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「役員になった自分」という幻想をペロペロしてるお前へ
「こいつは、ポンコツなのに偉い人の真似をしているんだ」
A氏を観察して、やっとその答えに辿り着いた。
僕は金融機関の本部に勤務しており、肩書きは課長だ。
本部の部署ではあるけど、支店で対応できない業務を一手に引き受けるのが任務であり、現場以上に最前線で戦う特殊部隊のような仕事をしている。
なので、部下は精鋭揃いだ。どこでも通用するようなハイスペ人材が下についている。
そんな中で、A氏は明らかに場違いの存在だ。
A氏はもうすぐ60歳になる男性で、僕にとってはずいぶん年上の部下だ。
精鋭揃いのチームの一員なので、それなりの能力があるかといえば、そうではない。全然そうではない。
はっきり言って、無能のポンコツだ。
そもそも、彼は使い物にならなさすぎて、複数回出向させられている。出向先でも苦情になるので、複数回の出向を喰らっているのだ。
そんな彼は、最終的に本部においてどうでもいい商品の専門担当として仕事をしていたが、その仕事の主幹が僕の部署になり、業務とA氏を吸収する形で僕の部下になってしまった。
A氏の上司になったものの、どうしたらいいのか全くわからない。
まず、仕事ができない。
資格試験もろくにパスしておらず、何の知識も実績もないからやらせる仕事がほとんどない。
そして、しょっちゅうタバコ休憩に行く。
数えてはいないが(そんな暇などない)、1日に10回近くタバコを吸いに行く。そんなもの組織として許すべきではないが、役員が吸っている関係でかなり許容されてしまっている。
やらせる仕事はなく、能力もないので営業させても無駄。
困り果てた僕は、上司である部長にこう言った。
「Aさんを指導する気はありません。定年間近の人間にどんな指導も無意味ですし、そのリソースはほかの若い部下に注ぎたい。これが職務放棄であることは自覚していますが、この選択は絶対に正しい。」
A氏は支店長クラス一歩手前の役職であり、それなりの手当をもらっている。またベースアップを繰り返しているので、給料もかなり高くなっている。
その給料に見合うだけの仕事をさせるのが上司の仕事だとわかっているが、そんな不可能なことに時間は使えない。
上司もさすがに、僕の主張に同意せざるを得なかった。
そんなA氏をみていて、おかしな癖があることに気がついた。
周りの席で誰かが話していることに、聞き耳を立てているのだ。
例えば、部長の席で誰かが報告などをしていると、A氏は手を止めてそっちに耳を向けて聞き入っている。そのほかの誰かが話していても、聞き入っている。
最初は何のためかわからなかった。
なにしろ聞いたところで自分の仕事とは関係がないのだから、そんなもの無駄なだけである。
それなのに、彼はなぜそんなにも誰かの話を気にするのだろう。
A氏には興味はないが、その行為には興味があり、観察を続けてみた。
そして、一つの仮説に辿り着く。
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