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廃墟の部屋


なんだか眠れない日が続く。
にもかかわらず、昼は突然睡魔に襲われて、仕事中にパソコンの前で固まる。

そんな日がここ何日か繰り返されている。

(正直、今日はぐっすり眠りたい)

まぁそれもここ数日の寝る前に湧き上がる気持ちだったりするわけで、そんなことを考えながら、ベットに転がり、眠いはずなのにたくさんのことを考え始める脳みそを呪いたくなる。

そうこうしている内に、
私はワゴン車の中にいた。
車の後方には自転車が2台。私の隣では、知っているような知らないようなそれぐらい曖昧になってしまった懐かしい人が運転手のおじさんと明るく話している。

「お仕事は何されてるんですか?」
「サッカークラブでの運転手です。」

その仕事を楽しめているのだと言葉からも表情からも見て取れる。その姿は微笑ましくもあり、ちょっと羨ましかったりする。

ある程度まで、移動したところで、車が止まり、自転車を降ろした。ここから先はサイクリングのようである。

自転車で上がる道は、緩やかな登り坂。ゆったりカーブを描きながら、山の形に沿ってずっと先まで続いている。

雲ひとつなく、晴れ渡る空はどこまでも高く、山の緑がより一層映える。少しひやりとする優しい風に心地よさを感じ、爽やかな空気の中を、きらきらと緑を照らす太陽の光に背中を押されるように進んでいく。
続く景色は同じようで違い、なによりも輝き、美しい。

「気持ちいいー」

と叫べば、「ハハハッ」と聞こえる笑い声。

楽しい。

話しながら、坂道を登っていたはずなのに、話しかけても返答がない。

(「あれっ、返事がない!」)

焦って前を見ると、相手はカーブに差しかかり、そのまま進んで見えなくなってしまった。
追いついたのは、トンネルに入るところで、その手前で私を待っていてくれた。

トンネルだと思ったところは、あたりを草木で覆われた建物で、抹茶ラテに晴れ渡った空の青を少し溶かしたような色の壁に、楕円の下半分を切り落とした薄いピンクの扉が2つ並んでいた。

自転車を降りて、並んでいる扉の内、左側の扉を開けて中へと入る。

中には誰もおらず、薄暗く、なんだか、学校のような廊下があって廊下に沿うように部屋が並んでいる。
扉から少し前に進んだところには階段があり、そこから、外の光が流れ込んで空間を照らしていた。
思っていたよりも古く、誰も何の気配もない。

何らかの違和感を感じながら、右手に伸びる廊下へ足を数歩進めたところで見えた左側の小部屋。窓や扉がなく、鉄筋コンクリートの無機質な空間に、扉と同じ薄ピンクの歯医者の診療台のような椅子が2台隣り合わせに並んでいる。
劣化して黒ずみ、少し割れ目もある様子を見た途端、

(「あっ、ここはなにかダメだ」)

自分の直感が全空間を拒否すると同時に前方から相手の声がし、そちらに目を向ける。
そこには、すっと伸びる廊下の1番奥には扉の形にくり抜かれた扉のない出入口。その先は緑が広がる森で太陽の光眩しく緑だけを照らしている。
先程の小部屋よりも広めの空間にそこにあった椅子と同じものが真ん中の廊下を挟んで左右にずらりと並んでいる。

それを目にした途端に全身を駆け抜ける不安感と焦燥感。ここにいてはダメだと全身が拒否をする。

平然とその空間にいる相手を必死に呼び戻すように、

「ここはダメだから、早く、早く、戻って」

相手が焦りながらかける声に反応などする余裕もなく、必死にもときた扉へと戻り、一気に外の空間に飛び出す。

息も絶え絶えながら、建物から離れ、そんな必死な時でも、忘れずに停めてあった自転車を一緒に引きずっている自分になんとも私らしさを感じながら、明るく照らされる道路の脇にへたり込む。

相手も少し遅れて、それでも戻ってきたことに安堵したところで、意識が戻った。


夢から覚めた。

なんともリアルで嫌な夢。 

廃墟の建物・空間の夢は「不安」を意味するそう。
夢の中で私は、「不安」を瞬間的に拒否した。

その不安はおそらく、私がよく知る"不安"だろう。
私はずっと不安を抱え、いつも自分の中に広がるもやもやとした感情とも言えない感情の違和感に苛立ちと諦めと悲しみを感じながら過ごしてきた。

今、私は新しい私になろうと、私の気持ちと行動を変えるための挑戦をしている。
「挑戦」なんて言葉は今までの私にはなかった。
なぜなら、私は私を諦めていたから。

まさに挑戦は夢の自転車で上がった坂道。
ただ、この坂道は決して辛い坂ではなく、普通に登れる緩やかな坂道。
眼前に広がる景色は、明るく、キラキラと輝き、美しい。
そして、私はその景色に優しさや気持ち良さ、爽快感や開放感、喜びを感じている。

進む道の前を塞いだのは、私の中にいつもある根拠なき、得体の知れない"不安"。

今までも、それこそ小学生の頃から私の見る夢はリアルで、リアルであればあるほど、恐ろしい夢。

不安や焦り、悲しみと願望。

私の心理を表す夢はいつも、暗い闇や夜、ほぼほぼ灯りなんて存在せず、見通しが効く時も薄暗く、恐る恐るといった体のものばかり。

そう、まさに夢の廃墟の部分とよく似ている。
似ていないのは、その廃墟にも太陽の光がほんの少し注いでいたというところ。
全く違うのは、明るい道を登っているというところ。

私の潜在意識は過去と変わらないことを無意識的に選び、健在意識は、直感的に過去の不安を感じたくないと私が今にとどまり、過去の自分に戻ることに、息を切って、焦って飛び出るほどに拒否した。

隣に並ぶ二つの扉の内、一方を選び、選んだ方の"不安"を全力で拒否した。
もしかしたら、もう一方も不安なのかもしれないし、そうでないかもしれない。
ただ言えることは、もう一方の扉の先は今まで感じたことのない"何か"なのだろう。

私が嫌だ嫌だと言いながら、手放せずにいた不安。
きっと最後の引き返す際、忘れずに抱えた自転車も"私の何か"なのかもしれない。

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