『VTuber学』第4章執筆者だけど全章レビューしてみた【最速完走・全章感想】
話題のVTuber総合学術書『VTuber学(岩波書店)』 私自身もいち執筆者として第4章を書かせて頂いていますが、来週9/14の発売記念配信に向けてさっそく読破したので、全章の感想を記事にまとめてみました。すごいボリュームですが内容が濃く、VTuberに興味がある方にはおすすめの入門書です。
私の記事や書籍を引用してくれた箇所などもまとめました。コラムやインタビューは全て感想書けてないので、まだまだコンテンツがありますw 気になる人は本書をチェックしてくださいね。
本書全体の感想
結構分厚い研究書ですが、単純に読み物としても面白かったです! クセ強作者達による幅広いV研究がぎゅっと詰まっていて、Vに関わっている人は、ニヤリなエピソード満載だし、色んな発見があって楽しめるはず。Vを切り口にした、色んな学問の入門書と捉えてもよいと思います。(特に3部の哲学)
何より、岩波から書籍として発売されたことで、これら全てをまとめて引用でき、今後VTuber研究にチャレンジする時の敷居がぐっと下がる意義は大きいと思います。まさしく「VTuberを学問の俎上に」ですね! 改めて、この一大プロジェクトに参加させて頂けて光栄です。
これから読む人は、岡本先生がVTuber学の意義を語る0章と広田さんがVTuberの歴史を纏めた1章を読んだら、後は順番関係なく興味がある所だけつまみ食いして読むのでも全然いいと思います。ただし、第III部の哲学は計算し尽くされた一連の流れになっているので、順番通りにセットで読むのがおすすめです。
第0章 『VTuber学』をはじめよう 岡本健
単なる導入と思いきや、VTuberのIT文化史における立ち位置や、なぜ今それを「学問」するのか!? 意義が語られていていきなり熱い!
現実とフィクションの融合という目線は私も共感で、まさに攻殻の描いた未来が目の前にあるなと感じます。
第I部 VTuberことはじめ
第1章 VTuberの歴史 ─VRニュースサイト「PANORA」運営者の視点から─ 広田稔
今では当たり前になった「VTuber」がどう始まり、時代ごとにどう受け入れられ、どう変化していったのか。単なるまとめではなく、暗部や課題を含めて超客観的目線でまとめられた広田さんにしか書けない圧巻のテキストで、1章に相応しい内容です。
『 「アニメキャラクターのように中の人を入れ替えて永久タレント活動を続けられる」や「バーチャルなのでスキャンダルがない」といった可能性を説いていたが,誤りであったことに気づいた』は至言。生のバーチャルタレントとは一体何なのか、当時誰も分からなかったし、業界としてあらゆる実験が行われた試行錯誤の末に今があるなと改めて。
VTuber黎明期の歴史を、メディアからの「客観目線」で、なおかつ世間に存在感のある「企業V」に特に着目して描いたという意味で、私の第4章と表裏の内容なので、セットで読んで頂けるとおもしろいかも。
Activ8株式会社代表取締役 大坂武史氏へのインタビュー
ついに明かされるキズナアイちゃん誕生秘話。「生きているキャラクター」を生み出す前代未聞の試み、面白すぎる…
『VTuberは全体的に「中の人を隠さなければならない」みたいな不文律があるように思うのですが,キズナアイはAIという設定上そうだったというだけで,特にそこに縛られる必要はないと思っています 』
私自身もキズナアイちゃんを参考に活動を始めた1人ですが、間違いなく、最初期のVのフォーマットになったし、受け継がれた部分も、受け継がれなかった部分も、全てゼロからのチャレンジで改めて壮大な試みだったのだなと。
第2章 VTuber企業のビジネスモデルと 社会的広がり ─ANYCOLORとカバーを中心に─ 吉川 慧
分かるようで分からない、Vの経済規模や収益構造について、コンサル会社のレポートのように徹底解析されていて読み応えがあります。
私自身はじめのころは、Vは文化的・表現的意義は大きいが、ビジネスとしては正直難しいのではないかと思っていて、今のような巨大産業になったのは本当に驚きだし、それを成し遂げたこの2社の功績は改めて大きいですね。
第3章 VTuberのエンターテイメント性を考える 草野虹
考えてみると、私は視聴者ウケとか登録者数とかガン無視で、自分自身の知的好奇心を満たすためだけに好き勝手活動してきたけど、私みたいなのは多分V界では異端なんだろうなと改めて思い知らされましたw
Vがエンタメとしてなぜ新しいのか、どう視聴者を楽しませているのか、ある意味「究極の視聴者」目線のVTuber論。私には持てない視点で新鮮でした。
第4章 すべてがVになる ─VTuber現象が人類の魂を解き放つ─ バーチャル美少女ねむ
私が書きました。いち当事者である私の主観目線から見た、最初期VTuberブームが「個人V」にもたらした意味と、未来の可能性について語らせて頂きました。
3章までは「大手企業V」に重点を置いて客観目線で書かれているので、流れで読むと我ながらかなり異質な章ですね!
ただし、マクロな「人類史」という引いた目線で考えると、私個人としては、一般人がV化していく「個人V」こそが大きな意味を持っていると考えています。
今回改めて最初期ブームの歴史を振り返ってまとめてみたのですが、2017年当時のやりとりがどんどんネットから消えつつあることに気づいて愕然としました。当時の歴史を書籍に残すにあたって、今回の出版は唯一無二の奇跡的なタイミングだったと思います。改めて、執筆の声がけをしてくれた岡本先生・山野先生・吉川さんに感謝です。 Vが人類の未来に与える変革の可能性。楽しんで頂けたら幸いです。(感想待ってます)
また、ラストはメタバースのちょっとした導入になっています。この章をきっかけにメタバースに興味を持ってくれた読者には、ぜひ拙著『メタバース進化論(技術評論社)』を読んでほしいです。
第II部 調査編
第5章 VTuber学入門 ─どのようにVTuberを調査・研究していくのか─ 岡本健
ウェーバー「シーザー(VTuber)を理解するためには、シーザー(VTuber)である必要はない」
バトー (イノセンス)「だが、武器(VTuber学)は必要だろう」という事ですねわかります()
実録「VTuberを研究するためにVTuber・ゾンビ先生になってみた!」 面白かったです。私のメタバース関連の調査活動でもそうですが、文献やデータを解析するのももちろん大事なんですが、それだけだとトンデモ結論が出ることもしばしばあるので、実地研究は非常に大事です。
コラム4 作家 塗田一帆氏へのインタビュー
VTuber学に掲載の塗田一帆さん @nulltypo へのインタビュー記事で、私のこのポストに言及して頂いてました。
未来を考えるに当たっては、現在の世界を絶対視してはいけないですし、変化の早いVRの世界では特にそれは顕著だと思います。
第6章 メタVTuberコンテンツの表象文化研究 ─「匿名性」「有名性」「声」「ジェンダー」から考える─ 関根麻里恵
フィクション作品でVをテーマにすることによって、アイデンティティを動的なものとして、かつリアリティを持って描く表現プラットフォームになるのではないか、という指摘、鋭い観点ですね。
塗田一帆さんのリストを元に作品を分類する試みも面白くてニヤニヤしてしまいますw 過去の様々な方のV研究が絡み合って新たな物語が生まれていくのは、少年漫画のような胸アツ展開。
また、アバターや音声表現の分析にあたっては、拙著『メタバース進化論』や「VRライフスタイル調査」をかなり深く読み込んで頂いていて、たいへん感動しました。これまでのことは無駄じゃなかったのだなと、改めて。
第7章 当事者の声をとらえる ─「バ美肉」実践者へのアンケート・インタビュー調査─ リュドミラ・ブレディキナ
ジェンダー賞「プリ・ジャンル」受賞で話題になったミラの「バ美肉」研究や私と共同で行った大規模調査「メタバースでのハラスメント」を通して、性や自己認識に関わる非常にセンシティブなテーマについて、先入観に囚われずに集団の思想を分析する手法について詳細にまとめられています。ミラの真骨頂ですね!
第8章 重なり合うアバターたち ─VRChatにおけるアバター/ユーザー関係の諸相─ 池山草馬
VRChatにおける販売アバターは、多数のユーザーに使われる「ツール」でありつつも、たしかに「強いキャラクター性を持った存在」ですよね。
言ってしまえば「初音ミク」を音楽以外に拡張・汎用化したものであり、多数の意見や思想・魂を反映した「名も無き不特定多数によって駆動されるバーチャルアイドル」だと私は考えています。
VTuberとはまた違うバーチャルアイドルの可能性であり、今後メタバースの人口増加に伴い、新たな巨大カルチャーとして勃興すると私は考えています。
※ファントムセンス(VR感覚)に関連して、私のnoteを参照して頂いていました。
コラム7 VTuberの図書館活用 高倉暁大
拙著『メタバース進化論』をVTuberによる出版の事例として取り上げて頂いていました。
第III部 理論編
第9章 「VTuber」とはいかなる存在者か 山野弘樹
様々な哲学モデルと照らし合わせ、「配信社説」「キャラクター創造説」「制度的存在者説」と様々なV哲学が浮かび上がる流れ、非常にドラマチックです。
ブーム前のルールのない時代からVTuberやってる私としては盲点だったんですが、「紙幣」がお金として価値を持つプロセスと同様に、VTuberをルール(お約束)によって生まれる社会的存在として見なすと、時にまどろっこしくも思えるVTuberの決まりごとも、存在や物語を確定させるための「おまじない」として大きな意味があったのだと改めて気付かされました。
アバターによるアイデンティティを身体・倫理・物語の3つに分解した考察も、私の「アイデンティティのコスプレ」に繋がる話で、非常に面白いです。
第10章 実在する配信者としてのVTuber 篠崎大河
分析哲学の手法を用いて、中の人に焦点を当ててVTuberを捉える「配信者説」でVTuber現象をどこまで説明できるかを検証する試み。
非常に明快に説明されていて、VTuberを題材にした哲学のエントリーテキストとして読んでも面白いです。
第11章 人格(ペルソナ)としてのVTuber 富山豊
前章と対照的に、今度は人間の認識から物事を記述する「現象学」の立場から、VTuberを配信者の持つひとつの人格(ペルソナ)で説明する試み。
私自身の体験に照らし合わせて考えても、VTuberは演じるもの、というよりは、アバターによって引っ張り出された人格が勝手に喋り出すようなイメージなので、VTuber主観的に紐づく現象を語る上ではこの説明がしっくり来るのではないでしょうか。
第三部は哲学ですが、それぞれの章が綿密に繋がっていて、順序だてて説明されるので、すごく理解しやすいです。哲学の入門書としてもいいかも。
第12章 フィクショナル・キャラクター としてのVTuber 松本大輝
人間の感性を論じる学問「美学」の立場から、VTuberをフィクションにおけるキャラクターとして捉える「キャラクター創造説」
VTuberの視聴者の立場から見た現象を記述するにはこれが一番しっくりくると思います。私が本書の筆者の一人になってることもそうですが、従来のキャラクターと比べたときに、VTuberが現実に色んな影響を及ぼすのは、リアルとフィクションの境目が歪むようで面白いですよね。
第13章 「身体」と「魂」としてのVTuber 本間裕之
物事の本質を探求するアリストテレス以下の「中世哲学」によりVTuberを記述する試み。
私の『メタバース進化論』でもプラトンのイデア論と関連付けてアバターによる自己表現が魂の本質に迫る試みではないかと論考しましたが、キャラクターを魂(実態)と捉える考え方はとても共感です。
世間的に「魂」と言えば「中の人」のことになってしまってるのは、非常にミスリードですよね。
9.14 『VTuber学』発売記念ライブ ねむちゃんねるから発売記念配信
本書の発売を記念して、9月14日(土)20:00より「発売記念ライブ」を私のチャンネル「ねむちゃんねる」から無料配信することを決定しました。
編著者である岡本健・山野弘樹・吉川慧と、第4章執筆者でVTuberのバーチャル美少女ねむの4名により、刊行の意図や書籍の内容の紹介、企画や執筆の裏話などを元に、『VTuber学』を語り尽くします。YouTubeで無料で視聴できます。
・【LIVE】岩波書店『VTuber学』発売記念ライブ【VTuberを”学問”の俎上に】
「VTuber学」Amazon売れ筋ランキングで3冠達成! 儒烏風亭らでんちゃん配信でも紹介
VTuber総合学術書『VTuber学(岩波書店)』、発売早々Amazon売れ筋ランキングで3冠達成しました! ホロライブ「儒烏風亭らでん」ちゃん配信でも紹介頂きました!
岩波書店『VTuber学』発売中!
ねむ執筆、第4章「すべてがVになる」
VTuber総合学術書『VTuber学(岩波書店)』が8月28日に発売決定! 私・VTuber/作家「バーチャル美少女ねむ」も13人の章執筆者の一人として、第4章「すべてがVになる ─VTuber 現象が人類の魂を解き放つ─」を担当させて頂きました。当事者の一人としてVTuberブームを振り返り、VTuber現象が人類に与える意味について考察しました。
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