【完全解説】VRChat「有料サブスク」導入で「クリエイターエコノミー」どうなる?
本日11/23(日本時間)、VRChatがクリエイターに課金できる新機能「有料サブスクリプション(Paid Subscriptions、以下「有料サブスク」)」の導入を発表しました。これはVRChatが半年前に発表し話題になった「クリエイターエコノミー」構想の第一弾です。世界最大のソーシャルVRであるVRChatのこの動きは、メタバースにおける経済圏を遂に本格的に呼び起こすものになるのでしょうか?
この記事では私、メタバース文化エバンジェリスト・バーチャル美少女ねむがVRChatの「有料サブスク」機能と「クリエイターエコノミー」構想について詳しく解説します。VRChat住人の不安の声や、VRChatの真意、手数料やアバターの商用利用の懸念などについてもまとめました。さらに最新の「VRライフスタイル調査」でわかった実際の経済活動の様子についても紹介します。
※11/24追記:こちらの記事「リアルサウンド テック」様・「Yahoo!ニュース」様にも掲載頂きました!(ポイントを絞って書き直した改訂版)
11/23 VRChat「有料サブスク」発表
VRChat「有料サブスクリプション(Paid Subscriptions)」概要
・あらゆるクリエイターに課金できるようになる(展開は順次)
・Udon(VRChat内プログラミング言語)でサブスク課金者にだけ特別な体験を自由に提供可能
・VRChat内通貨(クレジット)を購入して支払う
・手数料は約50%
・自動更新はなし(追加予定)
・まずはオープンベータで提供開始
展開計画:今日からオープンベータ
・今日11/23(日本時間)からオープンベータ提供開始(希望者のみオプトイン)
・2週間程度でベータ版の有料サブスクをリリース予定
・はじめは一部のクリエイターのみ有料サブスを販売可能で、徐々に対象を拡大する予定
手数料50%の内訳
手数料「50%」の内訳としては、VRChatの取り分は「20%」で良心的な感じがします。ただ、やはりSteam・Meta・Google Playなどの配信プラットフォームが「30%」の手数料をとるようです。最終的なクリエイターの取り分は「50%」です。
電子書籍Kindleで書籍をアプリ内ではなくブラウザから購入するようになったように、なにか手数料の回避手段があればいいのですが…
※出典:Paid Subscriptions: Now in Open Beta! — VRChat
VRChat「クリエイターエコノミー」第一弾
今回の「有料サブスク」は、半年前の5/19(日本時間)に発表された「クリエイターエコノミー」構想の第一弾です。これはVRChat内のクリエイター(アバター・ワールド制作者、イベント主催者、パーフォーマーなど)が活動を収益化できるようにして、VRChatの仮想空間内に本格的な経済圏(エコノミー)を作っていこう、というものです。発表を聞いたときは正直言って、まさかほんとに「年内」に来るとは思ってもいませんでした。(2年後くらいで構えていました)
5/19 VRChat「クリエイターエコノミー」概要
・購入者にだけ機能がアンロックされるワールドが提供できる
・購入者だけ参加できるVIPイベントが開催できる
・アバター関連は未定
・米国向けクローズドβから年内提供開始予定
※出典:Introducing the Creator Economy — VRChat
VRChat住人の歓迎の声
VRChat住人の不安の声(VRChatの文化が壊れる?)
「なぜVRChatにお金を導入するのか?」
VRChatにビジネスを持ち込みたくないという声も上がっていますし、業者や詐欺も確実に一定数湧くでしょう。それでも「なぜVRChatにお金を導入するのか?」VRChatコミュニケーションリードStraszさんのYouTube動画での演説が素晴らしかったので必見です。
以下、ねむによる日本語訳です。
既に大きく広がっている従来のVRChat「外」での収益化を否定せず、世界最大のソーシャルVRであるVRChatがプラットフォームに「統合」するからこそできる、クリエイターのための経済体験を目指す宣言と私は受け取りました。個人的にはとても楽しみにしています。
懸念:手数料が高すぎる?
プラットフォーム税って回避できないの?
VRChatの手数料はともかく、配信プラットフォーム(Steam, Meta, Google Play, etc)の手数料30%(通称:プラットフォーム税)が大きすぎるのでは、という声も上がっていました。
一見取り過ぎな気もしますが、配信プラットフォームがないとアプリケーションを広くユーザーに届けることはできません。お互いにwin-winな関係にしないといけないので非常に難しい所ですね。
「Apple vs Epic 訴訟」がメタバースの命運を握る?
これに関連する重要な話として、「Fortnite(フォートナイト)」を手掛けるEpic Gamesが、AppleがApp Storeで適用している30%の手数料(通称Apple税)は不当だとして独占禁止法違反で提訴しています。係争中はアプリ内で外部決済へ誘導してApple税は回避できるみたいですが、当然Appleは徹底抗戦の構え。この訴訟の行方が今後のメタバースにおけるプラットフォーム税の方向性を左右しそうで見逃せません。
※出典:Apple対Epic訴訟、最高裁での係争中は「反ステアリング規則」は有効との決定 - ITmedia NEWS(2023/8/10)
懸念:アバターの「商用利用」でトラブル続出?
また、VRChatでクリエイターの経済活動が解禁されると、3Dアセットの規約上の「商用利用」でトラブルが続出する懸念もあります。最もイメージしやすいのはアバターや衣装などです。
現状各アセットの制作者さんがそれぞれ独自に規約を決めているケースが多いですが、今後広まっていくクリエイターエコノミーのような利用方法は従来の規約であまり想定されてないことも多く、無限にエッジケースが考えられます。また、従来の規約だと事実上クリエイターエコノミー時代のVRChatでは利用が非常に制限されてしまい、ほとんど使えない、ということもありえます。
どこからが「商用利用」に当たるかというのは、実際は意外と判断が難しいです。規約を読んでも簡単に判断できないケースもものすごく多く、解釈の違いで起こる悲しいトラブルもよく目撃します。今後経済活動を行う可能性のあるクリエイターさんは、ぜひ今のうちに使ってるアセットの権利を確認しておきましょう。必要に応じて制作者さんに問い合わせをしておくと良いかもしれません。
「メタバースで生きていく」第二章へ
良くも悪くも、全て無収益で圧倒的クオリティのイベントが行われていた牧歌的なVRChatの世界はこれで少しづつ変わっていくでしょう。もちろんこれまでと同じく無償のイベントも活況に続いていくと思いますが、徐々にイベント収益だけで食べていくクリエイターも増え、企業もどんどん参戦してくると考えられます。真の意味で「メタバースで生きていく」、メタバース第2章が始まります。
覚悟はいいか? 私はできてる。
参考:「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」に見るメタバース住人の経済活動
私とスイスの人類学者ミラが実施した大規模公開アンケート調査「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」では、メタバース住人の経済活動に関しても調査しています。こちらでその一部を紹介しましょう。
現在収入を得ている人の割合は26%とまだ多くなく、特に「年間10万円以上」はわずか7%でした。一方で「将来的にVRの収入で生きていきたい」人は34%と一定数が意欲をもっています。このあたりはVRChatのクリエイターエコノミー導入で今後激動することが予想されます。
収入の内訳のトップ2は「3Dモデル制作」と「VRイベント」でしたが、利用サービスによって極端な差が見られました。clusterやNeos VRでは3Dモデル制作が突出しており、バーチャルキャストではVRイベントが突出していました。
収入金額をサービス別で分析すると、VRChatは支出が大きいにも関わらず収入は少なく、バーチャルキャストは支出・収入共に高いです。男女別では、女性の方が収入が多いという結果になりました。地域別では(そこまで極端ではないですが)北米が高めで、日本は低めとなりました。
このように、現時点では限定的であるものの、既にメタバースにおける経済活動の萌芽が見られます。今回のVRChatの動きを受けてこれがどう変化していくのか目が離せません。
こちらで全80Pのレポートを無料公開しています。ぜひ感想をお寄せください。
参考:メタバースの人口
ソーシャルVRの人口についてもこちらの記事で各種統計データをまとめて考察しています。