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【社会洞察】CO2排出について考える(3) ~自動車編~

昨今のCO2排出においては、以下のような順位で排出量が多いことを記事にしました。記事を読むのが面倒な方は、以下の表のように、鉄鋼・自動車・家電が大きな割合を占めているのだなと思っていただければと思います。今回の記事では、自動車に関して調べていこうと思います。

日本のCO2排出全量に対する各項目の割合


EVは本当にCO2排出を低減できるか

自動車のCO2排出低減と言えば、誰もがEVを思い浮かべると思います。EVは環境にやさしいと盛んに言われていますが、本当にCO2排出を減らせるのでしょうか。

これに関しては、VOLVOが発表したレポートが非常にわかりやすいです。

https://www.volvocars.com/images/v/-/media/Market-Assets/INTL/Applications/DotCom/PDF/C40/Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf

以下の、2つのグラフはVOLVOのレポートから抜粋したものです。
ICE:内燃機関、Recharge:EVのことを指します。

Global electricity mix:世界の平均的な電力使用時ののCO2排出量、
EU-28 electricity mix:EUの電力使用時のCO2排出量、
wind electricity:風力発電による電力使用時のCO2排出量です。

上のグラフを見ると、内燃機関は製造時のCO2排出量(Materials production and refining)のCO2排出量が15トンCO2換算となっています。この段階でEVは2万トン程度CO2排出量が多いです。
さらに、EVにはリチウムイオンバッテリーを製造時に発生するCO2発生量が7-8トン程度あり、製造だけでトータル25トンのCO2が発生してしまっています。

逆に走行時に関しては、EVに軍配があがります。CO2の排出量は発電の影響のみとなっています。
しかしながら、このグラフは注意が必要です。なぜなら、走行距離を20万キロで計算しているからです。通常の自動車は走行距離は10万キロ程度です。

内燃機関とEVのCO2排出量(200,000km走行時。グラフは先述のURLより抜粋)

ここで以下のグラフが役に立ちます。10万キロにおけるCO2排出量を比較してみましょう。ICR(内燃機関車、おおざっぱに言うとガソリン車)は40トンに対し、風力発電の電力を使って走るEVは27トンと、おおよそCO2排出量は3分の2です。したがって、CO2排出という観点ではEVに軍配が上がりそうです。

走行距離に応じたCO2排出量(グラフは先述のURLより抜粋)

しかしながら、この話には2つの問題があります。
①風力発電時に発生するCO2排出が考慮されていないこと
②CO2以外の環境負荷が考慮されていないこと

①に関して、例えば、風力発電機を作るときに発生するCO2や、電力を送るのに発生するロスが考慮されていません。ただし、これに関しては、究極的にはすべての電力を再生可能エネルギーで賄うことを想定すれば、解決できるかもしれません。

②が特に重要な問題と思います。リチウムイオンバッテリーや風力発電で使用されるモータには、レアメタルが使用されています。レアメタルは採掘する際に、土壌・空気を汚染します

レアメタル採掘の環境負荷

レアメタルというと、その希少性をイメージしやすいが、実はそちらが問題ではない。実際には以下のように1000年分は存在する。図は日本技術士会様のサイトに掲載の以下のURLより抜粋。また、レアアースとレアメタルは範囲が異なるが、ここでは問題としていないためご容赦ください。

https://www.engineer.or.jp/c_dpt/mining/topics/008/attached/attach_8239_6.pdf

レアアースの埋蔵量と生産量

現在は中国からの輸入に頼っているため、地政学的なリスクがあります。それにもかかわらず、なぜ中国からの輸入に頼っているのでしょうか。

それは環境コストです。環境負荷に対するコストが最も小さいのが中国だからです。以下のサイトに記載があります。また、より詳しく知りたい方は「レアメタルの地政学」を読まれるとより詳しくわかると思います。

レアメタルを採掘する際には、副産物としてウラン等の放射性物質が発生するケースがあります。これにたいして、環境規制の厳しい国では環境負荷を軽減するための処理にコストがかかりますが、中国の場合、処理に対する規制が緩いのコストを低く抑えられます。結果として、中国のレアメタルか価格競争力が高く、EVの価格も抑えられることになります。


また、EVではガソリン車よりもたくさん使用されるものとして銅に代表されるベースメタルがあります。本サイトに書かれている岡部さんの言葉を抜粋すると”銅鉱石の品位は0.5%。銅1kgを作るのに最低でも200倍のごみが発生する。クルマ1台に50kgの銅を使うとすると、銅を作るだけで10tのごみが発生している”とのことです。
したがって、EVはCO2という観点からは環境負荷が低いですが、鉱石の採掘、精錬という過程でCO2以外の環境負荷はガソリン車よりも大きいと言えそうです。

環境にやさしいEVをつくるには?

ここまでEVの環境負荷の話をしてきましたが、ガソリン車はCO2排出から逃れられません。したがって、EVをレアメタル採掘時の環境負荷を低減しつつ、製造するというのが一つの選択肢として浮かび上がってきます。レアメタル採掘時の環境負荷を低減するには
①レアメタル・ベースメタルを使わない(使用量を減らす)
②環境にやさしいレアメタル・ベースメタル採掘や精錬

が必要となります。

①レアメタル・ベースメタルを使わない(使用量を減らす)
これは例えば、以下のサイトに記載のように、リチウムイオンバッテリーをナトリウムイオンバッテリーに変えるといった技術開発が考えられます(以下、リンク)。ただし、ナトリウム製造の環境負荷が高くないかという点に関しては、検討が必要です。また、銅の採掘における環境負荷は依然として残ったままです。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-11-27/S4R4N8T0G1KW01

②環境にやさしいレアメタル・ベースメタル採掘や精錬
これに関しては、結局、環境へ配慮することで従来よりも追加コストがかかってしまうことになります。勿論、それはEVの価格を押し上げます。現在はCO2以外の環境負荷を価格に反映させないことになっていますので、環境に配慮したメタルを使用したEVは価格が高く売れないということになってしまいます。これを防ぐためには、炭素税のように、メタルの採掘・精錬にも規制や税金をかける必要があると思います。そうすれば、EV同士の価格競争は、同じ土俵で戦うことができます。ただし、結局、ガソリン車との価格差がひらいてしまうということになってしまいます。
結局、環境負荷を考えると、モノの価格はあがってしまうということからは逃れられないのだと思います。

まとめ

  • 10万キロ走行、電力はすべて再エネで賄うという前提があれば、EVはCO2排出量を3分の2程度まで減らせそうである。

  • EVは、メタルを多く使用するという点においては環境負荷が高い

  • メタルの採掘・精錬に対する環境負荷低減は、EVの価格上昇を許容するor技術革新を推進するというのが今できることであり、現段階で100点の回答はない。

環境にやさしいEVというのは、なかなかに難しそうですね。今後の動向に陽注目です。
ではまた~。

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