【散文】 分厚い壁のままでよかったのに
朝、シャワーを浴びたあと、ワイシャツに袖を通し、スラックスを履く。
濡れた水着のように、衣類が肌にまとわりつく。
朝はエアコンをつけないから、朝から家中が湿気で覆われている。
次から次へと噴き出す汗は、容赦なく身につけた布切れを湿らせていく。
歩くたびに、歯ブラシに手を伸ばすたびに、まるで意思があるように衣類が手足を引っ張る。
張り付いたシャツやスラックスからは「これは、今に適した衣服じゃないぞ」との声が聞こえる。
その度に、大きめのため息が出てしまう。
なんだって俺は、こんな不快な気分を朝から味わわなければならないのか?
わかっている。
そんなこと、もう20年以上も前からわかっている。
20年前も、夏の朝は不快だったし、同じように不快な衣類に袖を通していた。
20年以上、何も変わらない不快な夏の朝。
そんな朝が、今年も変わらずあり、そして来年も同じように来るだろう。
来るとわかっていても、特段なにも抵抗しない。
だから当然に、不快な朝がまたやってくる。
何もしない社畜は、来年も同じように社畜なのだろう。
+++++++
会社員というのは、考えてみれば誠に惨めな存在だ。
ここから先は
3,649字
この記事のみ
¥
350
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?