【たんたた短歌】 滑り台の下で待つ
あと三回 しろくまちゃんを 待ちながら
ふらんすぱんの 香りすいこむ
公園で子どもと遊んでいたとき、地元のFMラジオ局の方に『最近映画を見ましたか?』とマイクを差し出されたことがあった。
ちょうど『あと3回滑ったら帰ろうね』としろくまちゃんの母親のように声をかけていた時だった。もうとっくに昼ご飯の時間を過ぎている。
1回ごまかしたりすると、子が機嫌を損ねてしまい、かえってその後の段取りに悪影響だ。あと3回ね、と約束した後は、”無”の状態で待つようにしていた。
少し考えて、滑り台のてっぺんで手を振る子どもを見ながら『はい、ドラえもんの映画を見ました。』と答えた。
ドラえもんの映画は、テレビよりも絵がきれいすぎて、途中で涙が出てしまうのも事実だが、あまりにも無防備な時に投げかけられた質問だった。
隣にしろくまちゃんの母がいたとしても、同じく無防備だったろう。絵本*の中の彼女は、フランスパンの入った袋を抱えて、滑り台の下でどっしりと待っている。パンは、おいしそうだ。今の季節なら、金木犀の香りが漂うのだろう。
自分のために観に行ったのは、産休に入ってすぐ。ひとりで渋谷に行ったのが最後だった。
次に聞かれたときに答えられるように準備しなきゃ、と思ったのを、たまに公園を通ると思い出す。でもあれ以来インタビューされたことはない。
*『しろくまちゃんぱんかいに』わかやまけん/著 こぐま社/刊
こぐまちゃん短歌 夕焼けダンス短歌同好会