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プライドの権化が、人間になるまで
私は幼稚園児の頃から
地元のショッピングモールにあるボールプールで
遊ぶのが苦手だった
私は周りよりいつも秀でていたいし、みんなと同じことをするなんてなんかカッコ悪い
プライドの高さはその頃からの筋金入りだ
字を書いたら金賞、絵を描いたら銅賞、合唱コンクールではピアノ伴奏をして、テストは何もしなくても90点を切らなかった
できたら褒められて可愛がられて
プライドの英才教育だった
だって私は賢くて器用で、お利口さんだもん
高校は、人並みに頑張って県内トップの進学校に合格した
そこで私の世界は一変する
入試成績は360人中330番
滑り込み合格だった
これまで関わったことがないような人が周りにたくさんいた
美人で、愛嬌があって、界隈では有名な若手バレリーナでありながら東大合格を目指すクラスメイトがいた
365日中360日、朝から晩まで部活に明け暮れたのち、現役で京大医学部に合格する同級生がいた
どんなに時間をかけても追いつけない現実を目の当たりにして、人生初の挫折を経験した
染み付いたプライドは醜く形を変えた
他人を下げることで自分を保つのに必死だった
大学受験では志望校に落ち、滑り止めで受けたEランクの大学に進学した
有名進学校出身というステータスだけ必死に握りしめて、自己保身のために他人を寄せ付けられないまま4年間を過ごした
大学受験の失敗を絶対に繰り返したくないという一心で、手当たり次第有名企業に応募し、大手人材会社に無事入社した
入社後は、地方支社の求人広告営業として配属された
研修期間もそこそこに、4月中旬には現場に放り出された
1日200件テレアポをして、1件もアポが取れない日なんてザラにあり、全国に散らばった150人の同期と競わされた
そんな中、一際成果を見せる同期の女がいた
研修期間の懇親会で、「パンツはTバック以外履かないの」と豪語していた、やけに鼻につく大阪の女だった
彼女の受注報告には、当時見たことがない額の受注内容が並んだ
彼女の上司は、若くして役職についたトップクラスの売れっ子営業だった
田舎支社に配属され、商談に行っては空振りを繰り返していた私は
思わず呟いてしまった
「売りやすい大都市エリアに配属されて、上司に商談してもらって受注してるだけの段階なのに、そんなに嬉しいですかね?」
それに対して上司がくれた言葉が、私の中に色濃く残る
「そう思うよな。でも社会って結局、正義が勝つんじゃなくて、勝つのが正義なんだよ」
汚い
社会って汚くて、なんて夢がないんだと思った
でも同時に、不思議と吹っ切れた自分がいた
あぁそうか、スマートに及第点を取るなんて、この社会で何の価値もないんだなと
ならやってやろうじゃないかと
そこからがむしゃらに働く、というよりもがき続ける日々が始まった
毎日12時間働き、家に帰っても仕事の勉強、
お風呂で先輩の商談報告を読み漁り
休日は見込み客の選定に明け暮れた
誰よりも本気で働いた自信があると、
声を大にして言えるほどだった
結果として何百人といる営業の中で3年連続売上トップを走り続け
今は就きたかった裏方業務に回った
基本的に器用貧乏でプライドだけ高かった私が
人生においてこれほどまでに突き抜けたことは初めてだし、売上というより”自分は頑張れた”という事実が自分の揺るぎない自信になった
自分の努力でできた自信は、のちに自分を楽にさせてくれた
何があっても頑張れるから大丈夫
そう思えるだけで、周りにも優しくなれた気がする
今の時代にそぐわない言葉かもしれないし
とても極端な言葉だったとは思う
あの言葉が正しいか正しくないか、ではなく
間違いなく当時の腑抜けた自分にとっては価値があったということだ
私をプライドの魔の手から解放してくれた、忘れられない上司の言葉