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【口腔】囊胞性疾患のまとめ:日常診療で頻度の高いもの

口腔の囊胞は病理診断で遭遇する頻度が高いが、医科出身者には馴染みがないものが多く、病理医になってはじめて勉強するということが多い。今回は頻度の高い口腔の囊胞性疾患に絞って概要をまとめる。

なお、エナメル上皮腫の一部、粘表皮癌の一部、扁平上皮癌の一部(孔道癌 carcinoma cuniculatum)なども囊胞を形成することがあるが、稀であり、ここでは省略する。

【本日の内容】
(1)歯根囊胞
(2)含歯性囊胞(濾胞性囊胞)
(3)粘液囊胞(粘液瘤)
(4)血管腫・静脈湖
(5)角化性囊胞:
   ①正角化性歯原性囊胞
   ②歯原性角化囊胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍)

(1)歯根嚢胞

Radicular cyst
Apical periodontal cyst
Periapical cyst
Root end cyst

【ざっくり説明】
齲歯に伴って上皮が増殖してできる囊胞。臨床的に齲歯があるかが決め手と言っても差し支えない。その意味では純粋に病理組織像で診断はできない。依頼書やカルテ、または、歯科医に聞いて情報を得なければ診断できないが、悪性ではないので「矛盾しない」くらいで診断してしまう手もある。炎症性囊胞なので、炎症が強い肉芽組織の形成が基本。肉芽組織だけで、囊胞形成がない場合は歯根肉芽腫(radicular granuloma)とも言う。

【きちんと説明】
顎骨で最も多い歯原性嚢胞で、歯髄炎に続発して歯根尖部に生じる炎症性歯原性嚢胞。失活歯の根尖周囲に存在する Malassez の上皮遺残に由来する。組織学的には、定型例では、上皮釘脚を種々の程度に伸長させた非角化扁平上皮、炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織、線維性結合組織から成る3層構造が見られる。嚢胞壁内には泡沫細胞集簇、コレステリン結晶(裂隙)が観察されたり、ときに硝子様小体が上皮内に認められる。

Rushton体(Rushton’s hyaline body):歯原性上皮にのみ出現し、上皮内で孤線状の特異な形態を示す硝子化物である。歯原性上皮の変性産物とも言われるが本態は不明。キラキラとしており、ときに石灰化を伴う。これがみられた場合は、まず歯原性と考えられる。


(2)含歯性嚢胞(濾胞性囊胞)

Dentigerous cyst
Follicular cyst

【ざっくり説明】
埋伏歯の歯冠を含む囊胞。画像が大事。歯冠を含む囊胞でなかれば、含歯性囊胞ではない。しばしば炎症が被って、組織像では歯根囊胞と区別できないことがあるので、臨床情報・画像情報なしでは診断困難であるが、それでも一般的に歯根囊胞よりは炎症は軽い。

【きちんと説明】
埋伏歯(または未萌出歯)の歯冠を腔内に容れた発育性の歯原性嚢胞で、歯根嚢胞に次いで多い。歯冠形成後に歯冠周囲の退縮エナメル上皮に嚢胞化が起こったものである。組織学的には、嚢胞壁は菲薄な未分化上皮で覆われ、結合組織性の嚢胞壁にはしばしば歯原性上皮小島が散見される


(3)粘液嚢胞(粘液瘤)

粘液嚢胞 mucous cyst
粘液瘤 mucocele

※口腔底にできるものはガマ腫 ranulaともいう

① 管外遊出型(逸流型) extravasated type / extravasation type
若年者(20~30 歳代)に多く、多発傾向を示す。導管が詰まって、破綻して、粘液が漏出し、肉芽組織が形成される。粘液を貪食した組織球(muciphage)がしばしば出現する。アルシアン青染色などの粘液染色が有用な場合がある。ときに静脈湖との鑑別が難しい。

② 貯留型 retention type
比較的まれで、高齢者に多い。導管が詰まるのだが、破綻せずに、そのまま拡張してしまったもの。導管上皮はときに扁平上皮化生を示す。


(4)血管腫・静脈湖

① 血管腫 hemangioma
様々な組織像のものを包含するが、海面状血管腫は静脈ことの区別が難しいことがある。また、分葉状毛細血管腫(lobular capillary hemangioma)は口腔で頻度が高いので覚えておこう。全身にできる同名疾患と同じである。膿原性肉芽腫(pyogenic granuloma)と呼ばれるが、現在は血管腫と考えられているので適切な名称ではない。

② 静脈湖 venous lake
口唇にできる拡張した静脈である。静脈瘤のようなもの。ときに管外遊出型の粘液囊胞との区別が難しい。


(5)角化嚢胞 keratocyst

① 正角化性歯原性囊胞

Ortokeratinizing odontogenic cyst

角化囊胞の 10~20% を占める。顆粒層を介して正常角化を示す概ね均一な厚みの重層扁平上皮に被覆された角化嚢胞であり、基底層は目立たず、内腔の鋸歯状変化を伴う錯角化は見られない。核出術にて再発しない。部分的にでも②歯原性角化囊胞の性質が見られる場合は、②歯原性角化囊胞と診断する。

② 歯原性角化囊胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍)

Odontogenic keratocyst
Keratinocystic odontogenic tumor
Parakeratinizing odontogenic cyst
Keratinizing cystic odontogenic tumor

角化囊胞の 80~90% を占める。錯角化を示す重層扁平上皮に被覆された角化嚢胞であり、内腔は鋸歯状~波状を呈し、基底細胞は核腫大を伴って柵状に配列する。有棘層の細胞がしばしば淡明化する。元々囊胞として分類され、再発率が高いことから良性腫瘍に再分類されたが、最新の WHO 分類では再び囊胞に戻っている。名称の変遷が激しい。ときにエナメル上皮腫や粘表皮癌が、歯原性角化囊胞に似ることがあるので注意を要する。

孤発性(90%: sporadic; solitary; primordial)と多発性(10%: multiple)のものがあり、多発性のものは Basal cell nevus syndrome(=Nevoid basal cell carcinoma syndrome; Gorlin syndrome)と関連し、がん抑制遺伝子 PTCH1 の変異などが原因で、常染色体優性遺伝を示す。


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