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諺(ことわざ)からみる内科医、外科医、精神科医、病理医の違い:外科医について

前回は内科医について考察した。諺(ことわざ)は以下の2通り(短いバージョンと長いバージョン)。諺なので極端な言い方になっているが、的を得ていないわけではない。今回は外科医について考察したい。なお、この諺は、病理医の仕事を揶揄したものであるので、他の分かりやすい科と比較している。実際には他にもたくさんの診療科があり、どの診療科も重要であることは言うまでもない。

Surgeons know nothing but do everything. Internists know everything but do nothing. Pathologists know everything and do everything but too late.

「外科医は何も知らないが、何でもする。内科医は何でも知っているが、何もしない。病理医は何でも知っているし、何でもするが、遅すぎる。」

What's the difference between a physician, a surgeon, a psychiatrist, and pathologist ? The physician knows everything and does nothing. The surgeon knows nothing and does everything. The psychiatrist knows nothing and does nothing. The pathologist knows everything, but always a little too late.

「内科医、外科医、精神科医、そして病理医の違いは何だろうか。内科医は何でも知っているが、何もしない。外科医は何も知らないが、何でもする。精神科医は何も知らないし、何もしない。病理医は何でも知っているが、いつでも少し遅すぎる。」


今回は外科医について

外科医は大変である。まず、これに尽きる。外科医の主たる仕事は手術である。手術は一定のトレーニングをしていなければできない。手術の難易度も様々で、キャリアの中でレベルアップし、より専門的で高度な手術をすることが求められる。外科医を取り上げた小説、漫画、ドラマなどは多い。それだけ外科医はドラマチックでもある。外科医の知識における強みは、実際に臓器を見て、触って、扱って、切ったり繋いだりしていることだろう。内科医よりも明らかに人体の実際のイメージを強く持つことができる。


諺(ことわざ)の意味するところは?

例えば、癌の治療をするとしよう。

外科医が担当するのは通常「切除できる癌」である。切除できる癌ということは、完治できる可能性があるということだ。外科的治療=手術は医学の中で最も治療効果が分かりやすい治療である。癌がみつかった⇒切除した⇒治った。しかし、外科医は確かに内科医と比べれば知識量は少ないだろう。でも、救えるのである。

諺は、知識が少なくても、手術をして分かりやすく患者を救えうことができることを端的に示しているのだろう。


病理医さのーとが思う実際のところは?

医学の知識が全体として多くなかった時代には、外科医の万能感は確かに凄かったのだと思う。「外科医は手術ができる内科医である」とまで言う外科医も未だにいる。これは完全に誤った考えであると思うが、当然、外科医にも知識は必要である。むしろ、優れた外科医は腕が良いだけでなく、知識も豊富である。内科医と知識の範囲が少し違うのだと思っている。

外科医は実は減少している。また、外科医は技術職であるので、年齢的なピークがある(40代が最盛期だろう)。米国では外科医はの多くは手術のみを担当し、患者の術後管理などは担当しない。しかし、日本では昔からの慣習が残っており、外科医は内科医と同じように病棟で患者さんをみて、術後の患者さんの管理をして、外来も多く受け持ち、なおかつ、日中には手術もしている。間違いなく、医者の中で最も忙しい。なお、産婦人科や泌尿器科を含む他の外科系の領域も同様である。

日が変わるまで仕事をして、朝早くから出勤する。これが外科医のデフォルトの生活であったし、今もそうである病院も決して少なくない。例えば、朝6時からカンファレンスで全員で患者さんの状態を確認し合い、その後病棟に回診に出て、回診が終われば手術や病棟業務や外来に出る。手術はしばしば長く、昼食を摂れない場合もあるし、本当に大変な手術では日をまたぐことすらある。それでも合間をぬって、外科の先生方は昼や夕方にも担当患者の様子を見に行く。

外科手術の専門性もより高度化し、内視鏡手術やロボット手術などデバイスも進化している。低侵襲でより高い効果を得られる手術、高難易度手術も増えており、若手外科医の経験できる症例は減少し、次世代の育成が重要な課題である。今は過渡期で、人が少ない一方で、高度な技術も高度な知識も両方求められ、苦しい時期にあると思う。外科医は根治を目指す上で最後の砦である。今後は一時代前の外科医万能論の時代から脱却し、外科医にしかできない専門性を高めていくことが重要になってくるのではないかと思っている。



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