【旅行記】THE FOOL~なげやりな一人旅~<前編>
高校時代の修学旅行は山陰・山陽地方だった。
4泊5日で萩・津和野・広島・倉敷と駆け回り、妙にせわしない旅行だった。
でも、それなりに楽しかったし、時間が無くて見てこれなかった場所もあったので、絶対もう一度来てみようとは思っていた。
月日の流れの早いこと…あれから6年も経っていた。
その間、何やってきたのかなぁ〜なんて考えてみても、何も無いことにしか気付かず愕然としてしまう。
親が人の顔を見て、溜息を付き「どうすんのかねぇ〜」なんて呟かれると、「はぁ、申し訳ありません」と小さくなるしかないじゃないっ!
5月。春真っ盛り。
もう時期また一つ歳を取る。
そんなこんなの中、5月のゴールデンウイークは10日間近く会社が休みになった。会社といっても私はヤクザなフリーアルバイター、休みは自由に取れるんだけどね。
これは何処かに行くしかないっ!某テレビ番組のタイトルじゃないけど、何処でもいい!何処か「遠くに行きたい!」と強く思ったわけだ。
私は煮詰まると遠くに行きたくなる。逃げ出したくなる。
三十六計逃げるに如かず。私の為にあるような格言だ。
事実この時、私は煮詰まっていた。仕事の事もそうだけど、人間関係でも煮詰まっていた。もうすぐ限界だっ!と思った。…ので、昔、絶対もう一度来てやるぞっと、心に誓った「萩」へ旅立つことに決めた。
私はB型人間である。
行くと決めたはいいが、そんなにお金があるわけじゃない。新横浜から小郡まで、新幹線を使うと片道で軽く2万は超える。往復で4万以上。最低二泊はしたいから、宿泊二万とみておく。会社の人に出雲に寄っといでと言われたので(これには深い意味がある)そっちのほうにも行きたいし…現地での食事、交通費など考えると…。
やっぱり10万円は用意したい。でも、そんなにお金ない。
ここで、私は考えた。
時間はある。時間だけはあるんだ。そして私の特技に、空いている電車なら何時間でも乗っていられる…と、いうのがある。一人で電車に乗っていることが大好きなのだ。
それが高じて、電車で駅の周りの本屋を巡る営業のバイトをしたこともある。夏になって暑くて辛いので、すぐ辞めたけど…
普通列車だけで小郡まで行こうっ!と、その時閃いた。
片道運賃12,050円で済む。
後の問題は宿である。
ガイドブックと地図を見比べあれこれ考える。
なにせ、行こうと決心してあったものの、他に何も考えていなかったので、出掛ける前々日に慌てまくる騒ぎ。
まぁ、気楽な一人旅なので、出掛ける日はいつでもいいやと、のんびり構えていたせいでもあるけどね。
しかし、考えてみると、ゴールデンウイークの観光地。
宿が空いているはずもない。1泊1万と多めに見積もっても、それでも部屋はないのである。
それでめげるような私ではない。
行き当たりばったりのギリギリ旅行はプロである。ちょっと都会から外れれば、開いてる部屋は必ずある。サービスの悪さだって、部屋の広さだって、気にしなければあることはあるんだ。ビジネスホテルになるけどね。
現に一泊は小郡を外して防府で4,300円の部屋。東萩では4,000円の部屋が取れた。予算を大きく下回ったので、東萩では二泊の予約を入れる。
普通列車だけで行くと決めたものの、鶴見から山口の防府まで一本の電車だけで行けるはずもない。ここでまた計画を立てねばいけなくなった。
如何に乗換回数を少なくして行くことが出来るか!
私の立てた計画は以下の通りである。
29日23:40 東京ー375M ー大垣 30日06:57
30日07:08 大垣ー735M ー綱干 30日11:23
30日12:14 綱干ー1417Mー岡山 30日13:28
30日14:15 岡山ー357M ー防府 30日19:30
約20時間車中である。
さてっ、最初の大垣行きの電車の事である。
こいつはくせものなのである。
以前この電車を使って神戸に行ったことがあった。
横浜の東海道線のホームでこの電車を見た時(行くの止めようかな…)と思わずにいられなかった。
人間の寿司詰め電車。私の乗り込むスペースは無いように見えた。(乗れたけど)後悔したが、大垣までは一日一本しか出ていない。これに乗るより方法はないっ!
夜12時近くに乗り込んで、翌日の朝5時近くまで私は立っていたのだった。
その経験から、私は、大垣行の電車には始発の東京駅から乗ることにした。
しかもグリーン券を買って、1時間前に並ぶことにしたのだ。
グリーン券は1,860円。これで寝て行けるのだから文句は言うまい。
東京からの切符は鶴見では買えない。(と、云われた)
切符は一度東京まで出てから買う事になった。
と、いう訳で、着替え、洗面用具など荷物を小さなスポーツバックに納め、4月29日夜8時30分に家を出た。
「東京から防府までの普通列車の切符と、大垣までのグリーン券お願いします。」
「えっ?何処までだって?」
「東京から防府まで」
「防府?」
「そう」
「普通券だけ?」
「はい。あと、大垣までのグリーン券」
私と東京駅の駅員さんとの会話である。
この時私は、とても変な目で見られ、もしかして恥ずかしいことをしているのかと思ったが、どうせここで別れれば擦れ違っても分からぬ人よ。まぁ、いいや。と、お金を払って切符を受け取りホームへと向かったのだった。
開き直るのは得意である。
車中は快適であった。快適すぎて頭にきた。
思ったより人がいなかったのである。
あぁ、こんな事ならグリーン券買わずにおけば良かったものを…
と、せこく思った。旅に出ると私はせこくなる。
旅から戻って、この事を会社の人に話したら、(彼女も大垣行の辛さを知っている)曰く「今時、そんな(貧乏くさい)旅行する人はいないのかもしれない…」
ふ〜んだっ!どうせ、わたしゃ貧乏人だよ☆
長い長い車中。私は退屈する暇もなかった。
大垣まではぐっすり眠れて、気分は最高だったし、翌日も良い天気に恵まれてポカポカとした日差しの中、音楽を聞きながら、景色を眺めたり、本を読んだり…。
席は向かい合って座る4人用の席で、私の隣や、前は色んな人が入れ代わり立ち代わり……
同じ電車に乗って、側に座っている人々が、全て知らない人だということが何だか不思議な気がした。
こんなこと思う私のほうが変かな?
旅に出ると自分が一人だということを実感する。
親しい人達の中にいるとそんな事忘れてしまうけど、本当は何処に居ても、誰と居ても一人なんだな…と、当たり前のことを改めて思う。
自分と同じ思い、自分と同じ考えの人なんて本当はいないんだな…って、
少しずつどこか違うんだな…て、教えてくれる。
だから他の人が、私を理解してくれていないと嘆くのは間違いだな…って、理解して欲しいと思う事さえ身勝手な我がままなんだ…と、
旅に出ると良く分かる。
誤解されやすいのかな?悪気はないのに悪い方に取られることがある。
単純で、子供っぽい性格だから、知らないうちに他の人に迷惑をかけたりする。
そんな時どん底に落ち込んで、自分がどうすればいいのかわからなくなる。
昔は逃げ道に、仕事を変えるという方法を取ったりしたけど、旅に出るようになってから少し強くなったみたいだ。
自分が一人だと実感(文字通り実感)した時、もの凄い寂しさに襲われる。
寂しいけれど、知らない所で知らない人ばかり。
岡山から防府に向かう電車の中、おばさん三人に囲まれた。
長時間一緒に座っていると、話しかけられたりすることがよくある。特に田舎の人ほど人懐っこい。
このおばさん達も始めは自分達だけでわいわいやっていたが、お菓子を広げ始めた時「どうぞ」と言って、私にも勧めてくれた。
遠慮しながらも一つ貰うと、「ここに置いておくから好きなだけ食べなさい」(本当は方言で言われた)と、私の座っている席の窓枠にお菓子を置いた。
私は嬉しかった。
感動した。
話しかけてくれたことが嬉しかった。
お菓子をくれたことに感動した。
このおばさんは、私にお菓子をくれても何の得にもならないと知っているのに親切にしてくれたんだ。私は親戚でも何でもないのに…赤の他人なのに優しくしてくれたんだ。これは凄い事だ。
…と、感動したのである。
一人旅が好きになったのは、このことを実感できるからかもしれない。
さもなければ、あの寂しさと孤独感は耐えられまい。
一人という意味は、独りじゃないんだよ。
旅から戻っても友人の親切がひどく大切に思えるようになった。友達だから親切にしてくれるのが当たり前と思っていた処が、自分にあったことにも気が付いた。
自分が一人だと分かった時、他の人が大事になった。
夜7:30防府に着いて、その日は予約してあった宿に泊まる。
そこでやっとその日最初の食事を取る。
岡山で駅弁を買ってはいたのだが…
だが…
電車の中で一人お弁当を広げる行為ほど勇気のいる事はない。
車中はずっと人の施しで空腹を癒していた私。
ああ…皆さん本当に有難う。
ついでに駅弁を作ってくれたおじさん、おばさん、有難う。
お米を作ってくれたお百姓さん有難う…
と、感謝しまくって早々に寝た。
明日はバスで東萩だぞ!