ねねむ

40過ぎた助平です。詩を書きます。

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最近の記事

震災の映画館

震災の夜は 月がやたらに大きくて その横をヘリコプターが列をなして 淡路島に物資を輸送していた 隣の犬が気が狂った様に毎晩吠えて ラジオから安否確認の放送が流れ続けた 空も街も押しつぶされた鉛色で 隣の町は火の手が強く 昼夜問わず真っ赤に燃えていた 街が死んだ 街の映画館もしいんと静まり返っていて 館長さんのお宅は長田にあって 全焼したって噂で聞いた 誰もがその日の事でいっぱいだったある日 映画館が無料で開かれる事になった 上映された映画は「ドラえもん」 映画ののび

    • エンプティである事の美しさ、残酷さ

      本誌集は「Ⅰ」、「Ⅱ」の二部構成から成る。それぞれについて記載させていただきたい。 Ⅰ 思い出世界は時に卑怯なくらいに美しい。本当は辛いことも憎むべき事もあったであろうに。そう、それはまるで花火の様だ。ぱっと散ったあとでも瞼の裏でいつまでもキラキラと輝き続ける花火。思い出世界には、そんないつまでも脳裏でキラキラと輝き続ける美しさがある。そしてそれは、当事者の思いが強ければ強いほど眩いばかりの光を放ち続けるのだ。 滝本政博さんは綴る。愛を。愛した女性を。愛した女性との時間を。「

      • おにぎりとお月様

        仕事帰り 家までもう少しなのに もより駅でおにぎりを買って食べた もより駅でのピクニック やさしい雨が降っていた おじさんが 駅のベンチで ぼうっと座っている為には 缶チューハイが必要で 僕は缶チューハイも買って飲んだ 涙がでる 缶チューハイの涙 ベンチに座って 行きかう人を眺めていた みんな急ぎ足で俯き加減 お仕事お疲れ様です 死んだおじいちゃん 電車から降りて来ないかな お月様は雲に食べられて 静かに泣いていた 僕はおにぎりを食べているけど 多分おにぎりは泣いてはい

        • 思い出山公園

          思い出山公園には 真ん中にブランコがあって スーツを着たサラリーマンが 仕事帰りに揺られて帰る 夕焼けが綺麗な日には サラリーマンはよく泣いていたりするので 私も時にもらい泣きをしたりする またある日などは 帰り路を見失った老人が 公園に迷い込んでは 野良犬の頭を撫でていたりする 誰もが救われない掛け替えのない存在で その希薄さに地球が耐えかねて 今日も悲鳴をあげている そう サラリーマンも 老人も 希薄で でも掛け替えのない存在で 誰も代わりなど勤められない 受け

        震災の映画館

          臍帯と母子手帳

          お兄ちゃんのほうが少し小ちゃかったんだね 我が子の一ヶ月健診を終えた母親が 兄弟の母子手帳を見比べながら 待合室で そう呟いていた 柔らかな眼差し 微笑みを湛えた口元 これが母の顔なのだ そう思わずにはいられず しばらくその表情に私は見入っていた 思い出すのは我が母の事 ある時 私の母子手帳を持ち出して 私の生まれた日の話をした事があった なかなかの難産でね もうこれは 帝王切開にしようという話になって 当時の事でしょう 全身麻酔をかけられて 意識が遠くなっていった

          臍帯と母子手帳

          黄色い馬

          黄色い馬が走る 焼け焦げたアスファルトの上 雑踏の中を 音も立てず 黄色い馬が走る 高くそびえ立つ ビルヂングを縫って たてがみを靡かせながら 交差点を行き交う 車列は 気怠い夏の日の午後 行き先を見失った 屍の列  そう 累々と積まれた屍の山 今日と変わらぬ 陽射し照る夏の日 屍 屍 屍 屍 銃口の剣先は狂気を刻み続ける 捕虜達の最期の声は 母の元に届いただろうか 黄色い馬よ 伝えておくれ 私は こんなにも呑気に生きていた そう その瞬間が来るまでは 今の誰とも変

          黄色い馬

          ピエロのマーロウ

          ピエロのマーロウ みんなの笑いもの 顔の右半分には 醜い赤いあざ 醜い顔のせいで 親にも捨てられて サーカスに売り飛ばされた ピエロのマーロウ みんなの嫌われ者 あまりに醜いその顔のせいで お友達も一人もいない いつも ひとりぼっち ピエロのマーロウ いつも泣いている 月を眺めて こうつぶやく ああ このあざさえなければ 僕は もっと幸せになれたのに ピエロのマーロウ 俯き加減で 街を歩く 街角に花売りの少女 マーロウは ひとめぼれ 花売りの少女 かわいそうな女の子

          ピエロのマーロウ

          どこにもいない三郎

          どこにもいない三郎は 五歳の男の子で いつも青い毛布に包まって ソファの上でお昼寝をしている 三郎はどこにもいないので 夫婦には子供がいなかった だから夫婦は三郎に  子供服を買ったことがない それでは三郎がかわいそうだと 夫婦は子供服を買いに行くことにした かわいそうな三郎 お洋服も着させてもらえず さぞ寂しかったでしょう ほら今日は好きなお洋服を 買って帰りましょうね どこにもいない三郎に 夫婦はお洋服を選んでいく デニムのジャケットに ネイビーのパーカー 白のパン

          どこにもいない三郎

          白衣の裾

          白衣の裾が濡れている 手を洗った水でも飛んだのであろうか 子どもが汚れた手で触ったのであろうか そんな疑問を抱えながら 私は診察室へ向かった 診察室で我が子を抱く母の姿は 他では見る事のない 高潔さを湛えている その零れる言葉は 時に か細く 瞳は 時に怒りさえ感じさせた 強くて 儚げな その様な高潔さ 学生時代 マウスの子どもを解剖する事があった 子どもを取り上げられた母マウスは 全てを悟ったかのように  ぴくりとも動かなくなった ああ 今母親は泣いているのだ そう思

          白衣の裾

          ハナミズキ

          枯れていくハナミズキを摘んでいる手には 静脈血の温かさがあって いっそ手首から 枯れ落ちてしまえば良いのにと そんな事を思いながら 僕は初夏と呼ぶにはまだ早い 六月を迎えていた 新緑と呼ぶに相応しい葉が茂るのを眺めては 葉脈一本一本のその廉直さに嫉妬した 眺める空さえそうだ 雲は外連味のない風に吹かれ 太陽ですら まるで聖人の眼差しの様に 穢れなど知らぬとばかり僕を見つめるのだ それに比べ 五月に降る雨は優しかった 火葬場で所在無げに立ち尽くす僕の額を 雨粒が伝い落ちてい

          ハナミズキ

          夙川

          命の匂いがする 鱗の剥がれた 銀色の流線型が 流れに逆らって 泳いでいく姿 幾重にも 幾重にも重なりながら 上っては流され 流されては上り その姿を 太陽の光は  きらりきらりと 乱反射させていた 春を呼ぶ この街の真ん中には 乱反射した銀色がよく似合っている   鐘の音が街を包むころ 十字架は 茜色の空に沈んでいった 冷たい手触りの 扉を開いた先には 許しを請う人々の影が 今日も 床や壁にへばり付いていた かび臭い ひんやりとした部屋の中 僕の影も 許しを求めていた 跪き俯

          京都

          三条小橋の交差点 高瀬川の前で 煙草を吸いながら  来るはずのない 君を待っていた 時計の針が逆回りを始めたので 僕の血液も 逆流をし始めて 逆立ちしたピエロが 笑いながら泣いていた   季節外れの線香花火が 水面に揺れて 粉雪舞う街に 飛ぶ蛍は 鏡文字の約束を 今も忘れないでと モールス信号を送っていた   しゃれこうべは 等間隔に並び 気づかぬうちに 死に至る病に侵された ああ 明日も知れぬ我が身かな 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏   教授の秘密の研究は 真夜中の扉の奥 フ

          石を積む

          蜘蛛が運んできた  一通の手紙には 夏の欠片と貴方の横顔 蝉の声が 頭の中でジンジンする 畳の擦れる音が聞こえる 川を渡ればあちらとこちら 暗がりの鼓動を 蝉と畳が かき消したあの日 小さな石を積んでも これはファンタジーじゃないんだよと 産科医が静かにつぶやく声 入道雲とタクシー待ちの貴方と私 風が生ぬるくてほっとした 帰り路 言葉少なに 風が何かを運んでくれるのを 待っていた 石を積んで 石を積んで 手を合わせた空は あの日の入道雲 畳の擦れる音が 聞こえた気が

          石を積む

          コンペイトウと綿あめ

          やさしい人にコンペイトウを貰ったと 喜んでいるあなたを見ていると ぐるぐるとこのやさしさが 世界も 宇宙も  包みこんでしまえばいいのにと そんな事を僕は思った 地球そのものが 実は柔らかな綿あめでできていて 空にまたたく星が本物の コンペイトウでもいいのになあ そんな事も僕は考えた 悲しい事がが多すぎると みんなのこころも だんだんおかしくなって そのせいで地球は泣いていた だから泣いている地球を 綿あめにしたいと僕は思った 人類諸君よ 一致団結して 綿あめの様なやさ

          コンペイトウと綿あめ

          詩集列車

          ああ 私は一人の修羅なのだと  肩を落として家路に就く ポケットの中の詩集も 色褪せた思い出の中 これが現実だと寝酒でもあおれば 今日も眠りにつけるのだろう 帰りの通勤電車の中はみんな 同じ哀しみを抱えた まるで同胞の様だ 一時 その涙も忘れ 胎児になって子宮に戻る 薄暗く 柔らかな空間 詩集から 言葉が飛び出し 列車は 息を吹き返す 白鳥座も超えて 詩集列車たどり着いた先は いつもの最寄り駅よりも もっと遠く そして高い 高いところ 私たちの流した涙は たちまちに銀河

          詩集列車

          コントラスト

          診察室に飾ってある 額に入れられたポスターを眺めていた 長年陽の光に晒されていたから すっかり色褪せてしまって 全うすべき天寿も忘れられた様に 「昔は子供に人気だったんですよ。そのポスター。」 って、ベテラン看護師が教えてくれた。 「昔の事を思うとなんだか悲しくなっちゃいますけど。」 いつもと変わらぬ笑みには目尻の皺が踊っている。 このポスターを眺めながら こう思って見てもいい。 「これじゃ俺と同じじゃないか。」 届いた野球部の同窓会名簿に 目を通すのが億劫になった。

          コントラスト