恋人たちの夢: The Avalanches - We Will Always Love You
素晴らしい前作「Wildflower」が16年振りのリリース、本作はそこから4年振りとなる3rdアルバム。前作では「Harmony」で聞けるような暖かいサイケデリックな曲が私は好きだった。今作はその方向にハンドルを目一杯切ったような作風で、私としては嬉しい限りだ。
彼らの最大の武器であるサンプリングを用いてダンス・ビートやメロウなR&Bなど、多様な展開を聴かせながらもアルバムの印象は散漫にならない。音楽ファンの多くが知っているようなビッグ・ネームから新進気鋭のラッパーまで、世代を縦横するように多彩なゲストを配していることも話題になっている。しかしその名前に負けないだけの力強いソング・ライティングが出来ていることを私は強く伝えたい。
そしてリスナーに時間の流れを意識させるような作りになっていることが印象的だった。自分が暖かい幸せな夢の中にいて、そこで日の出から日の入りまでの時間を過ごしているような感覚になった。ブラッド・オレンジを配した「We Will Always Love You」は一日の始まりを優しく告げるような歌だし、MGMTとジョニー・マーの「The Divine Chord」と「Interstellar Love」「Reflecting Light」は昼間に聴くにはピッタリの雰囲気だ。一方でトリッキーを配した「Until Daylight Comes」はまさに日暮れを迎えるときの歌だろう。「Wherever You Go」「Music Makes Me High」はまさに真夜中のパーティー・チューン。そしてそれが終わればまた朝がやって来る(「Gold Sky」)。そんな感覚に入り込ませるだけの力強さがある。しかしストーリはそこで終わらない。コーネリアスが参加した「Music Is The Light」と最後の小曲「Weightless」は明らかに夢の終わりを告げているように聞こえる。特にモールス信号のようなビープ音が続く「Weightless」は強制的に眠りにつかされていた者が外からの信号によって目が覚める、そんなSFのような雰囲気がある。
この作品に私は感情を強く揺さぶられている。もう少し深くこのアルバムについて知りたいと思うが、ネットで今作についての本人たちのインタビューはまだ出てきていないようだ。また批評もそれほど出ておらず(ロッキング・オンくらいしか見つけられなかった)、どうしたものかと思っていたらアーティストの公式ページにヒントとなりそうなことが書かれていた。
今作は、科学を専門とする作家、プロデューサー、ディレクターのアン・ドルーヤンと天文学者のカール・セーガンのラヴ・ストーリーにインスパイアされており、最新シングルのMVも壮大な宇宙のイメージをコラージュした内容になっています。
これはきっと恋人たちの世界の作品なのだと思う。その相手がいるだけで平凡な一日の、その始まりと終わりがこんなにも夢のような美しい時間となる。そしてそんな一日はどこまでも深く、大きく広がっている。その神秘と美しさに触れたような感じがして、私は泣きそうになるほどだ。2020年の終わりにこの作品に出会えたことは本当にラッキーとしか言いようがない。