#7.まだ私は食べられる

『最近、妻が食事の時良くむせこむようになったんです。どうしたらよいでしょうか?』

この手の相談はよくあることで、幸い当ステーションには言語聴覚士(st)といって飲み込みや発声に長けているスタッフが在住している。

『一度評価をしてもらうことは出来ますか』

本人も食事の度にむせこむ辛さを感じており、藁にもすがる思いが感じられた。

この方はまだ私の親と同年代。進行性難病で、一年足らずで歩行自立から車椅子生活となった。両下肢は麻痺でほとんど動かすことは出来ない。両手もふるえが強く、食事も介助が必要。スマホも打てなくなり、最近は目も見えなくなってきた。


唯一の楽しみは夫婦の買い物と食べること。

後日stが訪問に伺った。評価を進めるやいなや
『まだ、こんなに硬いものも食べれるんです!』
『むせると言っても月に数回程度で、、、』
『水分も飲み口をストローに変えるとこんな感じで、、』

こちらに話す隙を与えないように畳み掛けてくる。

この家族が何を望んでいるのかはすぐわかった。


今のままで大丈夫。

病院だったらすぐに食形態を下げただろう。水分にはトロミがついただろう。食べてはいけないものを沢山指示されただろう。
在宅では全て家族、本人の判断。リスクは説明するが最後に決めるのは家族、本人。

初回評価はさらっと終わった。『初回ではなかなかわからないところも多いのでまた何か、変化があれば教えて下さいね』

実はこの方は以前にもstが別ステーションから入っていた。そこである程度のリスクはすでに伝えられていた。それでもなお、評価を希望された。

本当はもう食べることが難しくなってきていることを伝えなければいけないのかもしれない。
でも、ご主人が必死になって伝えようとしている様や本人の食べたいという意志がヒシヒシと伝わってくる。


伝えるのは今じゃない。

あともう少しだけ一緒に付き合おうと思う。

※この物語はフィクションを含みます




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