小さいふわふわが家族になった日
私は運命の瞬間に立ち会ったのかもしれない。
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髪の毛を切った、アイシャドウを変えた、そういう他人の変化にはあまり敏感ではない。
しかし感情が関わること - いらいらしている、落ち込んでいる、ときめいている - そういう"ちょっといつもと違うけど何が違うかというと言語化しにくい" みたいなものには敏感だ。
冬の、しんと晴れた日。
旦那さんと私は車に乗ってある"お方" に会いに行っていた。
公式HPで宣材写真は確認済み。
寝起きで機嫌が悪かったのか、目がしょぼしょぼで眉間にしわが寄っているよう。
しかし通常であればかわいさ全面出しの写真が掲載されるはずのそこに、そんな不機嫌な顔写真が載っている"普通じゃない"感じが逆に私たちをときめかせた。
そのお方とは、ねこさんだ。
随分前からいつかねこと暮らしたい、と二人で言っていた。
なんとなく10年後とかそれくらいをイメージしていたのだが、その"いつか"は、2024年の年末年始の台湾旅行を境に一気に現実味を帯びた。
「飼うなら台湾から帰ってきてからだね」
「台湾から戻ったらねこさんのお迎え準備を始めないとだね」
そんな会話が自然と出てくるようになっていた。
どんなねこさんが良いか、どんな準備が必要か、も少しずつ話し合い、いざねこさんとの初対面の時へ。
そして話は冒頭に戻る。
スタッフさんにねこさんをケージから出してもらい、そっと抱いてみる。
全身はグレーで短めの毛。
目は光に当たると透明なグリーン。
口は 「 ω 」 の形。
好奇心は見せつつも、鳴くことはなく穏やかに当たりをきょろきょろと見渡している。
それまで猫カフェのねこさんを愛でたり、のらねこに遠くからラブビームを送る程度のふれあい(?)しかしてこなかった私にとって、腕の中におさまったそのねこさんは、どうやったらこんなふわふわほやほやの生き物が生まれるのか、と真剣に悩み悶えるくらいに可愛いかった。
私が可愛いねぇ、ふわふわだねぇ、とでれでれしているのをそっと見守っていた旦那さんへとねこさんを渡す。
彼の腕へとねこさんがおさまると、彼は「あっ...」と小さく呟き、他人から見ると小さな微笑みだが、私から見るとかなり大きめの笑顔とふにゃっとした、それでいてきらきらな目をこちらに向けてきた。
お、いまのは運命に立ち会ったのかもしれない。
私はそう思った。
「この子、お迎えする?」
そう控えめに尋ねると、「うん、飼おう」と間髪入れず返事がきた。
あ、いまときめいて大きな決断をしたな
そんな瞬間が目の前で起こった、陽の光があたたかい冬の週末だった。