臓器も骨髄も角膜も血液も~22歳➂ 未来の旦那様との出会い~
■22歳
履歴書は100社以上に送り、落とされまくるという、いわゆる就職氷河期を経験したわたし。
やけくそになって、リクルートスーツの首にスカーフを巻いていくという暴挙に出たら内定が出たという皮肉。
しかし、その内定が出た帰り道、見知らぬ爺さんに
「絶対にそこには行かないでくれ」
と懇願されるという摩訶不思議な体験をし、言うとおりにしたら、第一希望の会社に就職できたことで幕を閉じた私の就活日記は前回書いたとおりだ。
まず、本社が大阪なので入社式と新入社員研修が大阪であるという。
まず大阪に行ったことがない私であるが、
新幹線は実家の高崎に帰るときによく使うので楽勝だ。
しかしだ。
新幹線に各駅停車があるというのをご存知だろうか?
若干20歳そこそこの私はまずそれを知らなかった。
いや、知ってたよ?
高崎に帰る時だって、「とき」に乗るのか「たにがわ」に乗るのかで停まる駅だって違うし。
しかし!
しかしだよ!
そう時間は違わないのだよ!
東京から高崎に行くのはせいぜいどんなに時間がかかっても1時間ちょっと。二つくらい余分に停車したって10分くらいしか違いは無いのだよ。
今みたい乗り換えアプリなんてないし、そもそも携帯だって持ってないしね。
だから東京から新大阪まで、新幹線で各停に乗ったところでそう違いはないだろうと思い、
「のぞみ」なら 約2時間30分 でつくところを
「こだま」に乗って 約4時間 かけて向かったのだ。
大阪の人たちに「電車すきなんか?」と驚かれ、
あだなが「こだまちゃん」になった。
まだまだ若いな。当時の私。
さて、東京の総務の人に
「ちょうど東京のCR(クリエイティブ)の人が大阪に出張してるから新大阪に迎えに来てもらうことにするね。大阪本社の場所とか、その人に色々聞くといわよ。」
と言われ、新大阪の駅の改札で、こだまにのった私を待っていてくれたのが、CRに所属するSさんだ。
この人がのちの私の旦那様になる人である。
Sさんは幼稚園から高校までインターナショナルスクールに通い、アメリカの大学を出たアメリカンなイメージの私より6コ上のメンズだ。
改札で私を見つけるなり、荷物を持ってくれホテルまで案内してくれた。
そこでホテルの受付もしようとして、あ、こいつは新入社員か!と急に我に返り、荷物を返され
「自分でやりなさい」
と言われた。
たしかに。
その日の夜は、同じく東京の企画部から出張に来ていたMさんも合流し、大阪の街で飲んだ。
Mさんはこてこての関西人で、初めて聞く生の関西弁に私は感動した。
Mさんはスーツに野球帽といういでたちだったがそれでも感動した。
翌日は入社式で朝も早いだろうと、本社の場所の説明だけされてその日の夜は別れた。本社の場所は一通の道があってその通り沿いだからすぐにわかると簡単に説明された。
が、私の思う一通と大阪の一通はスケールが違った。
私が思っていた一通は住宅街の細い道。
大阪の一通は「御堂筋」という6車線もある大型道路。
完全に迷子である。
大通りから一本横に入ったところで一通を探していた私。
そこに東京から出張に来ていたさらに別の課長さんに発見され、なんとか本社に連れてきてもらい入社式開始ぎりぎりで滑り込む。
今年は、大阪の本社では7名の新卒採用があり、東京では私。
計8人で研修スタートである。
研修では商品が売れるために、どのような工夫をしたらいいか、置き場、POP、販促などいろいろなことを教えてもらった。
ただ、私の配属先は総務・経理・人事をいっしょくたにしたような部署。
研修が役に立つことはなかったが同期がいるという事はとても心強かった。
私の配属先のある東京本部は銀座にあった。
独身寮は南青山にあり、今思えばなかなかすごいことだ。
入社してからは、インターナショナルSさんや、野球帽Mさんに連れられ私は毎晩飲み歩いた。あ、飲めないしお金もないので夕飯を食べに連れてってもらっていたというのが正しい。他にもアルジャジーラにいそうな濃いBさん、四角い仁鶴がまぁーるくおさめまっせぇの仁鶴師匠にそっくりな本部長などバラエティに富んだメンツがそろっていた。
みんなかわるがわる私を本当にかわいがってくれた。
なんてったってかわいがる新卒採用が私しかいないのだ。
そんな中私はこっそりアルジャジーラBさんと仲良くしてた。アルジャジーラBさんは結婚もしていて、ちょうどそのころ子どもも生まれたばかりだったが、よくうちに泊まりに来ていた。
私の憧れる「都合がいい愛される愛人」プレイってやつだ。
大学時代、がっちがちにソクバッキーと化した彼氏とやっと別れ、もう一人の人と付き合うのはしばらくごめんだわ!と思っていた私にはちょうどいいアルジャジーラBさん。
どこかに出かけたりするわけではなく、夜飲んで帰りにうちに泊まってく。
そんな感じ。
そんな感じの、のどかな社会人1年目。
様子が変わってきたのは、それから数か月が過ぎたころ。
アルジャジーラBさんと飲みに行こうとすると、インターナショナルSさんの後輩1と後輩2が「インターナショナルSさんと飲みに行こうぜ!」と、アルジャジーラBさんとの接触を妨害する行為が目立ってきた。
まぁ、既婚者であるアルジャジーラBさんとの「都合がいい愛される愛人」プレイもそう長く続けられるものでもないので、自然と独身のインターナショナルSさんへと流されてゆく私。
そのことにより、私の人生は大きく変わってゆくのである。