である。
有言実行、言えばなる。
これで腸閉塞の心配はなくなったので、安心して飲食ができる。
…と思ったら、今まで堰き止められていたガスが、絶え間なく出るようになってしまった。
一体、どこからこんなに湧いてくるのだろう、と思うくらい、ばっふばふとガスが止まらない。
まだ匂いもないし周りに誰もいないので、思うさま放屁できる。

食事をなんとか終えたが、下膳のラックもすっかり片付けられてしまったようで、スタッフステーションに歩いて戻しに行くこともできない。
勇気を出してナースコールを押す。
「はい、どうされましたか?」
「すみません、遅くなったんですけど食事が終わりましたので、トレーを持っていっていただけますか?」
「うかがいまーす」
ベテラン看護師さんがやってきた。
「具合どう?食べれた?」
「ちょっと残しちゃいました…けど、寝てるよりは楽になってきました」
そうなのだ、お腹の痛みが、座っているときのほうが楽。

清拭

「落ち着いてきたなら、身体拭きましょっかね」
看護師さんはそう言ってトレーを下げると、小さな手提げかごを持って戻ってきた。
血栓防止ストッキングを脱がされると、今回またしてもズボンなしの長い病衣を着せられていることがわかった。
蒸しタオルのような温かく濡れた布か不織布で、脚が強めに拭かれていく。
病衣の紐を解いて、上半身も拭いてもらう。
しかし、背中を拭くためにどうしても寝返りを打たなければならなかった。
私は柵を掴み、看護師さんが木綿の強い病衣を引っ張ることで、どうにかダメージ少なく向きを変えることに成功した。
昨晩から汗びっちょりで、最後にシャワーを浴びてから丸2日。
背中を拭いてもらうとすっきりして、一気に元気になった気がした。
もう一度仰向けになると、お産パッドを外された。
まだ尿の管も入っている状態だが、陰部に細くお湯がかけられ、そこも拭われた。
お湯の感触にびっくりしてしまったが、これもすっきりした。
病衣の紐を結んで合わせを直したら、かなりのリフレッシュ感があった。

たった一日で、色んなことがどんどん快方に向かっていくのが嬉しかった。

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