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「無意識Ⅱー泉の章ー」#3 オルゴール


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1992.11.19 thu 5:00pm

時々、頭の中で小さな音がする。

小さな、小さな一本の糸のような
すぐに消えてしまう細い光のような、透き通った儚い音だ。

捕まえる暇もないぐらいにスーッと聞こえなくなって
また不意に滑り込んでくるその音を、私は空から降ってくる天然のBGMだと思って聞き流している。聞こえて来た時だけ、その時だけ楽しもうと。


だいたい、仮にそれを記憶に留めておこうと考えたとして、結構難しい場合が多い。タイミングが意地悪すぎる。
例えば夜眠りにつく直前とか(眠さに勝てない。起きたらすっかり忘れてる)、
学校のテストの真っ最中とか、混んでる電車でつり革にしがみ付いてる時とか。



「日曜日の昼間は結構ウチの店混むんだよ。手伝ってくれる人探してたんだ」

「お財布の件でお世話になって、それ以来、お店で未智さんとお話することが多くて、働いてみない?って勧められたんですけど」

「そうだよね。あの時から急接近だったもんね『フレンドシップ』と」

「本当にあの時はありがとうございました」

「いえいえ。 実はあのお財布、僕が見つけたんだよ」

「そうなんですか!お店のどの辺で…?」

「貴石駅の近く」

「駅?」

「そう。駅のすぐ横の踏切のあたりかな」

確かに通ってるとこだ。だけど

「お店じゃなく、駅ですか」

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