【食道】食道胃接合部と Barrett 食道
食道癌の多くは扁平上皮癌であり、
その主要な原因は喫煙と飲酒(高濃度アルコール)である。
しかし、近年は食道の腺癌が増加している。
食道腺癌の多くは、
胃と食道の境界付近(食道胃接合部)に発生し、
胃酸逆流が主要な原因である。
米国では既に腺癌の方が多い。
日本でも食など生活スタイルの欧米化に伴い、
腺癌が増加傾向にある。
今回は食道胃接合部腺癌の臨床病理学的特徴を概説する。
食道胃接合部(esophgogastric junction:EGJ)とは
文字通り、
食道と胃の境界部(接合部)であるが、
境界は流動的であるため、実際には定義付けが問題となる。
前提として以下の2つを理解しておく必要がある。
① 解剖学的に食道は管状(筒状)、胃は囊状(袋状)の形態を示す
② 組織学的に食道は扁平上皮、胃は腺上皮で被覆されている
観察方法により、以下のように異なる定義が用いられる。
【臨床的に用いられる定義】
① 内視鏡的定義:食道下部の柵状血管の下端
② 造影検査での定義:His 角を胃壁に沿って延長した線
③ 内視鏡および造影検査での胃大彎の縦走ひだの口側終末部
【病理で用いられる定義】
① 切除標本の肉眼的観察での定義:周囲径の変わる部位
(“管状”の食道 → “嚢状”の胃に変わる部位)
② 組織学的に、本来は、「食道胃接合部=扁平上皮・円柱上皮境界部」
⇒ この定義が病態によって使えなくなる(⇒ Barrett 食道)
Barrett 食道(Barrett esophagus:BE)とは
組織学的に、
本来は食道は扁平上皮、胃は腺上皮で被覆されているが、
胃酸の逆流によって、
食道の表面が腺上皮(円柱上皮)で置換される。
胃酸の逆流による下部食道の炎症を、
逆流性食道炎(reflux esophagitis)、
あるいは、
胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)という。
GERD により上皮が円柱上皮化した食道を
円柱上皮化食道(CLE:columnar-lined esophagus)といい、
あるいは、
Barrett 食道(Barrett esophagus:BE)という。
本来、生理的には EGJ = SCJ であるが、
CLE/BE では、EGJ よりも高い位置に SCJ が移動する。
なお、
正常な扁平上皮はグリコーゲンを豊富に有しているため、
ヨードを撒布することにより褐色調に変化するので、
ヨード撒布により正常扁平上皮の分布を可視化することができる。
※ ヨード不染帯は正常な扁平上皮ではないことを意味する
⇒ 炎症、扁平上皮癌、腺上皮化(円柱上皮化)
Barrett 食道(Barrett esophagus:BE)の種類
Barrett 食道(Barrett esophagus:BE) は、
長さと上皮の種類により分類される。
【長さによる分類】
LSBE と SSBE の2種類に分類され、
LSBE の方が発がんリスクが高い。
Short-segment BE(SSBE):最長部 3cm未満
Long-segment BE(LSBE):最長部 3cm以上
※ 日本では以前、食道全周で 4 cm 以上進展しているものを LSBE、それに満たないものを SSBE と定義していたが、現在は上記の国際基準に統一されている。
【円柱上皮の種類による分類】
下記の表のように分類されるが、
実は日本ではこのすべてが BE であるが、
海外(欧米)では
特殊円柱上皮(腸上皮化生)で被覆される場合のみが BE に相当する。
Barrett 食道(BE)の組織学的判定基準
円柱上皮粘膜が本来食道であったことを示す所見が確認できれば、
そこが BE であると判定される。
【BE の判定基準】
① 固有食道腺または食道腺導管の存在
② 扁平上皮島
③ 粘膜筋板の二重化本来の粘膜筋板
④ 粘膜筋板直上を走行する短径 100 μm 以上の静脈
補助所見:① 多層上皮、② 膵腺房細胞様細胞
③ 粘膜筋板の二重化本来の粘膜筋板について:
本来の粘膜筋板(=深層粘膜筋板:DMM)の上に、新生平滑筋(浅層粘膜筋板:SMM)が形成され、粘膜筋板が多層化する(はっきりした二重化というより、多層化していることが多い)。
④ 粘膜筋板直上を走行する短径 100 μm 以上の静脈:
内視鏡的な食道下端を定義する柵状血管に相当するので、これがあるということは「まだ食道である」といえる。柵状血管が EGJ の指標として有用であることを示した論文は以下。
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