見出し画像

原住民特化型!? VRゴーグル「MeganeX superlight 8K」でメタバースがパッキパキになった

185gの超軽量にフリップアップ! 有機ELによる高コントラスト&8K弱の超高解像度! メタバース原住民「特化型」の最強VRゴーグルが遂に完成した…!?

そんな噂を聞きつけShiftall社を潜入したところ、実際に新型VRゴーグル「MeganeX superlight 8K」の実機を試すことができた。なんと今回特別に筆者のVRChatフレンドでもある岩佐社長がマンツーマンで解説してくれたので、気になるポイントや誕生秘話を根掘り葉掘り聞かせてもらった。興奮のままに6,000文字超、書き下ろしである。

本記事は、VRChatなど黎明期のソーシャルVRで毎日長い時間を過ごすヘビーユーザー、いわゆる「メタバース原住民」のひとりであり、最新VR技術についても解説している書籍『メタバース進化論(技術評論社)』で「ITエンジニア本大賞」を受賞した筆者「バーチャル美少女ねむ」がお送りする。

※12/16追記:数多くの感想や質問を頂いたので記事の最後にまとめました
※12/20追記:本記事、リアルサウンド様に転載頂きました


「MeganeX superlight 8K」とは!?

「MeganeX superlight 8K」は日本のXRハードウェアメーカー・Shiftall社がパナソニックと共同開発し、2024年10月に発表したハイエンド新型VRゴーグルだ。185g(!)の超軽量と、有機EL(!!)による高コントラスト・8K弱(!!!)の超高解像度を両立したまさにモンスターマシン。超軽量&有機ELで長時間被っても疲れないので「VR睡眠」にもうってつけ。ライトハウス(外部センサ「ベースステーション」を室内に設置する規格)対応で既存の高性能な「フルトラ(フルトラッキング)」環境がそのまま利用可能。おまけにゴーグル部が額に移動する「フリップアップ機能」を備え、瞬時に「VR飲み会」などの飲食「Unityでのアバター改変作業」に移れるなど、どう考えても「メタバース原住民」を狙い撃ちして開発された機体である。

MeganeX superlight 8K

一方で徹底的な軽量化のためカメラや内蔵スピーカーは一切搭載されておらず、今流行りのMR機能や単体動作(スタンドアローン)性能は大胆にオミットされている。

これについては、筆者のようにほとんどソーシャルVRにしか使わないユーザーにはMR機能は正直全く必要ない(むしろ没入感が削がれるのでプレイ中に物理現実を見たくない)という人も多いだろうし、既にライトハウス環境があればスタンドアローン性能も不要なデッドウェイトだ。スピーカーはUSB-C端子に好きなものを付けられるが、筆者の場合はどうせボイスチェンジャーを外付けするので「VRゴーグルに内蔵スピーカーなんて要らないのに(その分軽く安くしてほしい)」と常々思っていた。そんな一部の偏ったユーザーにはぴったりの超尖ったマシンなのである。

特に、名機「VIVE Pro」など有機EL搭載のライトハウス機からの移行先に困っているユーザー(いわゆる「VIVE Pro難民」)には本機が気になっている人も多いのではないだろうか。

スペック表が圧巻

以下は公式サイトのスペック表から筆者が特に注目した部分をピックアップして独自にまとめたものだ。★は同社の現行機「MeganeX」(以下、「無印MeganeX」)との差分である。価格は維持しながら、解像度は倍以上になり、重量は半分以下という凄まじいまでのスペックアップとなっている。

価格:¥249,900(税込)※予約受付中。2025年1~2月発送予定。
 ★無印MeganeXと同価格
ディスプレイ:OLED(有機EL)
解像度:片目3,552 x 3,840px、両目8K弱
 ★無印MeganeX(片目2,560 × 2,560px、両目5K強)の2.08倍
重量:185g未満(本体部のみ)
 ★無印MeganeX(アダプター搭載時約385g)の48%

トラッキング:ライトハウス方式(ベースステーション1.0・2.0に対応)
 ★無印MeganeXは内蔵カメラによるインサイドアウトで、外付けのアダプターでライトハウスに対応していた

その他の特徴
・フリップアップ機能(ゴーグル部が額に移動可能)
電動IPD(瞳孔間距離)調整機能
左右独立ピント調整機能(0.15程度までの近眼に対応可能)

※参考:Shiftall公式サイト(MeganeX superlight 8KMeganeX

既存VRゴーグルとの解像度比較

特に解像度については言葉で説明してもイメージが湧かないと思うので、代表的な既存のVRゴーグルと比較した解像度マップを作成してみた。ちょっと凄いので見てほしい。この外枠が本機である。

MeganeX superlight 8Kを含むVRゴーグル解像度マップ(筆者作成)

Shiftall社に潜入してみた

バーチャル美少女ねむ、Shiftall社に潜入

実機:めちゃくちゃ小さい

こちらがShiftall社で見せてもらった「MeganeX superlight 8K」の実機だ。サイズ感が分かりやすいようにVIVEトラッカー(2018年式)と並べて撮影させてもらった。めちゃくちゃ小さい。トラッカー2個分くらいの大きさだ。

VIVEトラッカーとMeganeX superlight 8K(正面)

実際に持ってみると、大きさだけでなく、重さ(185g)もちょうどトラッカー(89g)2個分くらい。

VIVEトラッカーとMeganeX superlight 8K(上面)

ストラップを付けるとこんな感じだ。基本的には額のパッドで重さを支えるタイプとなっている。

MeganeX superlight 8K(正面)
MeganeX superlight 8K(側面)
MeganeX superlight 8K(裏面)

ストラップの基部に穴が空いていて、ここにトップストラップを追加して頭頂部全体に重さを分散したり、ニーズに合わせて自由にカスタマイズできるとのこと。このあたりも勝手に色々改造してしまうヘビーユーザーを意識したつくりになっている。

MeganeX superlight 8Kとトップストラップ追加用の穴

底面にはコネクタ類・ボタン・ダイヤル・マイクなどがびっしりと並んでいる。拡張用のネジ穴が付いていて、ここに顔トラ(フェイシャルトラッカー)などを増設できるそうだ。

MeganeX superlight 8K(底面)

実食①:めちゃくちゃ軽い

実際に「MeganeX superlight 8K」を被らせてもらった。めちゃくちゃ軽い。

MeganeX superlight 8K 装着の図(モデルは岩佐社長)

筆者は普段本機(185g)の4倍以上もあるVIVE Pro(770g)を普段使いしているのだが、VRゴーグルは重量よりもホールド感や重量バランスの方が遥かに重要という考えだ。最近の軽いVRゴーグルでも横方向の締め付けだけで長時間使っていると頭が痛くなりやすい(いわゆる「孫悟空の輪っか」状態)ので、トップストラップは必須だと思っていた。

しかし本機はあまりにも軽いため、そこそこ長時間被らせてもらったのだが締め付け感をほとんど感じず、額も痛くならなかった。ここまで異次元のレベルで軽くなってしまうともはや筆者の常識は通用しないのかもしれない。

フリップアップも快適で、片手で簡単に開閉することができた。

MeganeX superlight 8K フリップアップ状態の図(モデルは岩佐社長)

実食②:めちゃくちゃ寝れる

本機はストラップにハード素材が一切存在しないため、寝転んだ状態で使うこともできてしまう。有機ELで光が漏れず暗闇の再現度が高いこともあり、ソーシャルVRでみんなで集まって眠る「VR睡眠」にも最適だ。筆者も実際に寝転がってみたが、頭を横にして寝ても干渉しないので、寝返りを打つことすら可能だった。岩佐社長にお願いして寝っ転がってみてもらった図がこちら。

MeganeX superlight 8K VR睡眠の図(モデルは岩佐社長。ノリノリである)

※参考:「VR睡眠」とは何か? メタバースなら毎日が修学旅行気分!?

実食③:パッキパキだった

実際にVRChatをプレイさせてもらった。解像度は自由に変更できるが、せっかくなので最高解像度で試してみた。

正直ここまでの高解像度が体験に影響するのかやや懐疑的だったのだが、実際に見てみると世界がパッキパキだった。見慣れているはずのワールドやアバターが遥かにくっきりクリアになって、急に自分の視力が上がったような感覚だ。鏡に近づくと自分のアバターの顔のテクスチャのあらが見えてしまうほどだ。有機ELによる高コントラストも相まって、VR体験のリアリティ・臨場感がはっきりと分かるレベルで大きく上がったのを感じた。

非公表の視野角が気になっていたが、特に狭いと感じることもなく問題無さそうだった。VRゴーグルの視野角は測定方法が確立しておらず各社バラバラな数字を使っていて公平な比較が難しく、数字が独り歩きしないように敢えて公表しないスタンスだそうだ。ただし無印MeganeXよりは広くなっているとのこと。

使用したマシンのグラフィックボードは「RTX 4070 SUPER」でそこまでハイスペックという訳ではなかったが、人がいないワールドでは最高画質でもフレームレートを維持したまま快適にプレイできた。

VRゴーグルで地味に大事なのがソフトの性能だが、本機は専用ソフトを自社開発しているとのことで、コントラストや彩度などをリアルタイムで変更することができた。

MeganeX superlight 8K コンフィギュレーターソフト

VRChatイチャイチャ後、0.2秒の領域展開!

せっかくなので、同社のコントローラー「FlipVR」と合わせて、「メタバース原住民」の想定プレイスタイルを再現してくれと社長に無茶なお願いをしてみた。FlipVRはこのように手首をひねるだけで操作パネルが移動して、いちいちコントローラーを手から外すことなく瞬時に作業に移ることができるのだ。これは今回発表されたMeganeX superlight 8Kのフリップ機能と組み合わせることで真価が倍増するデバイスだったのである。

まずこちらが、VRChatでフレンドとイチャイチャする岩佐社長。

MeganeX superlight 8K & FlipVR でVRChatイチャイチャする岩佐社長

↓ ↓ ↓ 爆速変形 ↓ ↓ ↓

筆者がほんの一瞬まばたきをしている間に、なんということでしょう。そこには、Unityでアバター改変作業をする岩佐社長が…! そう、まさに革命である。

MeganeX superlight 8K & FlipVR をフリップアップしてUnityでアバター改変作業をする岩佐社長

岩佐社長曰く「これこそカメラ不要の物理パススルー」(笑)

Unity作業だけでなく、長時間プレイするヘビーユーザーは、VRをしながら飲食するのも当たり前。本機のフリップアップは「VR飲み会」でも活躍しそうだ。

MeganeX superlight 8K & FlipVR をフリップアップして飲み物を掴む岩佐社長

※参考:テレビ朝日「金曜日のメタバース」VR飲み会の聖地(?)「ポピー横丁」特集! ねむ、案内役に

無印MeganeXとのサイズ比較

せっかくなので無印MeganeXも出してもらって、並べてサイズ比較を行った。無印も385gでかなりの軽量機なのだが、半分以下の重さのsuperlight 8k(185g)に慣れた後だとかなりずっしりと感じられたのが印象的だった。

無印MeganeXとMeganeX superlight 8K(正面)
無印MeganeXとMeganeX superlight 8K(上面)

「MeganeX superlight 8K」誕生秘話

せっかくなので同社の様々なデバイスを見せてもらった - Shiftall社

超軽量の実現については、岩佐社長によると、カメラや内蔵スピーカーをオミットしただけでなく、レンズを樹脂に変えるなど素材や構造の見直しを含む徹底的なチューンナップを行ったとのこと。

超高解像度の実現については、決め手になったのは高品質の有機ELパネルが手に入ったことだと言う。Apple Vision Proの登場によって世界的にハイエンドVRゴーグル向けの有機ELの需要が跳ね上がり、様々なメーカーが試行錯誤したものの中に条件に合うものが見つかったそうだ。

近年多数のVRゴーグルが登場している一方で、実はヘビーユーザーをターゲットにしたものは限られており、乗り換え先が見つからないという嘆きの声もよく耳にする。世界的にメタバースの人口が急拡大するなか、そこにポイントを絞った特化型デバイスはメタバースの世界にとって大きな光明だと筆者は感じた。実際に予約は海外からの方が多いそうだ。

※参考:VRChat同時アクセス10万人突破! 5年で人口7倍に! メタバース人口統計レポート【2024年3月最新】

日本から見るメタバースの未来

オフィスも見学させてもらった。ここであのShiftallの変態デバイス群が日夜作られていると思うと胸が熱くなる。

プロトタイプ作成などに使う工作機械 - Shiftall社
壁一面の工具。ここで新商品の開発をしているそう - Shiftall社

今回製品が凄まじかったことはもちろんだが、ヘビーユーザーのニーズを深く理解した、世界を相手に戦えるVRメーカーが日本に存在しているという事実に大きな感動を覚えた。日本は一般メタバース住民が当たり前にテレビ番組に出演したり、メタバースのカルチャーを専門にするメディアが存在するなど、メタバース文化の一般化では世界に先行している側面がある。

筆者とスイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナが全世界のソーシャルVRユーザーを対象に実施した定性調査「メタバースでのアイデンティティ(Nem x Mila, 2024)」では、回答者の39%が「ソーシャルVRのアイデンティティを人生のメインのアイデンティティにしたい」もしくは「既にそうしている」と回答していた。世界的に見ても、一部のユーザーにとって、メタバースでの生活はもはや単なるゲームというレベルではなく「人生そのもの」となっているのだ。

人生のメインのアイデンティティ - メタバースでのアイデンティティ(Nem x Mila, 2024)
VRをメインのアイデンティティにしたい理由
- メタバースでのアイデンティティ(Nem x Mila, 2024)

日本発の「メタバース原住民特化型マシン」が、今後の仮想世界での生き方をさらに加速させていきそうだ。メタバースの未来に希望が膨らむ体験となった。

みんなの感想

視野角・要求PCスペックが気になっていたという声

フリップアップ機能について

激論「MR機能ってぶっちゃけ必要?」

「必要ない」という意見

「必要」という意見

みんなの質問

ケーブルの安定入手性・スピーカーの外付け・内蔵マイクは?

コントローラーは?

参考調査「メタバースでのアイデンティティ」

メタバースでのアイデンティティ(Nem x Mila, 2024)

ソーシャルVRユーザーのアイデンティティの在り方を調査した定性レポート「メタバースでのアイデンティティ」を公開した。自由回答による定性データの分析によりメタバースで広がる”自分らしさ”の多様性が解像度高く浮かび上がった。人類とメタバースの未来に向けたオープンな議論を活性化させるため、全71ページを無償公開している。

参考図書『メタバース進化論(技術評論社)』

バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』は、メタバースに興味を持った幅広い読者の方を対象に、現在のメタバースの真の姿、そしてその革命性をわかりやすく伝える「メタバース解説書の決定版」である。自身も黎明期のメタバースで暮らす"メタバース原住民"の一人である著者・VTuber「バーチャル美少女ねむ」が、自分自身の体験、数多くのユーザーへのインタビュー、そして全世界のユーザー1,200名を分析した大規模調査「ソーシャルVR国勢調査」を元にメタバースのリアルを明らかにする、世界初の「仮想世界のルポルタージュ」である。

本記事で紹介したVRゴーグルやトラッキングなどのVR(バーチャルリアリティ)技術についても、より詳しく紹介している。

FANBOX始めました!

バーチャル美少女ねむ、FANBOXを始めました! もし良かったら無理のない範囲でスポンサーになってもらえると嬉しいです。


いいなと思ったら応援しよう!

バーチャル美少女ねむ/Nem⚡メタバース文化エバンジェリスト
note / Twitter / YouTubeでメタバースの興味深い文化について発信していますので、ぜひ「フォロー」や記事の「いいね」をお願いします。頂いたサポートはメタバースでの生活費や取材費として活用させて頂きます。

この記事が参加している募集