しごと④多重債務で破産するよりはマシ
私の家庭環境
私は3人兄弟の末っ子で、両親は共働きのごく普通の家庭で育ちました。父は戦後生まれ、秋田の出身で、中学を卒業後に上京して大工になるために就職しました。母は山形の長く続くふとん屋の次女で、家は裕福な方だったと思います。
そんな両親の元に育った私は末っ子ということもあり、大いに甘やかされて苦労知らずに成長しました。家計に余裕はなかったと思いますが、奨学金を借りることもなく、私立大学にいかせてもらえたのでした。
そして、お金のことやその周りにある人間の行いについて、ほぼ何も知らない無垢なままに消費者金融の会社で仕事をすることになったのです。
営業の仕事
大宮支店に配属された私はお客様に融資をする営業のしごとを始めたのでした。消費者金融の融資と言えば、無人契約機から申し込んできたお客様に貸付するというイメージがあると思いますが、当時、無人契約機は武富士、アイフル、アコム、プロミスといった超大手が主要な場所を抑えていて、新規に契約機を展開することが難しい状態にありました。
では、どうやって融資の営業をするのかというと主に2つのパターンがありました。
1つは、飛び込み営業です。これは、電話帳に載っている自営業者に電話をかけて営業する事業資金融資です。当然、ほとんどの自営業者はそんな電話を受けても話すら聞いてくれませんし、怒鳴り返されることも良くあります。300本電話をかけて、会話ができるのが10~20本で、そのうち1本くらいはパンフレット送っておいて、というレベルです。この営業は本当に精神力が強くないと続きません。ただ、地獄の研修を受けてソルジャーになった新入社員はかなり麻痺していて意外とできてしまうのです。ただ、効率が非常に悪いのも事実です。
もう一つは、小口融資顧客へのまとめ融資営業です。これは飛び込みの事業融資金融よりもハードルは低い営業です。消費者金融でお金を借りる人というのは、かなりの割合で複数社に借り入れをします。まず大手の武富士、アイフル、アコム、プロミスといったところから1社あたり50万円程度を上限に借りていて、すでに4社で200万まで借り入れ残高がある状態で、追加で借りれる会社に申し込みをするのです。
人によっては、信じられないかもしれませんが借り入れの理由で多いのは、遊ぶため、ギャンブル、他社への返済、生活費などでした。当時の利息は年率29.2%にしている会社が多く、50万円を借りると、返済額は毎月2万円算になります。契約期間は5年なので、支払総額は2万円x60回払いで、なんと120万円です。4社で合計200万の借り入れがあると、毎月8万円前後を返済する必要があるのです。この返済金額が用意できないとき、つなぎ用に別の会社に融資を申し込む人が多いのですが、貸す方としてはこれ以上返済金額が増えると支払えなくなる可能性が高いため、新規で融資してくれる会社は殆どないのです。
「こんなに高利息でお金を借りる人なんているの?」と思う方がほとんどだと思いますが、正確には覚えていませんが、新規申し込みは毎日5件~10件位あったと思います。
複数社からの借り入れて支払金額が高くなって返済が厳しくなって、返済金を用意するのために新規融資を申し込む。こういった人がまとめ融資の営業対象になってきます。まとめ融資とは文字通り、他社の借り入れ分をまとめて融資する商品です。他の4社で200万の借り入れ残高を200万に借り換えしてもらって他社の残高を全額返済してもらうのです。200万の融資利息を年率25%にすることで、毎月の支払額を6万円くらいにすることができるので、支払い負担を減らす事が出来るようになります。ただし、融資金額が大きくなることと、利息を下げるために条件がありました。それが連帯保証契約でした。
営業の仕事は、主にまとめ融資でした。「借入が多いので新規の小口融資はできないのですが、いまよりも低金利でまとめることで支払いを減らす事が出来ますよ。」とつなげていくわけです。ただし、契約するためには連帯保証人を用意してもらう必要があったので、それが契約成否を左右する大きなポイントとも言えました。
このように書くと妙に納得してしまい簡単そうですが、人のやることは思った通りに行かないものです。次回、思い出しながらエピソードを書いていきたいと思います。
つづく